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人工知能の鬱病


自分でつけたのですがなんとも不可解なタイトルですね。

鬱病にかかった人工知能とは一体どのような状態なのでしょうか?
まず、鬱病を発症するためには精神の存在が必要不可欠であるように思えます。


時代と共に特化型人工知能が人間生活に溶け込んできており、今後も技術の進歩は続くと思われます。シンギュラリティを迎える頃には汎用型人工知能が完成していると考えられていますが、もし汎用型人工知能が完成すれば、それらは心を持っているかもしれません。

そうだとすれば、精神疾患という言葉について深く考える必要がでてきそうです。


ということで今回は、人工知能と人間の精神疾患を紐づけて考えてみたいと思います。


まず初めに、Hutan Ashrafian(アシュラフィアン)氏の "Can Artificial Intelligences Suffer from Mental Illness? A Philosophical Matter to Consider"(人工知能も精神疾患を患うのか?それについて考えるための哲学的事柄)という2017年に発表された論文の一部を引用します。


From a philosophical point of view it can be argued that it is essentially impossible to define if anything other than oneself is conscious, however from a practical angle, the development of technologies that manifest conscious minds in the form of artificial intelligences continues to make numerous forward strides. If these artificial minds function to offer consciousness, then they also have the potential to become dysfunctional so that they may exhibit mental illness. (Ashrafian).

(日本語訳:哲学的観点から言うと、自己以外が意識を定義することは本質的に不可能である。しかし実用的な側面から見ると、人工知能が精神に由来する意識の存在をはっきりと示すことのできる技術の発達が人工知能における更なる技術進歩を生むと言える。もしもその人工的な精神が機械に意識を与える機能を果たすなら、それは同時にその人工知能が機能障害(人間でいう精神疾患)に陥る可能性を持つことを意味する。)

※論文を読んだ上で意訳をしました。


説明し直すと…
人間は精神によって意識を有し、その精神の存在が精神疾患の原因になっているとされる。人工知能に、人間で言うところの精神(のような機能)を実装することができれば、人工知能に意識を生み出せるかもしれない。しかし、人間にとって精神が精神疾患の原因であるならば、人工知能にとっての精神も機能障害の原因になり得る。

このように言っているわけですね。


やはり精神の存在と精神疾患は切り離せないように思えます。精神を実装するのはいいが、それによって生じるであろう副産物にも目を向けなければならないということです。




ここからは人工知能における精神疾患に関連して、Zachary Mainen(マイネン)氏のプレゼンを紹介したいと思います。

2018年3月16~18日にアメリカのニューヨークで開催された
Canonical Computation in Brains and Machinesというシンポジウムにて、マイネン氏が非常に興味深い発表をしました。
↓(英語が分かる方は是非動画をチェックしてみてください!)


プレゼンの中身を簡単に解説します。


彼は人間の体内に存在するセロトニンと呼ばれる物質に関して、マウスを用いた実験とその研究結果を発表しました。


セロトニンは鬱病の治療に効果的とされている物質として有名なのですが、人間の体の中には約10mg存在するとされ、そのうち2%が脳と脊髄にあると言われています。


マイネン氏はセロトニンが脳内に蓄積された各記憶に重要性を与え、それによって学習のスピードが速まるということを“セロトニンが認知的柔軟性を高めた” という言葉で発表しました。



認知的に柔軟とはどういうことか簡潔に説明すると…

知識を独立したものとして捉えるのではなく、他の知識とつなげて知識のネットワークを構築し、それぞれに関係性を持たせること。

そして、その知識のネットワークによって学習を効率的に進めることができる。



例を挙げます。

あなたが小学1年生に引き算を教えている状況を想像してください。
彼は引き算がとても苦手で  11 - 2 = 9 という簡単な数式の理解に時間がかかってしまっています。そこであなたは彼がサッカーが大好きだということを思い出し、「君のチームの選手2人が退場になったら残りは何人?」と聞くと彼は「9人」と答えることができました。

今回、この小学生が問題に正解したことは重要ではありません。

あなたは、
“11 - 2 = 9 という数式”
“小学生がサッカー好きということ”
“一方のサッカーチームの2選手が退場になったら残りは9人”

これらの知識を繋げてこの小学生に説明をしたわけです。

これがいわゆる“認知的に柔軟”な状態をあらわしています。




さて、現在僕たちの身の回りに存在する特化型人工知能が有する欠点は“能力をただ1つの領域でしか発揮できない点”、“簡略化された思考法を持たない点”などが挙げられますが、人工知能が今後さらに高度な知能を手に入れると、それによって生じる問題はないのでしょうか?
※“簡略化された思考法”に関してはこちらを参照してください。

絶対にないとは言えませんね。

より高度な知能を獲得することによって生じるであろう問題の1つが人工知能における鬱病なのです。


鬱病というものはみなさんもご存知の通り、様々な症状を引き起こす精神疾患として知られています。鬱病患者の脳内ではセロトニンの量が少ない場合が多く、さらに多くの鬱病患者にとっては新しい環境に適応することが困難であるとされています。


新しい環境に適応できなのは、それまでに属していた環境での考え方をそのまま新しい環境に適用しようとしてしまうからです。この状態は認知的柔軟性が低いと言えます。


人間はちょっとした困難に直面した際に記憶の中からその状況に似たものを記憶の新しい順に探すことができるということが分かっています。(認知資源の限界によりそうせざるを得ない。)つまり人間は記憶に優先順位をつけることができるということです。

しかし人工知能はアルゴリズムに基づいて動くものなので、学習した内容に(記憶)優先順位をつけることはできません。
基本的に人工知能にとって学習した内容はどれも等しく“学習済み事柄”なのです。

人間が記憶に優先順位をつけることができるのはセロトニンの働きによるものと考えられているので、人工知能にセロトニンと同等の機能を実装できれば、人工知能に思考の柔軟性を与えることができるかもしれませんね。


しかしそれは同時に、人工知能が機能障害(鬱病)を起こしてしまう可能性も孕んでいるということになってしまいます。

セロトニンが人間にとって認知的柔軟性を高めたり低めたりするのであれば、人工知能にとってのセロトニンも同じような働きをするであろうということです。


このような意味で、人工知能が鬱病になる可能性は十分に考えられるでしょう。


人工知能にとっての鬱病とは、既存のアルゴリズムに固執してしまうことで新たな学習になんらかの支障をきたしてしまうということ。あるいは、一定の思考回路から抜け出せなくなってしまうことを意味すると思ってください。



知能が高度なものになればなるほどそれに伴う問題は複雑なものになてしまうのかもしれないのですね。




まとめ


人間でいう精神に当たるものを人工知能に実装できれば、人工知能が機能障害を起こす可能性が十分に考えれれる。

脳内ではセロトニンが認知的柔軟性に影響を与える

人工知能にセロトニンと同等の機能を実装できれば、認知的柔軟性を与えることができるかもしれないが、それは同時に人工知能が機能障害を引き起こす可能性を有することになる。




参考文献


Ashrafian, Hutan. "Can Artificial Intelligences Suffer from Mental Illness? A Philosophical Matter to Consider." Science & Engineering Ethics, vol. 23, no. 2, Apr. 2017, pp. 403-412. EBSCOhost, doi:10.1007/s11948-016-9783-0.

Greene. “Future AI May Hallucinate and Get Depressed -- Just like the Rest of Us.” The Next Web, 9 Apr. 2018, thenextweb.com/artificial-intelligence/2018/04/10/future-ai-may-hallucinate-and-get-depressed-just-like-the-rest-of-us/.




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