同じところもあったね

私たち夫婦は違う所ばかりだった。まずは男と女で性別が違う、当たり前だけど。

映画は恋愛映画、彼はSF映画が好き。機械音痴の私と反対にメカにはめっぽう強い彼。車の修理も自分で出来るほど。将来ガレージで車をいじるのが夢で、そのためにバイナリーを学んでいる。

語彙力のない私にボキャブラリー溢れるツッコミを入れられるのも違っているから出来る事。

そんな私たちでも同じなのは、「お人好し」な所だった。



昨日、仕事が遅くなり私たちは外食に出かけた。何を食べるかは大体夫の独断、私の食べたいものはお構いなし。大好きなラーメンを食べに出かけた。
日曜日の夜は想像通りたくさんのお客さんで賑わっていた。ザワザワする店内、2つのラーメンと主人はご飯を頼んだ、2人ともネギ抜きで。薬味のネギが嫌いなのも共通点。若い店員さんが注文をくり返す「以上でよろしかったですか?」一緒にはいと頷き、到着するまで特に会話を交わすことなくお互いスマホを眺める。どこで外食をしても多くの事を語らないのが私たちのスタイルだ。どこにいても自然体な私たちだった。

先に主人の頼んだラーメンとご飯が到着する。見た途端大きなため息を隣でついた

「ネギ抜きって言ったのに」
主人の目の前にあるラーメンにはしっかりとネギが入っていた。

「両方ともネギ抜きって言ったよね」
確かに両方と言って注文を確認した。あの若い店員には届いてなかったのか。

次に私のラーメンが届く

ネギはしっかりと抜いているが注文していたのと違うものがやってきた。

「私のはネギ抜きだけど、違うのが来たよ」
「え?!」

置かれたレシートを確認すると違う名前のものが注文されていることになっている。

「ここの店はどうなってるんだ。ネギ抜きも聞き逃すし、違うのを持ってくるし」恐夫のイライラが無表情でも伝わってくる。
2人でレシートを眺めていると、私の後ろの方からある店員が声をかけてきた。

「何か不手際がありましたか?」

30代くらいの店員が不穏な雰囲気を感じとったのだろう。恐らく店長さんと思われる、その店員に

「注文していたのと違うものが私に来て、彼のラーメンはネギ抜きになってなかったんです」

冷静に伝える。

「それは本当にすいませんでした。すぐに作り直させますので申し訳ありません。」

「大丈夫ですよ、これを食べます。」

「では、お代は注文するはずだったものに変更させていただきます。」

そう言って、店員は去っていった。注文よりも値段の高いものを頂いていた私。味は美味しいし、わざと間違えたわけではない。そして私たちの異変に気付いて声をかけてくれた人もいた。ラーメンを食べながら安くしてもらう事に罪悪感が湧いてくる。注文を間違えた不満はあったが2人で話し合い、食べた分の料金はきっちり払おうと決め、レジに向かう。
レジにはさっき声をかけてくれた店員が待ち構えていた。

「お代はひかせていただきますので」

「普通に払います」主人は店員に伝え、お金を渡す。

「いや、引かせてください。また来てほしいからですね。」店員も決まりが悪いのか引かない。

「また来ます」二人で苦笑いしながら店長らしきその人に伝える。

「ありがとうございます。またよろしくお願いします。」

と、正規の値段を払いお店を後にする。
帰りの車中の中、

「早くお店に行かないとね、あの店長さんを不安にさせたら可哀そう」
そう私が言うと、

「少し間をおいてから、行ってやる。ちゃんと覚えているか確認せんといかん」憎まれ口を言いながらも、温かい空気が包んでいた。


子どものころ、家族で行ったファミレスで出てきた料理に父が店員を攻撃していたことが頭をよぎる。何を注意していたかは覚えていないけど、店員に総攻撃で汚い言葉を浴びせていた。私も、母も恥ずかしくてしょうがなくて母の申し訳なさそうな顔が焼き付いている。帰りの車中、母が父に

「あそこまで言うことなかったんじゃない?わざと間違えたわけじゃないんだし」と落ち着いた調子で諭す。

それに対して父は、
「俺たちは客なんだから何言ってもいいんだよ」怒りの感情を残しつつ返答していた。

本当はそんな考えは嫌いだった。誰かに攻撃をしたり、非難したりするのは心に棘が刺さり、さらに奥へ奥へ突き刺すように痛くなる。

お客様は神様だから、何を言っても店側は文句を言ってはいけない、それが理不尽な要求でも。高圧的な父の考えだ。だけど、元々は同じ人と人。一生懸命頑張っている人にこれでもかっていうくらいねじ伏せる考えがどうしても腑に落ちなかった。



大人になって、一緒になった人も高圧的な人だった。でも彼には優しい空気がある。同じケースでもこんなにも清々しく1日を過ごせるのは彼が私の意見に賛同してくれるからだと思う。強面で人相の悪い夫、買い物中すれ違う人は何にもしていないのにすいませんと言わせるくらいの威力を持つ。自分の言うことは間違っていないという信念のこもった言葉に相手は委縮してしまい言うことを聞いてしまう。その点は父と同じだった。だけど、根底には優しさを持っているので周囲の人達には愛される魅力を持っている。


お人好しな性格は人生損をしているかもしれない。自分よりも相手を思い、気が付くと余裕がなくなって八方ふさがりになることがしばしばある。自分が苦しくなったとしても温かい空気を出せる大人になれて良かったと思っている。誰かを尊重し、認めることのできる人になれて。


年を越したらあのラーメン屋に足を運ぼうと思う。約束通りまた来ましたよと胸を張って。あの店長さんを安心させるため。

最後まで記事を読んでくれてありがとうございました!