ストリートファイター6を経て、少なくとも、時代は変わる。

「昇龍拳が出ない」

そう広く言われるようになって31年アメリカではきっとその更に4年前から「ドラゴンパンチが出ない」と言われていただろう。(初代ストリートファイターはアメリカでは日本以上に広く人気を博していたのだ)
実に35年。CAPCOMはただ黙するのみだったのだろうか?少なくともその風評に対して、2023年に完璧なアンサーが繰り出された事だけは間違いない。

ともあれ、私はこのゲームに関して、語りたい事が山ほどある。
このnoteではエッセイのような形で、思いの丈とレビューを述べさせてもらう。

「モダン入力」という革命

そもそも、ストリートファイターシリーズの操作性は作品ごとに進化していた。これは実際にナンバリングを追ってプレイすれば解ることだろう。
熟練した現役のプロでさえ難儀する非常識的な操作性だった初代から皆が知る2の間にコマンドの受付は常識的なものに大きく進化し、Zeroや3においてはその受付は体感できるほどに緩和されていった。4では斜め下で適当にレバーをガチャガチャと弄るだけで昇龍拳が出るほどの簡易入力が実装されていたし、Vでは最速入力の仕様が大幅に改善され、目押しの必要性がないキャラが大半になった。
ストリートファイターの歴史の中で、読み合いの土俵に立つまでに必要な技術は常に緩和され続けてきた。(余談だが私は初代の昇龍拳の入力がほぼ完璧に出せる特技を持っている)

しかし消費者にとってストリートファイターのイメージは2で止まったままだ。これは売れたタイトルにばかりフォーカスしてひたすら縋り続けた新作を無視しスト2だけのコラボを延々と繰り返したCAPCOMの罪の産物でもあり、アップデートされていない知識を風評として拡散したスト2時代の思い出を今の格ゲーと混同したまま分かったつもりで悪評を垂れ流した消費者の愚かさが招いたものでもある。
今でも殆どのゲーマー達は昇龍拳を出すには、シリーズを追うごとに増えていった全ての技を出すには、2と同等の難易度の入力を血反吐散らして覚えなくてはならないと思いこんでいる。彼らの知識は31年間という時間を全く認識していないし、今も人気の最中であるFPSゲームの方が遥かに精度を要求するゲームである事実に至っては完全に忘れきっている。
本当はR99の弾を3/4命中させるより昇龍拳の入力を覚える方が比べ物にならないほど圧倒的に簡単なのに、それを無邪気な悪評が覆い隠してしまっている。

このイメージを破壊する為には、もはや「コマンド入力」という形態自体を破棄するというパフォーマンスが必要不可欠な領域にまで、このとうに錆びついて腐り果てた風評は根を張っていた。だから彼らはそうした。
とはいえこれに関しては6に始まったことではない。4の3DS版やウルトラストリートファイター2といった一部タイトルではコマンド入力を完全に不要とする操作形態が実装されていたし、Vの段階では既にファルケとエドの2人組がコマンド入力を要さない入力形態のキャラクターとして存在していた。これは6に向けて行われた実験であったのか、或いはこれらに誰も目を向けなかったが故に6では更に派手なパフォーマンスを必要としたのかは解らない。

ともあれ、CAPCOM一世一代の大花火が開いたのは2023/6/2の事だ。
「じゃあ始めてみよう」というプレイヤーが実際に散見されるのはこのパフォーマンスが成功した証左だろう。
この新たな入力形態、「モダン入力」は非常に良く出来ている。
格闘ゲームの読み合いを行っていく上でプレイヤーに求められる事のうち、「触れた時にリターンを出す」「必要な技をもって対応する」を習得する為にこれまでは最低でも数時間を要していただろう。今作は1分だ。
インストを読んで、理解する。これだけで、君の指が2つのボタンを同時に連打する事が出来ないものであったりしない限りは、格闘ゲームの読み合いに必要なパーツが全て揃う。
その上、操作系統自体が一般的なゲームパッドに非常に最適化されたものになっていて、所謂アケコンが無くても快適にプレイできるものになっている点が非常に素晴らしい。というか、モダン入力に関してはパッドの方が明確に強いだろう。

