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「すごくいい環境にいるんだ、って気づいて真剣になり始めたし、火がついた」-『ライフストーリー インタビュー』

「すごくいい環境にいるんだ、って気づいて真剣になり始めたし、火がついた」

貴内 ひかり(46)


確かに私の書いたものって自由ですよね。文章を書くというよりは、湧きあがってくるものをただバーッと…書くことで発散している、というのもある。文章として、みたいなことを言われるとだからすごい恥ずかしいし困っちゃうんだけど。粗削りのそのままだから、分かる人には分かるし分からない人にはなにこれ?ってなるのも仕方ないんだろうなあ、と思います。もし私のブログやSNSから自由や強さを感じてもらえるんだとしたら、すごく嬉しいです。
自分の感覚とか直感とかそういうものを、自分が良しと思えばそれでいいんだ、ようやくそう思えるようになってきて。そんなふうに鍛えてくれたのは私にとっては花であり、ブーケを束ねることでした。うまく言葉にできないあらゆるものを、私はブーケという作品を作ることで解放しているんだと思います。
 
その、言葉にできないものに対する怖さがずっとありました。自分の中にどんどん湧き起こってくるよく分からないなにか…これは一体何なんだろう、私はきっとおかしいんだろう、ずっとそんなふうに思っていたから。触れるのも怖いそのなにかがひとりでは抱えきれないくらいになって、息苦しくてもう生きていけない、自分がなにをしでかすか分からない。そんな状態で、30歳くらいのときにはじめてカウンセリングを受けに行きました。とはいえその頃ってまだ今ほどカウンセリングは一般的じゃなくで、いのちの電話、みたいなそんなイメージだったなあ。それでも、とにかくしんどくてどうしようもない、この生きづらさをなんとかしたいから助けて、そういう感じで。
そこで、子どもの頃のことを…はじめて誰かに話したのが、そのときのカウンセリングでした。ひたすら暴力で押さえつけられた時期があったこと、ほかの家族は誰も暴力を止められなかった環境だったこと。助けを求めるという選択肢もなく、ただもう受け入れるよりほかないんだ、嫌だとか怖いとか痛いとか、そういう自分の感情なんてものはダメなものなんだ、ずっとそう思っていて。だから自分を押し殺して押し殺して、感情をどんどん抑圧していったんですね。
そうやって自分の中に押し込めてきたもの、それに湧き起こってくるなにかを抱えながら、自分でも得体の知れないそれらにいつもどこかでおびえながら、生きてきたという感じです。その怖さがあるから、人間関係では常に自分を殺して相手に合わせる、顔色をうかがう、自分が下に入る、そういう生き延びるために刷り込まれた人との接し方を、ずっと繰り返していたんですね。そりゃあ自分がなくなるし、自分のことなんてなにも分からないし、生きづらくて当たり前だよな、ということが、その後もいろいろなカウンセリングを受ける中で分かるようになったんです。
 
だから親との関係にもずっと向き合ってきたんですね。最初のカウンセラーさんにはすごく親身にしてもらいました。それ以降も自分の中になんらかのつらさや怖さが出てきたりすると、親との関係をもう一度見直してみようか、ってまたちょっと違った、心理分析的な見方を取り入れたこともあったりして。長くお付き合いできるカウンセラーさんとも出会えて、その方には今でも数ヵ月に一度くらいのペースでお会いしています。
そうやって徐々に徐々に、自分の状態が良くなっていった数年前、わりと深刻な病気が発覚しました。それで親と向き合って、なんてやっているどころじゃなくなったんですけど…その、病気というものが自分に突きつけられたとき、なんで私がこんな思いを?っていう気持ちが、もうすごい勢いで沸き起こってきちゃったんですね。なんでこんな家に生まれてきたの?暴力があって、生きづらくて恋愛もうまくいかず、しんどさをずっと抱え続けて、最後は病気になって。それをもう、全部ぶつけたんです、親に。過去にも何度かぶつけたことはあったけど、なんていうか…なかったことにされちゃうというか、うまく伝えられないし受け止めてもらえない、それまではずっとそんな感じで。
手術を終えて退院してから再入院したんですけど、2度目に退院してすぐ、親がいきなり家にやってきたんです。術後のケアは自分のペースでやりたかったし最初の退院のときにもそう伝えていたのに、お前のためを思って、って呼んでもいないのに自宅に押し掛けてきて、自宅という…プライバシーの中に。それでもう本当に玄関先で顔も出さずに押し返して、抱えていた怒りをそこで全部ぶつけました、もうめちゃくちゃに。私は縁を切ったっていい、それくらいの気持ちで自分のそれまでの思いを、必死にメッセージで打って。
それだけのことがあって、はじめて親が虐待だったということを認めたんです。認めてもらって、謝ってもらって、そうしたら私の中につっかえていたものがぽろっと取れて。もういいや、っていうような感じになったんですね、それで。
 
