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上村裕香『ほくほくおいも党』 雑感その3


◆赤旗って、なに

『ほくほくおいも党』は読者にやさしい。「赤旗」とは何であるかを説明してくれるのだ。

赤旗とは、父の働く日本共産党が毎日発刊している政党機関紙だ。父はもちろん毎日読んでいるし、家族にも読めと言ってくる…

「赤旗」が共産党の日刊の機関紙だと小説内で解説する人をこの作者以外に見たことがない(あったらすいません)のでまたまた嬉しくなった。

『パルタイ』(倉橋由美子)なんかパルタイが何であるかは一切書かない。パルタイが何かわからん人は読んでいただかなくて結構という高飛車な小説である。
プロレタリア文学・民主文学に近い作家らの小説も「ハタ」や「赤旗」を説明しないのは、読者が知ってて当然と思っているのだろう。
しかし、『ほくいも』は違う。「分からんかったらググれよ」ではない(ように作者が見せているのかもしれないけど)。

『ほくいも』が一般読者を対象にした小説だからだろ?と思う人がいるかもしれない。
だが、作者の場合、月刊誌『民主文学』に掲載された小説でもそうなのだ。『民主文学』は日本民主主義文学会発行の雑誌で、同会はプロレタリア文学の系譜を引く「人民の立場にたつ民主主義文学」を標榜する文学者の団体だ。掲載作品の作者は共産党員が多い(と思う)し、購読する人も党員の人がほとんどだろう。

しんぶん赤旗というのは新聞で、共産党の機関紙のことだ。…

上村ユタカ「なに食べたい?」(『民主文学』2022.6月号)

わたしはこの部分を読んで、その新感覚に仰天した(『ほくいも』を読む前にこの短編を読んだのだ)。
これぞいま、民主文学どころか、現在の社会運動、さらには日本の共産主義運動に求められているものではないのか?と。労働者階級の歴史的使命を自覚するもっとも先進的で不屈な日本共産党員たちは、おおくのひとに語りかけるとき、ここから出発しないといけないのではないか?と、ひとりで盛り上がっていた。

「なに食べたい?」は、第19回民主文学新人賞受賞作なんだけど、作者がわざとこういう文章を入れたのなら、それは成功していると思う。このレトリックがあることで、この小説の有り様、主人公や作品世界への読者の感じ方が、がらっと変わる。僕もここにいてもいいよね的なやさしい世界が広がるのだ。

ちなみに、「なに食べたい?」は、その冒頭で民青同盟(民青)についても説明してくれている。

 達樹に出会ったのは食料配布のときだった。
 わたしは民青でボランティアをしていて、達樹は食料を求めてやってきた。……
 民青、民青と当たり前のように名前をだしているけど、おそらく大半の人には聞きなじみのない団体名だろう。民青はボランティア団体ではない。正式名称は日本民主青年同盟といって、会員数は全国で一万人、日本共産党を相談相手としている団体だ。

上村ユタカ「なに食べたい?」

『ほくいも』でも民青同盟がひんぱんに登場するのだけど、民青の説明はなされない(訂正。説明はちゃんとされていました)。千秋視点も加味しての民青の説明はこんな感じ。なかなかうまい紹介だ。

…党と連携して、反原発運動や署名活動、ボランティア、学習会を行っている団体だ。……
 同盟は、授業でも部活動でもない。大学でいうなら、真面目なインカレサークル、が一番近いかもしれない。近いけれど違う。もっと生あたたかなやさしい空気があって、それがわたしは…

つづく
つづきは、活動家二世とか


『ほくほくおいも党』単行本は、オンラインで発売してましたが完売していて再版の予定はないようです。
が、商業誌で連載予定とのこと。未読の方はそれを待ちましょう。

商業出版ではムリだと言われ続けていた本作ですが、奇跡的に小学館「STORY BOX」で4月号(3月10日掲載)から半年ほど連載予定です(わたしが原稿を落とさなければ)。BCCKSでもSTORY BOXでも、ぜひお読みいただければ幸いです!

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