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【戯曲】泣いた赤鬼と鶴の恩返し 第5話(最終回)

赤鬼   青鬼、やっと見つけたぞ
よひょう つう、おらだ、よひょうだ! しっかりしろ!

ナレーターA よひょうはつうの枕元で何度も呼びかけました。

青鬼   赤鬼、どうしてここに
赤鬼   お前を探してここまできたんだよ。この鶴はどうしたんだ?
青鬼   旅の途中で助けたんだ。けれども、傷ついたからだで無理に飛び
    続けたようで、かなり弱っている。もうだめだろう

よひょう ・・・そんな、つう!
青鬼   おそらく、明日までは持たない
よひょう つう! おらが悪かった。頼むから死なねえでくれ!

青鬼   赤鬼、これは一体どうしたことだ。あの鶴はなんなんだ
赤鬼   ・・・この鶴は、ただの鶴じゃないんだ。このよひょうの奥方
    なんだ
よひょう つう、つう。頼む、おらを置いていぐな。やっとわかったんだ。
     おらは、お前さえいでくれたらそれでなんもいらねえ。金なんか
    いらねえ。頼むから死なねえでくれ!

ナレーターB  よひょうは泣き崩れました。その時、赤鬼と青鬼が顔を見合わ
    せ、強く頷き合いました。

赤鬼   ・・・青鬼、俺たちの力を使う時が来たんじゃないか
青鬼   ああ、俺もそう思っていた

ナレーターA 泣いていたよひょうは顔を上げました。

よひょう ・・・なんだべ? 『力』って
赤鬼   実はな、俺たち赤鬼青鬼が揃うと、奇跡を起こすことができる
よひょう ほ、本当だか?
青鬼   ああ。ただし、百年に一度だけな
赤鬼   よひょう、ちょっとそこをどいてくれ
青鬼   いくぞ

ナレーターB  赤鬼と青鬼は手を重ね、つうの身体にかざしました。すると
    2人の身体から光があふれてきました。

よひょう ・・・!

ナレーターA  その時、よひょうの背中で荷物がつよく光り始めました。
ナレーターB  よひょうは急いで包みを開け、反物を取り出しました。

青鬼   そいつは超鶴反ちょうかくたんじゃないか
赤鬼   ああ、しかもこれほどのものは、俺も見るのは初めてだ

ナレーターA  赤鬼と青鬼は呼吸を荒くしながら、不思議な力をつうに注ぎ込ん
    でいきます。
ナレーターB  やがて、ぐったりとして浅い呼吸をしていたつうがうめき声を
    上げました。

よひょう つう!
赤鬼   よし、今だ。よひょう、その反物を鶴の体にかけるんだ


ナレーターA
 赤鬼の声に、よひょうは反物を広げ、つうの身体を覆いました。

M11【最愛】

夢のような人だから
夢のように消えるのです
その定めを知りながら
めくられてきた季節のページ

落ちては解ける 粉雪みたい
止まらない想い

愛さなくていいから 遠くで見守ってて
強がってるんだよ でもつながってたいんだよ
あなたがまだ好きだから

もっと泣けばよかった
もっと笑えばよかった
バカだなって言ってよ
気にするなって言ってよ
あなたにただ 会いたくて


ナレーターB  ほこらの中は強い光に包まれました。あまりの眩しさに、
    よひょうは目を瞑りました。

ナレーターA やがて光が収まり、ほこらのなかは水を打ったように静かになり
    ました。

ナレーターB  よひょうが恐る恐る目を開けると、肩で息をする赤鬼と青鬼の間
    で、人間の姿に戻ったつうが身体を起こしました。

よひょう つう!

つう   ・・・あんた・・・
よひょう よかった、つう。本当によかった
つう   ・・・あんた、どうしてここに
よひょう おめこそ、どうしておらの前からいなぐなっちまったんだ。
     おらはな、おらは・・・

ナレーターA  よひょうはもう、言葉になりませんでした。
ナレーターB  つうも顔を覆って泣き出しました。そして、よひょうの手に自分
    の手を重ねました。

ナレーターA やがてよひょうとつうは立ち上がり、赤鬼と青鬼に深く頭を下げま
    した。

よひょう 赤鬼、青鬼、本当にありがとう。なんてお礼を言ったらいいが
赤鬼   いや、なんてことはないさ
よひょう でも、二人ともひどくくたびれてるべ
青鬼   いや、最高の気分だ

ナレーターB  赤鬼と青鬼は顔を見合わせて笑いました。

赤鬼   さあ、青鬼。一緒に帰ろう。頼むから、もう俺の前から黙って
    消えたりしないでくれ
青鬼   でも・・・
赤鬼   心配するな。村の人たちには俺からちゃんと説明する。でもな、
    もしそれで村の人たちから嫌われたってかまわないんだ。俺には
    青鬼、お前がいてくれたらそれでいいんだ
青鬼   赤鬼・・・

ナレーターA  赤鬼はよひょうとつうに向かって言いました。

赤鬼   よひょう、そしてつう。あんたたちも俺たちの住んでいる里に
    来ないか。聞くところによると、あんたは領主さまに無理やり反物
    を織れと言われたそうじゃないか。そんなところへ戻っても、また
    ひどいことになるんじゃないか
青鬼   そうだ、それがいい。俺たちがついていたら、力になって
    やれる

ナレーターB  よひょうとつうは顔を見合わせ、嬉しそうにうなずきました。

よひょう ありがとう、赤鬼、青鬼
つう   ありがとうございます


ナレーターA
  赤鬼、青鬼、よひょう、つうの四人は顔を合わせて笑いました。

全員   さあ、家に帰ろう


M12【わたしの青空】

夕暮れに あおぎ見る
輝く 青空
日が暮れて辿るは
我が家の細道
狭いながらも 楽しい我が家
愛の灯影の さすところ
愛おしい 家こそ
わたしの 青空


よひょう、つう、赤鬼、青鬼、ナレーターA、ナレーターB 舞台袖へ


よひょう、つう、赤鬼、青鬼、ナレーターA、ナレーターBが再登場
バックダンサーたちと共に舞台へ


M13 【新宝島】

次と その次と その次と線を引き続けた
次の目的地を描くんだ
宝島

このまま君を連れて行くと
丁寧に描くと
揺れたり震えたりした線で
丁寧に描くと 決めていたよ

次も その次も その次もまだ目的地じゃない
夢の景色を探すんだ

このまま君を連れていくと
丁寧に歌うと
揺れたり震えたりしたって
丁寧に歌うと 決めてたけど

このまま君を連れて行くよ
丁寧に描くよ
揺れたり震えたりしたって
丁寧に歌うよ

それでも君を連れていくよ
揺れたり震えたりした線で
描くよ
君の歌を


照明、切り替わる
幕が下りる

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