第二次人工知能ブーム時の「エキスパートシステム」とは


1970年代に第二次人工知能ブームが起きます。

エキスパートシステムはコンピューターに「知識」を与えて人工知能を賢くするという試みです。


エキスパートシステムとは、コンピューター技術の進歩により、データベース(知識)を利用することができるようになり、それによって、新しいソフトウェアが開発されるようになりました。その分野のエキスパート(専門家)のように振る舞うプログラムであることから、「エキスパートシステム」と呼ばれます。


エキスパートシステムで有名なものに「Mycin 」がありますが、その前に、その前身となるスタンフォード大学が開発したdendral(デンドラル)と呼ばれるエキスパートシステムがありました。未知の有機化合物を質量分析法で分析し、有機科学の「知識」を使って新たな有機化合物を特定するというものです。アメリカのエドワード・ファイゲンバウムという人が中心となって開発されました。


DENDRAL の後、エキスパートシステムで最も有名なMycin (マイシン)が、スタンフォード大学で開発されました。
「マイシン」は、血液疾患の患者を診断することを専門としたシステムです。それ以外のことはできません。「マイシン」は、患者の様々な質問に答えていくと、その患者に合った薬を処方することができます。

人間の医師に代わって診断することを目的として作られました。「if(もし)」〜なら「then(そのときは) 」〜というようなルールを記述しておき、マイシンと患者の会話を通じて、どのような薬が必要か特定していくという仕組みです。


この時、マイシンは69%の確率で正しい診断ができたといいます。この数字は専門医などのベテランの医師にはかなわないものの、新人の医師や専門医以外の医師よりは、正しい判断ができることを示しました。


このような結果にアメリカンをはじめ、日本や欧州など先進国各国で注目されるようになり、様々な分野でエキスパートシステムが作られるようになります。


日本でも、当時の通産省が550億円を投じて「第5世代コンピュータープロジェクト」を発足。当時の通産省は、人の脳を超える人工知能をつくることを目標とし、医学の診断やその他の分野の高速な機械制御、正確な機械翻訳、自然言語処理など多大な期待を抱き、様々なプロジェクトを立ち上げました。


この日本の「官民一体」で高度な人工知能を開発しようという状況に、DENDRALを開発したアメリカのエドワード・ファンゲンバウムは危機感を抱き、欧米で危機を煽ります。その後、エキスパートシステムによる人工知能の過熱ぶりは世界中でピークに達しました。この状況に日本のマスコミも大々的に取り上げました。

しかし、エキスパートシステムによる人工知能の開発は失敗に終わります。

実際に多額の資金が投じられて進められたにもかかわらず、出来上がったものは、期待されたものとは相反するものでした。
知識というのは、記号で書かれるような、言葉で書けるほど簡単なものではなく、常識のようなものがあって、初めてノウハウがわかります。コンピューターにはそれができないので、人間がすべてプログラムを書きコンピューターに指示をしなければなりません。

「マイシン」は確かに、「血液疾患の患者に見合った薬を処方する」という極めて限られたタスクの中では、有効だったわけですが、人間社会のような複雑な社会では、そのタスクは膨大です。「マイシン」は「血液疾患の患者に見合った薬を処方する」というタスクだけにもかかわらず、膨大な知識を教えなければならす、相当な時間や労力が必要になります。それをほかの病気全てで行うことは、現実的ではありません。

また、エキスパートシステムは知識をコンピューターに与えるために専門家からヒアリングをして知識を取り出す必要がありました。さらに知識を増やしていっても、その知識がお互いに矛盾していたり、一貫してなかったりすると、その調整も必要になります。


また、人間の感情や痛みなど、心や、体といった人間特有の特徴をコンピュータに理解させることが難しく、研究者は困難を極めました。

このような理由により、エキスパートシステムによる第二次人工知能ブームは停滞していきます。

この状況に、ファイゲンバウムは以下のような言葉を残しています。「第5世代は一般市場向けの応用がなく、失敗に終わった。金をかけてパーティーを開いたが、客が誰も来なかったようなもので、日本のメーカーはこのプロジェクトを受け入れなかった。技術面では本当に成功したのに、画期的な応用想像をしなかったからだ。」

エキスパートシステムによる第二次人工知能ブームは停滞を迎えましたが、当時日本では多くの研究者が人工知能の研究に携わりました。その知見は決して無駄ではないと思います。実際、昔人工知能に携わった研究者は、現在の人工知能のブームを好意的に受け止める方が多く、現在の人工知能の研究をバックアップされてる方が多くいます。

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