とはいえ、これだけであれば偉大でもなんでもない。
この入力形態の最も素晴らしい点というのは非常に素晴らしいゲームバランスにある。
マリーザはクラシックよりモダンの方が強いのではないかといった定説が発生し、競技の世界でトッププレイヤーとして名を馳せたプロゲーマー達がモダンルークなどを実戦投入するに至っている、という事実こそ最もこの入力形態の価値を支えていると言えるだろう。こうなる必要性があった。
もしこの入力形態がハンデになるようであれば、それは「伝統的な格闘ゲームの入力形態に完全に適応する」という学習コストを先延ばしにしたに過ぎない。このモダン入力は旧来のものと平等である必要があり、それを成し遂げた。
故に、もしコマンド入力が怖くて避けているという人がいたら、まずそれに関しては安心して欲しい。勿論プレイしていく中でゆっくりと理解していくべきではあるが、既に必須のものではなくなった。

無論、旧来の入力形態に慣れた我々も、これまで通りにガチャガチャとけたたましい音を立ててレバーをこねくり回して623+Pで昇龍拳を繰り出している。ここまで入力形態による優劣のない調整になっているとは、正直本当に思っていなかった。

素晴らしいバランス調整

早速見出しを裏切るようだが、決して完璧に均一だという訳では無い。
ケンやディージェイ辺りは明確に「tierS」であると断言できる性能をしているし、リリーを強キャラだと評価する声を聞いた事は発売以降殆どない。
しかし今作は発売直後でありながら、前作の最終調整ルーク最強よりも均質なバランスになっていると断言できるレベルで秀逸な調整が施されている。正直、奇跡の領域だ。
(追記:発売後時期が経って開拓が進んだ現在、トップキャラクターとの相性などからリリーを中堅上位クラスに高く再評価する声も増え、トッププロがサブキャラクターとして持つ事例も増えてきています。よかったね。)

どのキャラクターも何が強みであるかという点が明確であり、そのコンセプトをしっかりと実現した闘い方ができる。
シリーズ通して問題児弱キャラorクソキャラのザンギエフも今作では「大技でチャンスを作ってプレッシャーを掛けながら博打を通す」というプロレスラーらしいコンセプトを不快感無く実現しているし、体力とアーマーを盾に「最終的に相手が先に倒れていればそれで良い」とばかりに強引にねじ込んでいくマリーザや端々の間合いで相手に触れずにハメ殺す陰湿極まりない闘い方をするJPなど、どのキャラも唯一無二を実現している。
今作のキャラランクは「S/A/B/C/D/E」ではなく「S/A/B」だ、とする声も散見されるのは、今作のゲームバランス調整が異常とさえ言えるレベルで秀逸である証左だろう。

そのバランス調整の中で一貫した方針となっているのが、「気持ちよく攻め込める事」だ。どのキャラクターも一貫して大人しい調整の技が多かった前作をプレイした後に見ると、本当に信じ難いような技ばかりが飛び交うゲーム性だ。突っ込むキャラの技は本当に雑に突っ込み放題で、近付かせないキャラの技は完璧にやられると一生前に出られない。
そしてそれを基準に「大体なんとかなる防御」と言えるような強力な守りや切り返しの手段も用意されており、結果として極めて苛烈でシンプルな形でバランスが取れている。簡単に気持ちよく殴り、簡単に気持ちよく殴り返し、やりやがったなテメー目ん玉ついてんのかこの野郎、なんだこのクソ野郎。無論ここに至るまでに複雑な入力や暗記は殆ど無い。モダン入力とは実に偉大だ。
理不尽な攻めを互いに押し付け合い、先に回答が尽きた奴が死ぬ。攻めれば偉く、チキンには死があるのみ。そんなえらくハイテンションで治安の悪い闘いを始めるのは簡単で、極めようと思えばどこまでも深みが広がっている。ダメージ効率も前作以上だ。超必殺技スパコンを絡めずとも立ち回りから突然体力の4割が消し飛んでしまうし、全ゲージが最大の状態からであれば体力の8割近くをたった一度のコンボで奪い取れる場合さえある。
殴りつけ、ペースを奪い、倒し切る。かと思えば次の瞬間にはマウントポジションを取られていて、我々の命の灯ライフゲージ は儚くも霞と散る。寄せては返す、苦痛と破壊のカタルシス。
ともすれば大味なようにさえ思えてくるゲームプレイは、ただ我々の血中に不条理な量のアドレナリンをブチ撒ける事に命を掛けた開発者という真の漢の存在を物語っている。