そうやって自分自身や親と向き合ってきた中で、怖さというのもだいぶ抜けた感じはありますよね。それでも…過去を振り返る、痛みに触れる、そういうつらい作業は体力的にも精神的にもものすごく、エネルギーを消耗する。だからやらなくてもいいんだと思う。触れない方が逆にいいのかもしれないな、って、触れたから思う。もちろん抱えているものがある程度抜けてこないと前には向けないから、吐き出すための手段だという側面はあるんだけれど。でも逆に出すことばかりにとらわれているとどうしても過去に引っ張られるし、傷や痛みのほうばかりを見ちゃう。そうすることで余計に自分を傷つけたり、ときには周りを傷つけちゃったりもするし。それも仕方ないんだろうなあとは思うけど…でも出すってきっと、キリがない。だから、過去や痛みなんてもういいや、とか向き合うなんてもう飽きた、みたいになってようやく方向転換できる、というのもあるのかもしれない。やっぱりそうやって人は段階を踏んでいくものなのかな。
そうして少しでも前が向けたら、今度は楽しむことで忘れていく、乗り越えていく、っていうのもすごくあるんじゃないかなあ、と思っていて。楽しい気持ちを味わって、楽しさで感情が動くと、自分のエネルギーをちゃんとこう、消耗ではなくいい感じで使うことができる。それで抱えているものが一緒に出ていくってこともあるし、むしろそっちのほうがぜんぜん、抜けていく気がするんですよね。ブーケに邁進し始めて、ライフワークからのアプローチは効果てきめんに効くんだな、っていうことを、今本当に実感しているから。
 
そのブーケに向けているエネルギーをかつては全部恋愛にぶつけていて、だから大変なことになっていた、って今ようやく気がつくんですけれどね!そりゃあ相手は圧倒されるし怖いし逃げたくもなるよなあ、今までの彼氏ありがとう、って思うくらいです。よく耐えてくれたなあ、って。
恋愛でも本当に苦しい思いをたくさんしてきて。もう二度と恋愛はしない、男なんてもうムリ、何度もそう思いながらもなぜかやっぱり次々と繰り返していたんですね。今度こそうまくいく、またダメになった、そのサイクルがどんどん短くなって、もう自分でも自分の感情をどうすることもできなくなって…そんなふうに15年近く苦しんだところで弁証法的行動療法というのを見つけて、セッションに通うことにしたんです。
そこではじめて、あ、感情ってこう波が来るけど、しばらく見ていると治まるときが来るんだ、っていうのを体感することができた。あとは思考と距離を取るためのマインドフルネスだったり、楽しいことに目を向ける、っていう訓練だったり。自分が楽しいと感じることや心地よいという感覚をつかみましょう、そんなことをわざわざ教えてもらわなければいけないくらい、感情が麻痺していたんですよね。自分を押さえ込んであらゆることを禁止して、という日常をずっと生きてきて、楽しい、という感覚が本当に分からなかったから。それでプログラムに沿った訓練をグループで一緒にやったり宿題をシェアしたりしていくと、6人なら6通りのやり方とか感じ方があって、その場で指導者からそれぞれの解説をしてもらえるからすごく落とし込みやすいんです。それを繰り返していく中で、感情や思考に飲まれない、という感覚をだんだん得られるようになっていきました。
弁証法的行動療法には本当に救われました。そのとき付き合ってた人と本当にうまくいかなくて、かなりひどいことを言う人だったんですけれど。それでも、うまくいかないのは私が悪いからなんだ、そう思ってずっと一生懸命彼に合わせよう合わせようとしていて。もとはと言えば行動療法も彼のために自分を変えなきゃ、みたいな感じで参加し始めたんですね。それがセッションを重ねるごとにどんどん目が覚めていって、最終的には彼の言動に対してもうやってられるか、と思って、自分からごめん、って別れを告げました。そういえば彼には通っていた病院の目の前のレストランでプロポーズされたことがあったんですけど、なぜかそのとき、病室の様子が頭の中にずっと浮かんでいて。当時はまだ経過観察で定期的に通院している状態だったんですけど、もしかしたら私、あそこに入院するとかなんとかってことが、この先あるのかなあ?なんて思うくらいに、プロポーズされながらものすごく気になっちゃって。そうしたらその1年後に病名の診断が下りて、本当にそこで手術することになったんです。
 
