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生き様は、顔に出る

他人の横顔に、グッとくることが多い。下を向いた時の表情や、こちらではないどこかを見ているそのまなざしに、これまでの人生が垣間見えるからだ。会話をしている途中でふとお互いに止まって、それはきっとなんとなくであろう、その人が横を向いたときの横顔を見れば、こちらには見えないはずのその人の過去が、そこでどんな時を歩んできたかが大体わかる。かっこいい生き様を背負った人の横顔は、なんだかキラキラ輝いている。冷たくて重たい鉛のような過去があったとしても、乗り越えた強さがあることを、その口から語らずとも、横顔が伝えてくれる。

横顔は、自分に嘘をついてくれない。嘘をついている人のそれはどことなく曇るものだし、カッコいいとはいえない。人を見る目というのはそれぞれだけれど、私にとって他人の横顔は、一瞬で見て取れるその人の履歴書みたいなものだ。なにを言っているかわからないとは思うが、これはもはや理屈ではないのだから、わたし自身なにを言っているのか正直わかっていない。

人の生き様というのは、顔にでる。それは、美人やイケメンといった、顔の構造の話などでは決してない。顔つきは、後天的に作られるものであるから、気をつけなければ人は簡単に「ブス」になる。
放つ言葉、見てきたもの、聞いてきた話、食べたもの。誰に触れて、誰に触れられて、どこで住み、誰と笑い、人知れずどこで泣くか。
選択肢が山ほどある迷路のような人生で、選んできたもの全てがその人を構築する。

表情筋を全て使って笑う人は、顔をぐしゃぐしゃにして泣いた過去がある人だ。口角が優しい人は、優しい言葉を紡いで来た証。瞳が潤ってみえるのは、心も潤っているから。
纏うすべてに、これまでの人生が滲みでる。まだ幼かった頃、その深みの本当の意味なんてものはわたしには分からなかったけれど、この歳になってようやく、人の顔がそこにある意味が分かる気がする。
初めましてのあなたが、どこでどう生きてきたのか。どう笑って、何を話し、何を見てきたのか。どこまでも想像でしかわからない他人のその背景は、顔があるからこそ浮かぶものだ。

私たち人間に感性なんてものがなかったとしたら、顔は飾りに過ぎなかった。かわいいも、かっこいいも、キレイも、他人の容姿を褒め称えるそれら全ての言葉は、感性がなければなんの意味も持たない。皮肉なことに、私たち男女は圧倒的に心も体も何もかもが違うから、選ぶ決め手というものがなければ子孫繁栄ができない。一人で生きていけるこの時代で、誰かを選ぶ必要があるのかという耳がいたい質問は置いておいて。

「見た目じゃなくて、中身を見て欲しい」なんて、聞き飽きた戯言を放つ奴にかぎって、大抵は自分こそ他人を「見た目」で判断している。相手が異性であるならば、自分好みの容姿か、連れて歩いても恥ずかしくないか、友達に自慢できるか、セックス中の顔に興奮できるか。あらゆるシーンに相手の顔をはめ込み、損がないとわかればとりあえずは合格。そこから自分で作り上げた粗めのふるいにかけて、それなりに納得ができれば関係性は進展していくように見えるものだ。

おそらくは、おおよそ性欲抜きの関係である同性との関係性は、簡単そうに見えて実は 一番難しい。「友達は一生」なんて言葉があるけれど、相手と一生友達でいれる関係性を築けることは、奇跡にほかならない。
出会ってお互いを知って、話が合えば一緒にいるし、違和感がなければそれなりの友情は生まれる。ときには、自分をよく見せるための何かを持っているから相手に近づく、という場合もあるのかもしれないけれど、お互いにメリットがあればまあいいんだろう。

どんな人間関係にも、表と裏がある。それは見方によってはドライだが、目線を変えて裏側から覗いてみれば今度はたいそうねちっこく見えて、その違いを受け入れてこそ、相手と本当に分かり合えるんだろう。大体めんどうくさいのだ。

「ありがとう」をたくさん伝えてきた人は、愛がにじみ出る。
「ごめんなさい」を素直に言える人は、下を向いた時の表情に綺麗な哀愁が出る。
人を侮辱してきた人の目はそれなりのものであるし、嘘をついてきた人の口はなんだか歪んでいる。たとえ造形が整っていたとしても、この世界ではそれらはいびつなものの他ならない。

わたしは自分の顔を、時々じっと見つめてみる。今日もちゃんと生きれているか、今の迷いに流されていないか。自分の目と対話をする。そうして見えた自分の姿に、時には安堵して、時には反省する。
一昔前だったら、「うっわ、なにこのブス。あ、わたしか」と、その造形に悲壮感漂っていたけれど、今はそんなものはどうだっていいのだ。

外見は、中身の一番外だ。
歩んできた過去は、どんなに悔やんでも変えられない。
背負ってきたその人生を顔に刻んで、明日を迎える私たち。生きた証は、その顔の全てに現れる。誰にも、どんなエスパーにも、占い師にも、隠せない。それが「顔つき」だ。

あなたは、どんな顔をしていますか。

#エッセイ


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