結果として視覚的にも大変見栄えが良くなった。前作の競技シーンは地味な小突きあいの意味を理解しなければ楽しめないものだったが、今作であれば恐らく、サッカー観戦のように「なんか勢いよく動いてる奴が有利なんだな」という感覚でも楽しめるだろう。esportsとは競技であると同時に興行でもあるのだ。ウォッカと共に楽しめるものでなければ存在する意味がない。

まあ、JPのアムネジア(当身技)だけはキャラクターコンセプトに反しているとは思うが。

あまりにも多彩な遊び

これまでのストリートファイターシリーズが抱え続けてきた持病。それは「人間相手に競い合う」という楽しみに強く依存し続けてきた事、という一点に尽きる。
2時代のような社会現象も終わればストイックな高めあいが大半となっていったそれは、しばしば「格付け」にも例えられる。
実際、これは非常に良く出来た遊びだ。己の力で他人を捻じ伏せ、力の差を理解させるという行為はこの長い地球の歴史の中で全ての生物に根付いている。
しかし結局のところ、それはゲームとしては間口の広いものでは無かったのだろう。特に勝っても負けても自分一人が悪いという点は現代的な流行には反している。今人気の対人ゲームの殆どは、敗北の原因を完全に他人に転嫁できる様に作られている。改めて文字に起こしてみれば酷く無様で醜いものだが、どうやらそれが時代らしい。

とはいえ、対戦格闘ゲームというフォーマット自体は変えられない。責任転嫁を続ける事はこのストリートファイターというシリーズにおいては不可能なことだ。勝ち負けは常に一人と一人の間で決し、そこに原因を求められる第三者は存在しない。
実際、これが原因で長く続けられないプレイヤーも出るだろう。とはいえここにはしっかりと、最善の策が張られている。

まず、初期状態でカーソルが合っている場所は「バトルハブ」だ。これはゲーム内に再現された変なデザインのゲームセンターのような空間で、友人と待ち合わせて対戦を楽しむだとか、その辺に居る変な見た目のおっさんに乱入対戦を挑むだとか、後述のワールドツアーモードで作り上げたアバターを見せびらかしてアバター同士で殴り合ったりだとか、「上を目指すだけが対戦の楽しみではない」というメッセージに特化した空間になっている。
たまに化け物じみた強さの奴も居る。たまに初心者も居る。疲れたら他人の試合を観戦したり、或いは定期的に変わるカプコンの旧作アーケードゲームで遊んだり。人気はないがスマブラの「アイテムあり乱闘」のようなふざけたゲームルールの台もあれば、基本誰もいない写真撮影スポットもある。
前作のランクマッチを毎日狂ったように回していた人間にとってもこの空間は魅力的なものだ。たまにチャット欄を見ると初心者が指南を受ける光景があったりと、対戦という娯楽を万人に開く事は可能だったのだなと感動すら抱く。

勿論今まで通りのランクマッチも続投だ。2先でひたすら同ランク帯の人間と殴り合う、純粋な「格ゲー力」の「理解らせあい」。対戦ゲームとしての質自体が高いのもあり、一戦ごとに闘いの中から何かを学んでいく楽しみに満ちている。そういえば前作の試合開始前セリフで「戦いの中に答えはある」とリュウが言っていた気がする。

そして今作最大の目玉要素になるのが、ストリートファイターシリーズ史上ほぼ初と言っていい大規模なシングルプレイヤーモード、「ワールドツアー」なのだが……これに関しては本当に、語りたいことが多すぎる。

