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逢花

啓蟄過ぎ、
暖かい陽射しと芽吹く花、歓び。
これまでじっと耐えてきたことに対する怒り。

自由になって、眠っていたからだが動き出せる歓び。
縛りを受けていた底知れない年月の哀しみと怒り。

自由になって、涙が出る。
春が来るとは。
花が芽吹くのを謳歌(逢花)すること。
檻の中にいて凌辱され剥奪されていたことの自覚に、
怒りと絶望が噴き出すこと。

解放と共に、風に乗っていのちが、大きく広がること。
深く息を吸って、噴霧される毒に、悔し涙を流すこと。

やっと凍てついた冬をくぐり抜けて、ゆるむ春を迎えられたことの、安堵をかみしめること。
春を、迎えられなかった人の悲しみが、そこに同時にあること。

いのちが再生すること、
再生し得なかったものが大地の眠りから、目を覚まして浮遊すること。

浮かび上がるもの、
幾千幾万もの粒子が飛び交って、
それは、見えるものも、見えないものも、色とりどりに。

新しく生み出されるものに、右往左往、涙を流しながら、歓びと怒り、安堵と痛みを行き来し、
そうしている間にも、
一つひとつが芽吹いていく、

オオイヌノフグリが、
タンポポが、
ハナモモが、
乙女椿が、
一足早かった豆桜は、
もう葉桜に。
古い大木切られて、植え替えられたソメイヨシノ。

コブシ。

こうして、全てが待ちに待って、一斉に満天に咲いていくごとに
やっと、ゆるせるようになる。

受け取って、いいということ。
与えられて、いいということ。
歓びを、謳歌していいということ。
倖せを、享受して、いいということ。

こんなに溢るるものだと知らなかった。

「受け取っていいんだよ」 
降り注ぐ満天のコブシが言う、豊かに薫りながら。


淡き光立つ にわか雨
いとし面影の沈丁花
溢るる涙の蕾から
ひとつ ひとつ香り始める
・・・
春よ 遠き春よ 瞼閉じればそこに
愛をくれし君の なつかしき声がする
春よ まだ見ぬ春 迷い立ち止まるとき
夢をくれし君の 眼差しが肩を抱く

「春よ、来い」松任谷由実


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