その大きな手術を終えた休職期間中に、今の師匠であるブーケの先生に出会いました。インスタで知ってレッスンに参加してみたのが最初です。それから1年くらいの間に何度かレッスンを受けたんですけど、ちょっと難しすぎてついていけなくって。それでも花に触れること、ブーケを束ねることがすごく楽しくなってきていたから、並行して別の先生のところにも習いに行くことにしたんです。そうしたら思いがけず、師匠がどれだけすごいかっていうのをそこで思い知らされることになった。
その別の先生というのが…生徒が束ねたブーケに対するダメ出しがすごくって、本当にびっくりしたんです。私の作品を見て、なにこれ?素人だからできないのよね、みたいなことを普通にみんなの前で言ったりする人で、もう本当に固まりましたよね、恥ずかしさと悔しさで。レッスンで何度もそんな目にあっているうちにだんだん花やブーケが好きになれなくなってきちゃったし、ブーケの画像と一緒に自分の思いを綴ってきたブログやインスタ、それまで徐々に積み上げたものもぜんぶ消し去ってしまおうか、そんな思いも巻き起こったくらいだったんです。一方の師匠は生徒の作品を否定しないのはもちろん、師匠のレッスン内外に関わらず、私が疑問に思った点にすべて答えてくれた。なにをどれだけ聞いても、レッスンでもメールでも大量に返してくれて。「郷に入っては郷に従え、っていうのがあるからね、その世界に行ったらまずはそこで吸収できるものを吸収しておいで」、そんなふうに言ってくれたりもして、なにひとつ否定しないんです。ああ、これこそ本物だな、って思いました。対極にいる人の世界を味わってみたからこそ師匠のすごさが身にしみて分かって、本当にありがたかった。それで私はすごくいい環境にいるんだ、って気づいて真剣になり始めたし、火がついた。そこから私の束ねるブーケも変わっていったし、どんどんのめり込んで自分のエネルギーを思いきりぶつけられるようになったんです。
自分が教室を持てるようになった今、すべての経験は生きているんだなって本当に思います。誰が作ったものであっても、私も絶対に作品の否定はしない。作品イコールその人そのものなんですよね。言葉にできない、扱いようのないそれぞれの感情やエネルギーが目に見える形になったもの、それがブーケだから。だからこそ、みんなで一緒にブーケを束ねることでできることや見えてくるものってきっとたくさんあって、そこにもフォーカスするようなセッションを、これからやっていこうと考えています。
 
自分にとってこれでいいんだっていう環境に、やっと出会えたんだな、今本当にそう感じています。いろいろなところで本当にたくさんの人に支えてもらっている。仕事も仕事で大変だけれど、楽しい。今の職場はもう15年になるのかな。辞めたいと思ったことも何度もありましたよ、本当にひどいパワハラに遭遇したこともあったので。でもそれも結局は、自分が自分をいじめていたからなんですよね。つらかった時期もたくさんあったけど、実際に辞めるところまではいかなかった。給料もよかったし…お金って大事ですよね、精神的な安心感を持ってやりたいことができるし。そういう意味でもいられるだけいようと思っていたのもあるかな。
あとはやっぱり、私は根性があるんだと思う。腹が据わってるというか。会社でもけっこういろいろしでかしちゃってるんだけど、それで痛い目にあっても辱めを受けても、もういい、なかったことにする、っていうような割り切りは、できるほうなのかもしれない。じゃなきゃ生き延びて来られなかっただろうし。今では、いいネタ持ってるな私!くらいに思えるようになりましたもん。長かったけど、ようやくここまで来たなという感じです。それでももし、若いうちにここまで来ていたらそれはそれでもっと落ちるようなことがあったのかもしれないし、鼻持ちならないというか、おかしなところに行っちゃってたかもしれないし。だから私は今でよかったな、って思える。タイミングもそうだし、乗り越えられない問題はやって来ない、っていうのも、まさしくそうなんだろうなあって思います。
 
今こうしてライフワークというものに突き進み始めて、自分でブーケの教室を持てるようなところまできて、理想のパートナー像や関係性みたいなものも、今までとはだいぶ変わってきましたよね。まずは私がやりたいことに対して口出ししない人。でないともうムリ!それに、たとえばレッスンにしても、もうひとりでやることに限界を感じているんですね。花材を運ぶのもすごいボリュームだし、私車の運転もできないし。だから一緒にやれるような人ならいいなあ、って思う。パートナーであり、共同経営者的な…たぶんこのまま、自分の道をどんどん突き進んで行けば出会う人も変わっていって、見つけてもらったり、するかもしれないかな。ライフワークが連れてきてくれる…かな、それとももう来世、なのか?いつか将来的にはそういうパートナーがいるといいな、って今は思っています。え、60歳?そこまで行きたくないなあ!数年以内には出会っていたい…そして60歳になった頃には、なにかを一緒に築いていられてたらいいな。

(2022年11月)



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