あまりにも語る事の多いワールドツアー

あまりにも「ストリートファイター」

君たちは騙されていないだろうか。ストリートファイターは決して正義のヒーロー達では無い。
そもそも、正義のヒーローはそんじょそこらの路上で同族同士殴り合うような事はしない。「ストリートファイター」という連中はリングに上がるまで闘いを我慢できないからこそそう呼ばれているワケであり、言ってしまえば「闘いが好きすぎて頭のネジとか公衆道徳が弾け飛んだ救いようのないバカ共」の総称なのだ。不良やチンピラや或いは露出狂であったり、公道と自宅の判別も忘れてそんじょそこらの路上で所構わず安酒片手に日夜乱痴気騒ぎに明け暮れる連中の同族にこそ分類されるべきいかれトンチキ共だ。

「真の強さを知り真の格闘家を目指す」と文字に起こせば格好良くも見えるが結局のところそれは自分の為であり、基本的には根っからの純粋な善人の癖に己のエゴを勝手に大義名分か何かの様に掲げてその為にとそこいら中で暴れ回った結果幸運にも変態の野望を挫いたり謎の支持を集めている常軌を逸した放浪者。ついでに漫画版では麻薬取引の現場を警備していた男。
これは悪役の悪口ではない。我らが永遠の主人公、リュウさんのことである。

今作のワールドツアーというゲームモードは、とにかくその一点にあまりにも真摯だ。真摯すぎて街の治安が北斗の拳の世紀末世界を大幅に下回っている。
そんじょそこらの老婆に背後から先制攻撃の昇龍拳を叩き込む。その老婆はスパナを投げつけてきたり、たまに百裂脚なんかを繰り出してくる。中華料理店に向かう道中でダンボールを被ったバカどもが寄ってたかって殴りかかってくる。総人口の半分くらいにはレベルが表示されている、つまり「ストリートファイター所構わず殴り合うバカ共」だ。
そしてCAPCOMはこれを「暗い時代を生き抜いた人々のタフで前向きな気風」だと言い張っている。もしこの記事を読んでいる君が麻薬Gメンであるのなら、今すぐCAPCOMの社屋にガサ入れをした方が良い。こんな事を考える奴らが正気な訳がない。

ストーリーまでもが「ストリートファイター」

そんな総人口の半分がそこいらの道端で所構わず殴り合うバカストリートファイターで占められている狂った街、メトロシティから主人公の冒険は始まる。ここはかの名作ベルトスクロールアクション「ファイナルファイト」の舞台であり、そんな理由からか街中にファイナルファイトの筐体が転がっている。ちょっと意味がわからない。
本当に狂った街で強さを追い求め始めるという過ちを犯した主人公に師匠であるルークは優しく戦いのイロハを教え(本当にこのレッスンは優しく、基礎の基礎からしっかり雑魚戦ができるレベルまで優しくわかりやすく理解させてくれる素晴らしいものだ)、そしておもむろにこう告げる。「その辺の道端で戦ってこい」。彼は業務として戦いを教えている筈では?狂気に支配された異常都市メトロシティにコンプライアンスなどというつまらない概念は存在しない。
そんな頭のおかしい街で感覚の麻痺した師匠と戦いを学び、レジェンドファイター(要するにプレイアブルキャラクターの事である)達から様々な事を学び、真の強さとは何かを探る。その旅の中でいつしか陰謀と出会い、混沌の渦に巻き込まれ、そうしてまた一つ「強さ」を知る。
今作のストーリーは大雑把に言ってしまえばそんな具合だ。解る人なら解るだろう、これはストリートファイター1から2までのリュウの経歴と殆ど同じなのである。

勿論主人公もそのストリートファイターという我慢の概念を喪失したバカ共の一員な為、1から10まで全て「表」の世界で生きて学んでいけるという訳ではない。
今作の舞台メトロシティではかつてファイナルファイトの作中でCAPCOM版ズッコケ三人組によってしばき倒されたギャング組織「マッドギア」が存在しており、その残党や新興ギャング共が辺りを見渡せばゴロゴロと履いて捨てる程大量に存在している。この街で子供は育てられないだろう。
そんな反社会的勢力と頻繁に関わることになる点は、まず今作のストーリーモードで一番最初に人を選ぶ部分だろう。

