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若さってなくなっちゃうものなのかな?

先週Netflixの新作としてリリースされた
「きみの鳥はうたえる」を鑑賞した。
映画が放映されてた当時も、
観たいな~と思っていたのだが、
なんだがタイミングを逃してしまった一作だった。

原作は『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』 『オーバー・フェンス』 の原作者・佐藤泰志の小説『きみの鳥はうたえる』である。
監督・脚本は三宅唱さん。
音楽、映像の切り出し方ともに、
すごく好みのタイプだったので、ほかの作品もみてみたい。

本作は函館市にすむ平凡な若者3人の刹那的な日常を描きながら、その無為な日常のはかなさ、愛おしさを存分に引き立たせた魅力的な作品だ。

登場人物は、主人公で書店のバイトである<僕>、
<僕>の昔のバイト仲間で同居人である静雄、
そして<僕>と同じ書店でバイトをしている佐知子の3人がメインであり、
3人が織りなす、人間模様が映し出されている。
キャストもかなり豪華で、<僕>を柄本佑、静雄を染谷将太、佐知子を石橋静河が演じている。皆、演技派ぞろいで見ごたえがあった。

以下かなりネタバレを含むので、
映画を見てない、かつ情報入れずに見たい方は
以下は鑑賞後ご覧いただけたら幸いです。
別記事で紹介した「SAVETHECATの法則」の脚本構成(BS2)的な視点から、本作を分解し、その魅力に迫りたいと思う。
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タイトル:きみの鳥は歌える
ジャンル:金の羊毛
(主人公は何かを求め旅に出る、のちに違う何か(自分自身)を見つける)

1:オープニングイメージ
ー「僕にはこの夏がいつまでも続くような気がした、
9月になっても、10月になっても、次の季節はやってこないように思える」という<僕>の語りから始まる。
映画全体を通して、フィルムカメラで撮ったようなタッチで青がきれいに映える印象を受けた。
音楽はオルタナティブな感じで、浮遊感のある曲調だと感じた。

2:テーマの提示
ー本作の主題は、「すべては永遠じゃない、死や別れがある」ということだ。
その象徴的なシーンが直子と静雄の冒頭の会話。静雄の母である直子は「もし私がぼけたら、変な治療なんかしないで、その時は殺してね」なんて冗談交じりで伝える。静雄も「わかったよ」なんていうけど、まだ〝近い現実”とは感じていない。別れや死は、いつも突然なのだ。

3:セットアップ(主人公に必要なものや欠けている部分の提示)
ー主人公である<僕>は、とにかく誠実じゃない。
「お前ってホント嘘つきだな」と、バイトの同僚である森口に吐き捨てられる。常に適当で、他人に興味がなく、嘘をつく。だからバイトは勝手に休むし、休んだ理由も嘘をつく。佐知子との約束もすっぽかす。
表裏がなく自分に正直ではあるものの、肝心なところでも誠実になれない主人公の未熟さが露呈している。

4:きっかけ(主人公の人生を変えるようなきっかけ)
ーこれはきっと佐知子との出会いだ。
冒頭で<僕>は、「そんなに親しくない女を待ったのは、”はじめて”だった。」と語る。彼にとって、佐知子は、どこかこれまでの女とは違ったのだろう。
なんとなく惹かれた二人は、なんとなく一夜を共にし、
なんとなく一緒にいるようになった。
虫も殺さないほど優しすぎる静雄は、二人の関係を察しつつ、仲のいい友人として3人の関係がスタートする。

5:悩みの時(何かしらの疑問を抱かせる)
ー悩みの時だけに、ちょっと迷ったのだか、静雄が不意に「今度さ、一緒に映画見ようよ」と佐知子を誘ったことではないか。
優しすぎる静雄が、2人の関係を壊すことはないと思っていた<僕>にとって、誘ったことが予想外だった。そしてその予想外な行動に、動揺する自分にも驚いていたはずだ。

6:第1ターニングポイント
(古い世界(テーゼ)を出て新しい世界(アンチテーゼ))
ーここは<僕>が静雄に、自ら「映画行ってくればいいじゃん」と発したことではないか。これまで静雄が察していた側だったが、初めて<僕>が察し、静雄を尊重した。というか、静雄に佐知子を〝奪われまい”、とも思っていたのだろう。
どちらにせよ、<僕>は、譲ってしまったのだ。

7:サブプロット(ちょっとした場面転換、それまで登場しなかった人物)
ーここもちょっと迷ったけども、たぶん佐知子と、バイト先の後輩のみずきとの会話のシーンだろう。
みずきは、<僕>のように他人に関心がないわけでも、静雄のように察しすぎるわけでもない。その証拠に、皆が聞きにくい、佐知子とバイト先の店長の関係を、率直に聞いてくるような子だ。
みずきは「恋愛ってなんでみんな嘘つきなんだろうか?」「最近自分すら老いてきた気がする」という。
佐知子はこのシーンで、なんとなく続くと感じてるこの楽しい日々の源である若さが、なくなっちゃうものなのか?とふと疑問を抱く。

8:お楽しみ(お約束を果たす場面、ポスターや予告で使った部分)
ーこれは3人夜通し楽しんだ、夏のクラブでの一夜が当たるだろう。
音楽に身を任せ、その場の人とショットをのみ、観ているこっちまで気持ちよくなってくるシーンだった。これは、観るのが一番早い。

