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行動経済学から見る人間の非合理的行動

本内容は書籍「確率思考 不確かな未来から利益を生みだす」からの要約になります。


失敗の本質とは、なにか?

ピート・キャロルと結果論者たちについての議論は、2015年の第49回スーパーボウルでの最も物議を醸す決断に焦点を当てています。
シアトル・シーホークスがニューイングランド・ペイトリオッツに対して4点のリードを追いかけ、試合終了間際にゴールまであと1ヤードの地点に迫った際、多くの人がランプレイを予想していました。
しかし、ヘッドコーチのピート・キャロルは、クォーターバックのラッセル・ウィルソンにパスを指示し、これがインターセプトされてしまい、シーホークスは敗れました。

翌日のメディアは、この指示を「NFL史上最悪」と非難しました。
しかし、一部の専門家は、時間管理とインターセプトの低確率を考慮すれば、この決断は合理的だったと指摘しています。
実際、そのシーズン中に敵陣1ヤード地点でのパスは66回行われ、インターセプトされたのは一度もありませんでした。
それでも、多くの人々はキャロルの決定を理解しようとはせず、失敗した結果のみが強調されました。

結果に惑わされるな

ピート・キャロルのケースは、結果論の罠を浮き彫りにします。
もしパスが成功しタッチダウンを達成していたら、彼は英雄として讃えられていたでしょう。
しかし、実際には失敗し、批判の的となりました。
これは、私たちが結果に基づいて判断の質を評価する傾向を持つことを示しています。
ポーカープレーヤーは、このような後付け思考の危険性について警告します。
短期的な結果に惑わされず、長期的な戦略を維持することが重要です。

ピート・キャロルは結果と決定の質を同一視する考え方の犠牲になりました。
彼の例から学ぶべきは、運と能力を区別し、手に負えない結果が生じることを認めることの重要性です。
また、物事の結果とそれに繋がった決定の質を強く結びつけるのではなく、冷静な分析と合理的な判断が必要であるということです。
他人の決定を分析する際や、自分自身の決断を振り返るにあたっても、結果論の罠に陥らないための洞察と思考が求められます。

後知恵バイアスの罠

後付け思考は、結果に基づいて過去の決定を評価する傾向であり、多くの場合、誤解や誤った行動を引き起こします。
例えば、良い結果が続いた場合、その決定は賢明だったと感じてしまいます。
反対に悪い結果が続いた場合は、その決定も悪いと考えられがちです。
このように、結果によって決定の質を判断するのは自然なことですが、この思考パターンはしばしば誤りをもたらします。

企業の幹部が過去の決定を振り返る際、多くは結果に基づいて評価します。
例えば、社長を解任した決定が悪い結果につながった場合、その決定自体が悪かったと判断されがちです。
しかし、その決定が行われた当時の情報や状況、合理的な思考プロセスを考慮すると、その決定自体は最も合理的な選択だったかもしれません。
結果が悪かったからといって、それが必ずしも悪い決定だったとは限りません。

後付け思考は、悪い結果をもたらした決定を無条件で否定し、良い結果をもたらした決定を無条件で肯定する傾向を生み出します。
これにより、人々は結果を過度に強調し、決定の質そのものを見落とすことになります。
例えば、飲酒運転で無事に家に着くことができたとしても、それは危険で不合理な決定であり、良い結果に恵まれただけです。

このような思考は、特にビジネスの世界で、長期的な成功を阻害する可能性があります。
良い結果だけを追求するあまり、合理的で長期的な視点を持つことがおろそかになり、最終的には更なる失敗を引き起こす可能性があります。
したがって、意思決定を評価する際には、結果だけでなく、決定に至ったプロセスや当時の情報、論理的な思考をしっかりと考慮することが重要です。
後知恵バイアスや後付け思考に陥らないためには、結果とプロセスの両方をバランスよく評価することが求められます。

行動経済学から見る人間の非合理性

ピート・キャロルの批判やあるCEOの不合理な考え方は、行動経済学の観点から見れば予想されるものです。
行動経済学は、心理学、経済学、認知科学、神経科学などの分野における研究により、人間の意思決定に影響を与える様々な非合理性を明らかにしています。
私たちの脳は、確実性と秩序を求めるために進化してきましたが、これが現実世界の不確実な状況において、非合理的な行動を引き起こす原因となることがあります。

ダニエル・カーネマン教授の『ファスト&スロー』では、意思決定に関わる「システム1」と「システム2」の概念を紹介しています。

システム1は速い思考で、直感や反射に基づく処理を担当し、システム2は遅い思考で、より計画的で論理的な処理を担当します。
これら二つのシステムがうまく機能しないとき、非合理的な意思決定が行われることがあります。

また、ゲアリー・マーカスは反射型思考と熟慮型思考という概念を通じて、私たちの思考が速い直感と遅い熟考の間でどのように動くかを説明します。
私たちは通常、素早く自動的な処理を行う「反射システム」と、より慎重に事実を考慮する「熟慮システム」の間で意思決定を行います。

これらのシステムが存在するにも関わらず、私たちの脳は完全に合理的には機能しません。
コリン・キャメラー教授は、意思決定のほとんどは前頭前皮質など特定の脳の領域に依存せず、日々の決定の大半は自動的な処理によって行われると指摘しています。
したがって、意思決定の際には、熟慮型思考にすべてを頼ることは非現実的であり、既存の脳の制約の中でより良い決定をする方法を見つける必要があります。

最終的に、私たちは自分の非合理的な行動を認識し、それを変えることを望むかもしれませんが、ダニエル・カーネマンが示したミュラー・リヤー錯視のように、私たちはしばしば錯覚に影響され続けます。
これは、私たちの脳が持つ基本的な制約と、その中で最善の意思決定を行うために必要な認識と戦略について理解することの重要性を示しています。

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