再三繰り返すが、ストリートファイターはヒーローではなく、しかしヴィランでもない。ただの特殊な狂人の総称に過ぎない。正義と悪と誰かの生活がひしめくこの世の中で、そんな事よりステゴロだとばかりに自分勝手に喧嘩に明け暮れる頭のおかしい狂人共がストリートファイターであり、基本的にそれは真っ当な存在ではない。
あまりにもその一貫した「強さ」という狂気に実直なストーリーは、クリアした直後にnoteの編集画面を私に開かせた程には癖が強い。
間違いなく、このストーリーは今作最大の賛否両論要素になる。正直クリア者が増えたら確実に荒れるし、多分数ヶ月以内にスト2の牧歌的なイメージを想像して入ってきたプレイヤーがネタバレ上等でぶっ叩く過激な内容のツイートを流して、そのうちバズる。
しかしこれは唐突なものでは決してない。ストリートファイターZeroの頃からずっと続いてきた、「殺意の波動」のストーリー。リュウはずっと迷い続けているとされてきたが、彼が何を見てそこまで悩み憂いているのかに関してはまるで語られてこないまま、Vのゼネラルストーリーモードにおいて彼はそれを克服した。
そしてその課題は主人公、つまりプレイヤーの操作するアバターに引き継がれた。本当に素晴らしい、ストリートファイターシリーズを通して語られてきた題材に対して狂気的なまでに真摯なストーリーだった。これまでのストリートファイターとはだいぶ異なる感覚であるものの、ストリートファイターをひたすらじっくりと煮詰めた結果生じたものである事は間違いない。
それを「ストリートファイターの入り口」「初心者はまずここ」といったように設定するのは、はっきり言って常軌を逸している。成人したその日のうちにウォッカをストレートで飲まさせられるようなものだ。正直、初心者の入り口としての機能を設定するならもっと明るめのストーリーの方が良かったと思う。或いは「クリアする前に対戦にのめり込むだろう」、という「一点読み」なのだろうか。

勿論、質が低い訳では無い。この暗さも全て「ストリートファイトなんかの為に世界中を飛び回るバカ共とは何か」に対してあまりにも真摯すぎた結果でしかない。路上だろうが工場だろうが乱闘に励む頭のおかしいバカ共ストリートファイターの一員として自発的にバカになる強さを追い求める物語が英雄譚のように美しくまとまる訳がない。
ただその上で、前作でゼネラルストーリーモードが無料DLCとして配信されたように(あれは元々無かったモードの追加だったが)追加ストーリーの実装を希望したいと感じる。

ストリートファイターという狂気に慣れていない初心者達にこの物語の終わりを見せて「こういうもの」だと思わせたくはない。こういう部分が存在した上で、それでも尚殴り合いに興じて「強さ」とやらをわかった気になって偉そうに笑ったり何か勝手に悟ったり正義感に燃えたりするこれ全部リュウです様子のおかしいイカれた連中が「ストリートファイター」なのだと、そのメッセージの最後まできっちり込めて「これでスト6のストーリーはおしまいです」としてほしかった。
旧作の既存プレイヤーにしか解らない事を言うならば、追加ストーリーでギル様股間もっこりブーメランふんどし赤青半裸聖人君子金髪マッチョ天帝の秘密結社が出てくればちょうど良い感じにメタ的にもフィクション的にもみんなが満足する物語に事を運べそうな気がする。

またもう一つ問題点として、公式サイトに掲載されている前日譚の漫画を読まなくてはストーリーがあまりよく理解できないという物がある。漫画自体は非常に面白い内容で、読み応えがあるので是非とも触れてみて欲しい。前作のSide readersといい、何故ゲーム外にやたらと良いストーリー要素を置きたがるのかは永遠の謎である。
そして漫画を読み、クリアすると思うのだ。

