家族と猫のはなし

私が気分屋なのは猫譲りだと思う。かまってほしいのに遠目で顔をそむけて「フンッ」とやる猫の仕草は、ぶっきらぼうであまのじゃくな素の私そのものだ。
実はここ一週間ほど実家の猫の体調が悪かった。今はよくなったけど、嫌でも思い出すのは去年の3月のこと。
脳神経からくる突発的な発作だった。頭頂と背中がくっつくほど反り腰の体勢で、白目を剥きながら頭部をグワングワンさせ痙攣していた。触らないほうがいいと思い必死に名前を呼び続けると、口に泡をつけながらリビングの暗い場所に隠れて、それからごはんを1週間食べなかった。私はこのまま衰弱していくのかの不安と、家中に漂う死の気配にビビりながらほとんど寝れなかったし、家がひっくり返るほど家族総出で心配した。
怖かったのは、呼吸のリズムがランダムだったり、体温がいつもより熱かったこと。また、チック症みたいに「ビクッ!」とよくなっていたし、猫本人も容態の変化に驚いていて当然私も家族も驚いた。
体調不安定な波と一進一退の日々が続いたが、2~3週間あたりから徐々に回復の兆しが見えてきた。それからというもの以前より約二倍分のごはんを食べるようになり水もがぶがぶ飲んだ。さらに食べた5分後にまた食べだしている。
母が言うには認知症の後期高齢者とまったく同じ動き方をしてるらしく、5分前の行動を思い出せなくて食べた記憶がすっぽり抜けているため、幽霊のようにご飯のあるキッチンまでフラフラ歩いていくのだ。その自信のない後ろ姿はなんとも滑稽である。
それが良かったのか悪かったのか分からないけれど、とにかく、みるみるうちに体脂肪は増えたし、顔つきも以前のふてぶてしさ満開の女王蜂みたいな顔に戻っていった。
今年で18歳。人間の年齢でいうと88歳。
いつもは5歳児くらいの容貌だけど、たまに目を細めてゆっくり微笑んでくる頻度が増えてきた。『慈愛に満ちた観音像』みたいな面様である。
この猫は、けいれんしてるのに寝返りのふりをして私と妹を心配させないようにド下手な演技をしたり、昔なにかで嫌なことがあって泣いてたら小走りにすり寄ってきて一緒に泣いてくれる猫だ。もしこの猫が人間だったら、ひとが怒ってる場面すら見たくない、「大きな声をださないで」と小さく嘆くような、儚げな優しさを持った5歳児といったところだろうか。
しかし同時に人格形成にとって大事な青春期に、自由でぶっきらぼうであまのじゃくな猫と過ごしたゆえに及ぼした影響もあるはずだ。
思えば小2の頃、ブリーダーさんの自宅にいる十何匹もの子猫のなかから自分で選んだ。3〜40分ほど悩んだのち「この子にする!」と大きく指を指して、ブリーダーさんと両親に笑われたことを今でも鮮明に覚えている。
この猫を選んだこと、なんだかんだいってもやはり心の底からグッドチョイスです。また、食っちゃ寝を繰り返す生活を心底うらやましがりながら、そのへんの床に猫が転がってる(落ちてる)だけで「プスッ」と笑える環境を作ってくれた親にも、感謝したい。


妹の背中にのる猫

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