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teaspoon of wishful thinking

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“two teaspoons of wishful thinking” 詩、小説、日記、写真。
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good music is good music and that should be enough for anybody

 堀川。A県N市を流れる運河。汚染が酷かったが清浄化の運動が広まり、今では観光地になった。  いくつも架かる橋の下を進む路線船。目的地の近くで船を降り、岸壁に建つビルの一階にあるカフェに入った。スラッシャーパンクがかかる店内は打ちっぱなしのコンクリートと配管剥き出しの天井。ひとつひとつ不揃いのテーブルと椅子は木と金属でできていて、手作りの作品ように親しみを感じる。窓辺のカウンター代わりになっているのは、足踏みミシンに長い板を載せたテーブルだった。愛嬌のあるスツールに腰掛け、川

à lundi

‪ヴァルプルギスの夜に‬ ‪魔法を使って‬ ‪ミッドサマーを越えた ‪魔力が強すぎる‬ ‪微睡の中で聞く名前‬ ‪鍵は抽斗のなか‬ 死に至る恋のことは‬ ‪知っていたけれど‬ ‪摂取したのは初めて‬ 止まりそうな指‬ ‪ギターとピアノ‬ ‪どっちがすき?‬ ハレー彗星がくるまで‬ ‪一緒にいるって正気?‬ 月曜日 あの町で映画を観よう

troisième

壊れているのは自分か世界か どこにも辿り着けないメトロ アパルトマンの見知らぬ部屋 いつでも傍に居たという隣人 気儘に歩き廻る猫たちの微睡

nous étions

夕暮れの海に行って 沈む陽を追いかける タイダイの 空を纏って 波打ち際に 腰を下ろす オレンジ色の横顔 風になびく髪にも 夕陽は絡みついて どこかの犬が走って いくのを気にしたり スケーターの友達は ハンドサインだけで あいさつを交わした 繰り返す波が指先を 濡らしていく 灯台が明滅している ように見える 話すことは ないけれど たまに目を 細め合った おしゃべり だったのは 波と風だけ

soda

スープ。波が崩れた後に立ち上がる白い泡。  美羽(みう)という私の名前。美しい雨の美雨(みう)に憧れる。何しろ水は美しい。蛇口を捻って出てくるものでも、店舗に陳列するボトリングされたものでも。海で荒れ狂い揺蕩うものでも。光る泡を産む炭酸水でも。雨でも。  後ろから男の人の声がした。 「元気ないね。彼氏と喧嘩でもした?」 「……秋谷から歩いて来たから」 「アキヤって? 遠いの?」 「この辺の人じゃないんだ?」 「初めて来たんだよ」  二十歳くらいの男の人。後ろの砂浜に横たわ

river is flowing

 堀川。愛知県名古屋市を流れる運河。汚染が酷かったが清浄化の運動が広まり、今では観光地になった。  いくつも架かる橋の下を進む路線船。岸壁のカフェに停まって、堀川の流れを眺めながらラテを飲む。堀川の堤防には所々にヒカリゴケが生えていて淡い光が水面を照らしていた。川幅は十メートル未満。ヒカリゴケの灯りの上に、建ち並ぶ飲食店の影が映る。  私は、生まれ育った名古屋市熱田区に帰ってきていた。薄闇に揺れる堀川沿いは、懐かしいような、それでいて初めて来た場所のような気がした。ラ・マル

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ひより食堂【葉山】

まだ駅に灯があって、赤い光は点滅を続けて、川がずっと流れている

トーキョータワーの先端が見える夜 赤い点滅が行く手を取り巻いている 電車は。もう少しで眠れると走り続けるけれど 朝が来て、また走りはじめる。いつの日だって

bonne année

始発のバスに乗ろうと思っていたのだけれど、つぎのバスになってしまった。光と影の存在があやふやな、ニュートラルな空間をバスは進む。乗客は私たちのほかに二人だけ。山側の車窓から、樹々の切れ間に覗く光を探していた。その光は上空を照らし、照らされた雲は次第に溶けていく。

dawn

必要な物は執拗に増え。執拗な猫は窓際に眠る。そう、続きなんてないんだ。だけれど創らなきゃ。ずっと前に綴ったラストシーンに、たどりつけるように。

humidité

誰か。何かを知らせてくれよ。過去を綴った 自分の詩は読み飽きた。二進法の呪文で、液 晶画面に届けてよ。私は本を捨てて、キーボ ードを叩く。それは紛いもない虚実で、紛い もない真実。私は誰? 君はどこ? どこは 誰? 誰は君? 『五年生』『二年生なの?  大きいんだね』最期の何て事のない記憶。 ねえ。今って、平成最後の夏なんやって。そ うか蒸し暑いと思ってた。もうええねん。何 が? せやから、うちの言葉なんかええねん 。誰にも読ませたらん。さよなら。僕には?  あかん。ほんま

空色

「空色がいちばんすき」  憧れの人と会った。  そのすてきな彼は音が聞こえない。手話を練習して待ち合わせの場所に向かった。 「こんにちは」  私の手話を見た彼は、笑顔を深めて「こんにちは」と口と手の指の動きで伝えてくださった。それから私の手は動かなかった。とても嬉しくてあがってしまったのと、あいさつくらいしかできない手話を使うのを躊躇ってしまって。  娘に言わせれば、こんなにすごい機会は二度となく、一生で一度もない人がほとんど。という彼との待ち合わせ。  数週間にわた

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hydrangea

Tokyo in April 14 #2

<— 1 再び。夢のような曇り空の庭で、逡巡する私。 あきれ返った娘が、コトリ花店さんの扉を開けてくれました。

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