全部漫画で読ませてくれ。

RPGの悪習

ワールドツアーモードの文法は、基本的には伝統的なRPGゲームのそれに近い。少しづつ広がるマップの中をクエストで盥回しにされたり、或いは夢を追っかけたりしているうちに、だんだん物語の終幕そして真相へと近づいていくというお馴染みのアレだ。
だが今作のマップはRPGとしてはだいぶ狭い。非常に入り組んだそれなりに大規模なマップが2つあり、他はポケモンで例えるならオーキド研究所ほどの広さしかない狭いエリア。
その結果、とにかくおつかいだらけで盥回しにされる。ファストトラベルのまだ開通していない場所に行け。OK。戻ってこい。次はどのファストトラベルからも絶妙に均一に離れた場所に行け。OK、一回戻って、また同じ場所に行け。もう一回だ。次はちょっとした迷路タワーを登れ、戻れ、また登れ、戻れ、また登れ。因みに迷路タワーへの道は最寄りのファストトラベル地点から徒歩一分以上だ。私はあのクソ・タワーが大嫌いになった。
はっきり言ってこれは最悪の体験で、今作最大の汚点と言ってもいい。勿論このモードの評価を「クソゲー」に変える訳ではないのだが、とにかくどういう意味があるのかまるで意味の解らないただストレスになるだけの移動が多い。

このおつかい地獄を悪化させている原因の一つは「昼夜切り替え」システムだ。大規模マップには昼夜が存在し、それぞれの大規模マップに存在する拠点に行くことでそれを切り替える事ができる。設定上は「拠点で休憩する」となっている。
何故所構わず戦いを挑みあらゆる場所で殴り合う狂人ストリートファイターが休む時だけは拠点に戻ってお行儀よく過ごしているんだ?勿論設定上の話をするなら周りも治安が悪いからには帰らなくては安全圏にならないのだろうが、ゲームプレイの観点においてはこのシステムに関してははっきり言って完全に蛇足で、ストレス以外に一切の価値を生み出していると思えない。
同じ様に治安の悪い世界観のゲームであっても、例えばCyberpunk2077なんかはそこは割り切ってその場で時間を進めるシステムを実装している訳で、ここは世界観とゲーム性を天秤にかけてその場での時間変更を実装してほしかったところだ。それかホテルをそこいら中に置いてくれ。
如何せんマップが入り組んでいるので、移動距離としては決して長いものでなくとも、往復のストレスは膨大なのだ。

メインクエストだけでも大量のおつかいがあるのに、タチの悪い事にこのゲームは非常に作り込まれていて、多くのサブクエストがマップ内に散りばめられていて、更にメインシナリオを進行しているだけではヒントもなく出会えないレジェンドファイターも登場する。サブクエストを進めていこうとすれば必然的に大量のおつかいの為に無意味な移動を幾度となく強いられる事になり、ゲームプレイ時間を締める実質的な空白の比率は際限なく高まっていく。
それでいて、難易度調整はサブクエストをクリアしていく前提で作られている。
億劫なおつかいに耐えかねて途中からサブクエストを殆ど放棄したプレイをしていたところ、後半になるにつれ雑魚敵もボスも自分の倍以上のダメージを出してくるようになり、格闘ゲームに慣れた人間の腕前を持ってしても他のRPGにおいてラストダンジョンに該当する部分ではアイテム漬けの攻略が基本になってしまっていた。
スキルツリー育成では耐久を捨てて火力と自由度を優先した選択をして、それでこれだ。何時間分のボリュームという表記はほうぼうで見られるが、その大半がサブクエストのおつかい地獄、レベリング、そして格闘ゲームとして作り込まれているが故にテンポが遅くなった戦闘だ。

