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眠る麻酔と採卵



※このnoteは2022年8月に書いたものです。
2023年5月に無事出産いたしました!

「それでは、目を閉じて一緒に数字を数えてくださいね~」

頭の中に次第に霧がかかっていくような感覚に包まれる。
   
「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11…」
(まだ眠くならないけど大丈夫かな)

意識が残ったまま手術が始まるところを想像する。怖い。

「12、13、、14、15、16…」
(あ、看護師さん13で噛んだな)

「麻酔増やして」とお医者さんの指示が聞こえてくる。
なんか、まだ起きててごめんなさい…とちょっぴり申し訳なくなる。

「17、18、19…」

        ***

「はい、車椅子に移動するので私に捕まってくださいねー」

看護師さんの声がする。
目は開かないけれど、ふらふらと力の入らない身体を誰かに支えられて、私は車椅子にもたれかかる。

私「数を数えてたらいつのまにかうにゃうにゃ…」

看護師さん「あはは、うにゃうにゃ…」

車椅子で移動する間、
看護師さんに寝惚けた自分が何と話しかけたのかも、
それに看護師さんがどう返したのかも全く思い出せない。

ただたどり着いたベッドの上で、私は「エアコン寒いな」と思いながらもう一度眠った。


2022年8月。
いよいよ体外受精をする決断をして、
初めての採卵、初めての静脈麻酔をした。

「採卵」とは字の通り、「(体外受精するために)卵を体内から採取する」手術だ。

静脈麻酔を使うのは通っていた病院の方針のおかげなのだが、病院によっては無麻酔で行うこともある。

体外受精の行程の中で「恐怖の激痛」といわれる採卵を、眠っている間に済ませてもらえるなんて本当にありがたい。 

要点の掴めないクレームの電話に「はい。。」と情けない返事をしている時とか、 
満員電車で知らないおじさんとプリキュアみたいにぴったり背中合わせで立っている時とか、

そういう日常の「ちょっと記憶飛ばしていたい場面」も、全て静脈麻酔している間に済ませたいもんだと思った。笑

終わった後にそんなことを考えるくらい、
採卵の瞬間はきれいに頭から抜けていて、

頭上にあった如何にも「手術室のやつです」という感じの4つ連なったライトや、
看護師さんの数を数える穏やかな声しか覚えていなかった。(どちらも眠る直前のもの)

「体外受精」なんて、
聞いたことはあってもあまり馴染みのある人はいないだろう。

SNSの幸せな出産報告に、
「まじバッキバキに体外受精して大変でしたよ~」と明け透けに書く人はあまり多くないし、

私の周りでお母さんになった友達も、他の不妊治療は経験していても体外受精まで経験した友達はほとんどいない。

そもそも、体外受精に進む女性の平均年齢は、私の通っていた不妊治療専門の病院でも「37歳」と明記されていた。

これから三十代に突入する自分たちには、まだ馴染みがなくて当然だ。

だけど今、日本の16人に一人の赤ちゃんが、体外受精で生まれている。

知られていない、だけど、確かに、確実に、
この「バッキバキな体外受精」を乗り越えてきたお母さん達がいるのだ。

想像してほしい。

採卵の大変さを。

2週間以上毎日行った自己注射、
(一度誤ってお腹の中でねじってしまい、切腹みたいになってすごく痛かった)

日に日に強くなる吐き気、
(私は自己注射した直後が特にひどかった)

ぱんぱんに膨らんでいって苦しいお腹。
(薬の力で、本来は月に一つだけ作られる卵が15個くらいお腹の中にある)

身体の負担は大きかった。

そして無事に採卵が終わった後も、
体調は回復するどころかますます悪くなって、
術後の検査では「あと一歩で入院だね」とお医者さんに言われてびっくりした。

採卵の次は受精と培養、そして移植だ。

きっと薬の副作用はこれからも続く。
だけど、頑張りたい。頑張れ。









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