9:ミッドポイント(主人公が絶好調、絶不調になる/危険度が一気に増す)
ー3人で楽しく過ごし、佐知子は、実は続いてた店長との恋人関係を切るといい、口うるさい同僚の森口もぎゃふんといわせ、
<僕>が、適当に過ごしながらも、一見調子よく進んでいるように見える。このあたりを放出させるシーン全体が、ミッドポイントだろう。

でも主人公はまだまだこれから、本当の教訓を学ばなくちゃいけない。
佐知子との恋愛観の相違、店長から大事にしてほしいと託された佐知子の存在、森口との不仲、そして距離が近くなる静雄と佐知子、
なんとなく<僕>に振りかかる危険信号を感じる。

10:迫りくる悪い奴ら(悪い奴ら(課題)が一致団結し、パワーアップ)
ー<僕>の孤独に焦点が当てられる。佐知子と静雄は明らかに距離を縮めているし、新しく入ったバイト(長谷川)とみずきはいい感じだ。
適当に歩いてたら、恨みをためた森口に奇襲を受け、ボコボコにされる。

11:すべてを失って(ミットポイントとは逆の効果、死の気配)
ーここは、静雄の母が突然倒れたことだ。
ちょっと過保護で、静雄からの連絡がないことに心配し、倒れる2日前には、わざわざ家まで確認しに来た静雄の母が、倒れたという知らせが入ったのだ。
これまでの日常の終わりを感じ始める。

12:心の暗闇(悟りのシーン)
ー母が倒れた連絡をうけたものの、朝までどうしようもない3人は、いつまでも続くと思っていたある日の夏と同じように、ダーツをし、ビリヤードをし、卓球をし、無為に夜通し楽しんだ。
違うことは、曖昧ではあるも、3人での日々が最後だと感じる点だ。

「遊んでたから、バチがあたったのかなあ」と静雄は言う
「遊んだり、飲んだりして、何が悪いの?」と佐知子は言う。
「佐知子はわかってないなあ」と静雄は言う。
きっと静雄も<僕>も、なんとなくこの夜が3人の最後だと、変わらないものはないのだと、悟っている。

13:第2ターニングポイント(メインプロットとサブプロットが出会う)
ーいよいよだ、佐知子は「静雄と、ちゃんと、恋人として、付き合うことになった」と伝える。佐知子は、ウソなく<僕>に伝えたのだ。
僕はウソばかりつき、はたや2人は誠実に恋愛をしていた。
静雄と佐知子の関係を聞いてもなお、「そんな気がしていた」「静雄と佐知子が出会えてよかった」なんて、また嘘をつく<僕>。

14:フィナーレ(教訓を学び、主人公の直すべき点が直り、新たな世界)
ーいよいよ本当に佐知子と別れるとなったとき、出会うきっかけとなった
肘を触るサインを佐知子から受けて、また佐知子が自分に戻ってくると期待をする。
120秒待ってみようと思うも、待ってちゃだめだと気付く。
ちゃんと本当のことを伝える以外に、術がないと気付く。
その時<僕>は必至に走り、佐知子に思いを伝える。

15:ファイナルイメージ(本物の変化が起きたことを見せる場)
ーこれは佐知子に思いを伝えたときの<僕>の表情、そしてそれを受けた佐知子の微笑みが示しているだろう。3人がどうなったかは示されない。
しかし、主人公はちゃんと成長し、気が付き、明るさを持った変化が佐知子の微笑みからも感じられる。
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総じて、すごく日常の小さな変化をとらえ、
友情、家族、恋人に対する日々の尊さを教えてくれる素敵な映画だった。
どんな人でも楽しめる映画だと感じたので、
気になった人はぜひ見ていただきたい次第である。
後は映画の見方に正解などないと思うので、
違う解釈はぜひ教えてほしい。

とりあえず、母に自分から連絡をしてみた。

P.S. 垂れ流しの感想
単純に、構成ってこんなに面白いのか!!とびっくりしてしまいました。
ある種の映画構成を意識してみたのは初めてだったが、これまでぼんやりとみていた要素に、少し気付きが多くなった気がします。
びっくりするぐらい、予告編って秀逸に作られてますね。

とはいえ、構成ばかりでなくなんとなく見て感じることも、本質的な楽しみ方だとはおもい、上記以外に思ったことを以下に。

まずは、映画の雰囲気とか音楽のチョイスがまあ良い。
全体として、フィルムカメラで撮ったような色味。
ちょっと粗くて、でも紺とか水色とか、青っぽい色がきれいに映えるような、そんな印象ですごくよかった。
スキなんですよね、いわゆるエモいってやつ。

あと、夏の朝5時ってめちゃめちゃよくないですか?
死ぬほど遊んで、ほろ酔いになってたらなおよし。
その最高の夏の詰め合わせシーンがあって、ただ飲みたくなりました。

あとは、柄本佑かっこよすぎますね。
いや、ここまでかっこいいのか兄。
私は肩幅が広い男が好きなのですが、いい体でした。
個人的に安藤サクラも大好きなので、夫妻で好きです。
演技がうますぎますし。

最後に、男女の友情は成り立つのかという
古代から根深い問題を、この映画から感じました。
結局これって、女性の可愛さ次第な気がしたりするので、男女の友情は成り立つ派なんですが、
自分の男2人女1人や、逆に女2人男1人とか
3人で遊ぶのが割と多いので、興味深いなって思いました。

いい感じの男女を察して、私コンビニで30分待機したこと、あったなあ。
基本的に私はいつも静雄の位置です。
それは冬の夜でした。

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