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笑福亭鶴瓶さんがくれた言葉

その日は、わたしにとってとびきりの挑戦の日だった。

夢に向かってがむしゃらに動いては悩んでおり、ずっと燻っていた自分だけれど、行動しなければ何も変わらない気がして、その行動が思いっきり結果につながっていた時だった。
正直、何が起きているかわからなくて、心の中のモヤモヤやぐるぐるを抱えながら、いつもよりもオシャレをして外に出たものの、なんとなく上を向けないまま歩いていた気がする。



わたしは出先でタクシーを待っていた。気づけば時間が過ぎていて、すこし急いでいた。
道路でタクシーを待っていると、わたしの前におばあさんがいらっしゃった。彼女は回送や迎車の車に対しても、細い腕を精一杯挙げていて、その背中を見守るようにわたしは後ろにいて空車が来るのを待っていた。おばあさんが乗ったらわたしも乗ろう。そう思って後ろで待っていた。

音が聞こえた。ズン、という音だった。


いつのまにか、横に笑福亭鶴瓶さんが現れた。

本物かどうか、一瞬で分かった。おばあさんもびっくりしたようで、握手をしていた。わたしの存在に気づいて、「おばあさんのサポートしてくれはったんやな」と言ってくださった。
無事におばあさんはタクシーに乗れて、「ありがとうね」って言葉をくれて、走り去っていった。
わたしと鶴瓶さんは二人になって、でも二人ともタクシーを待っているから同じ方向を向いていて、鶴瓶さんと目が合うことはなかった。

胸がドキドキした。緊張して汗が出た。一気に喉が乾いた。話しかけていいものか、とても迷った。失礼かもしれない。いろんなことを考えて、それでも今めぐり会えたことに何か意味がある気がして、思い切って話しかけた。
「いつもテレビで拝見してます。今日勝負の日で、失礼を承知でごめんなさい。応援の言葉をくれませんか」
そうしたら、まっすぐな力強い目で、こう言った。


「続けなさい。自分が好きだと思うことを、自分を表現することを、とにかく続けなさい」


あっという間に心が掴まれて、「ありがとうございます!」と言ってその場をなんとなく離れた。これ以上一緒にいるのはなんだか野暮な気がしてしまって。心が掴まれた。音がした。
わたし、何も言っていないのに。こういうことをしていて、なにがしたいとか言ってないのに。
なんで鶴瓶さんには分かったんだろう。

間も無くしてタクシーが捕まった。わたしは、鶴瓶さんを先にお乗せするべく、少し遠くにいた鶴瓶さんを呼んだ。
「タクシー捕まりました!お先にどうぞ」
わたしがそう言った瞬間、鶴瓶さんはわたしの腕を掴んで
「あんたもタクシー待ってたんやろ?乗れ!チャンスは掴まなあかん!」
と、タクシーにわたしを(ボスっと音が鳴るくらい)突っ込んだ。

あの言葉がずっと心に残っている。
あの言葉がずっと頭に鳴り響いている。

結局、そのあとのことはうまくいったのだけれど、結果的に自分の中で考えて違う道を選ぶことにして。
自分で決めた道なのに、ずっと迷っている。わたしは、迷いたいのかもしれない。迷っていたいのかもしれないとさえ思う。
けれど、迷って迷って迷って迷って、行動して行動して行動して、そうやって答えを出したいのだ。なんとなくとか、まわりがこうだからとか、そんなのどうでもいいのだ。
自分が納得しなければ、周りを納得させられるものなどつくれるはずがない。最大級の自分でいることが、好きなのだ。最低に付き合ってる場合はないのだ。
自分の中に物差しを決めるのは、心が固い人間がすることだと思っていたけれど、わたしはわたしが目指す世界に行きたい。まだまだいける。そう思っている。

何かをすれば誰かから後ろ指を刺される世界。
生きることに疲れ、体調を崩してSNSから逃避し、憎しみや悲しみを理由に生きようとしていたけれど。
あの言葉が今また思い浮かぶのです。
純度が高くて、温かくて。今まで出会った誰よりも鋭く、何かを突き破るような、鶴瓶さんの真っすぐさに。わたしは確かに心が動いたのです。

裏切られたって、またどうせ人を信じる。
傷ついた分だけ、傷つくことをしている。
自分を責めた分だけ、優しくなれる。
泣いた分だけ、綺麗になれる。
因果応報。すべては自分に返ってくるものだ。
ならばきっとこの出会いは、鶴瓶さんにとっても意味があるものにならないと。
わたしも鶴瓶さんにとっての何かに、なりたい。そう強く思った。

諦めない。
苦しくても、悲しくても、ひとりぼっちでも。
「続ける」ことで何かが見えるのならば。
まだわたしにも未来があるのではないかと。
誰に嫌われようが、傷つけ傷つけられようが、自責の念を忘れない。
感謝の気持ちを忘れない。そういう思いで来れたから、神様が鶴瓶さんに会わせてくれたんだ。

この出会いは、神様がくれたわたしへのご褒美でもあり、試練だと思う。
鶴瓶さんとまた会えるような人で居続けられるように、成長しなさいと、そう言われている気がしてならないのだ。こんなところで挫けている場合ではない。

鶴瓶さんに、いつかまたお会いできたら
ありったけの感謝をこめて。
己のすべてが満開になった姿を見せたいのです。
わたしはあの時あなたに出会えたから、立ち直れたのだと。ここにいるのだと。
お守りでありながら、試練を与えられたような、とても大切な言葉をいただいたから、ここまで来れたと言えるような、そんな。
そんな人になれるように、また生きていこうと思うのです。

続ける、続けていく。
簡単にできることじゃないこと。
続けた先で何が見えるのかなんて知らないけれど。

わたしはわたしを諦めない。
笑福亭鶴瓶さんに、ありったけの感謝を込めて。

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