CAPCOM旧作に登場した印象深い人物が多く登場する点に関しては高評価だ。メインクエストでもファイナルファイトに登場したダムド(イカしたルックスながら口笛で雑魚敵を呼ぶ鬱陶しい彼だ)が何度も登場し、サブクエストを与えてくれるNPCとしても旧作キャラはそこいら中にわりかし雑に散りばめられている。殆ど設定上の存在でしかなかったアントラー猪木を拾う辺りは相当常軌を逸しているし、挙句の果てにはエドモンド本田の勝利セリフの「ぎなた読み」でしかなかった存在しない人物「あさのけいこ」が捏造されて登場する。
胡散臭い格好と珍妙極まりない動きで虚空に日本刀を振り回すカルロス宮本なんかはマップ上に名前もあってかなり会いやすいが、やはりクエスト自体を進めていこうとするとおつかい地獄に引き戻されてしまうのである。

とにかく、あらゆる要素にかったるい盥回しおつかい地獄が付随するので、魅力自体は大いにあるにも関わらずあらゆる評価に批判が付属してしまう。それがこのワールドツアーモードだ。
幸いにも現代のゲームにはアップデートがつきものである。多少の改善は望める部分ではあるが……やはり対戦バランス面が中心になってしまうのだろうか。

ついでといってはなんだが、キャラメイクも絶妙に微妙だ。自由度は実に素晴らしく体型の変形の幅こそ異常に広いものの、どう弄っても表情が変わった時に顔面が微妙にブサイクになってしまう。整形に失敗して表情筋が残念なことになってしまった人のようだ。

総評

このゲームは、革命だ。対戦格闘ゲームというジャンルに一つの光明を切り拓かんとする革命的なゲームがこのストリートファイターという最も権威あるシリーズから登場した事に、まず何よりの感謝と敬意を表明したい。
ありがとうCAPCOM、フォーエバーCAPCOM。愛してるぜ。

まず何より、「対戦格闘ゲーム」として最高の存在だ。上を目指して切磋琢磨する楽しみはそのままに、ランクの数字を追いかけ回さずとも戦って発見を得る楽しみというものは存在するんだよ、というコンセプトを完璧に実現している。
チュートリアルなどの初心者がスムーズにゲームの本質的な楽しみに触れるための要素が本当に充実していて、ずぶの初心者から旧作のシステムが完全に手に馴染んでしまった「原人」まで万人が快適に始める事ができる作りになっている。一見旧作以上に難しいように見えるドライブゲージシステムも、手にとって実際に扱ってみると直感的に戦える絶妙な調整の施された素晴らしいものになっている。

君が格闘ゲームを恐れていて、しかし同時に興味深くも感じている場合、同じ様に初心者の友人を捕まえて、一緒にこのゲームを始めてみてほしい。どちらかが初心者狩り戦術をタチの悪い先輩に教わって実行でもしない限り、ランクマッチでブロンズ5に上がる辺りまでは何に困る事も無いだろう。このブロンズ5という数字はApex Legendsにおけるゴールド2辺りに相当する。おめでとう、あと一歩で名実ともに中堅プレイヤーを胸を張って名乗って良い領域だ。
君が格闘ゲームに親しんでいて、そしてさらなる刺激を求めている場合、罵り合える格闘ゲーマーの友人を捕まえて、一緒にこのゲームを始めてみてほしい。対策の面倒くさいキャラも一緒に考えれば怖くない。気持ちよく潰し合うプリミティブな楽しさというものを、このゲームは素晴らしく強烈に演出する。
お前を爽快に殴り飛ばして派手に絶頂する、という格闘ゲームの楽しさが万人に向けられた形で丁寧に凝縮されたゲームだ。今後の格闘ゲームが歩んでいく歴史において、間違いなく一つの分水嶺になるゲームだと断言できる。特にモダン入力は今後の格闘ゲームの一つの標準になって然るべきでさえある。

その上で、本当にワールドツアーが「悩ましい」。
これだけ魅力的で、安易なものでなくストリートファイター戦い以外の全てを忘れた頭のおかしい連中という概念自体に真摯に向き合ったストーリーを作り上げてくれた事に対しては本当に感謝したいし、私はこのゲームのストーリーが大好きだ。この内容を作る事ができないのなら、ストリートファイターなどというゲームタイトルは今すぐ変更すべきだと言える。それほどまでに今作のストーリーはストリートファイトという決してヒロイックなものだとは言えないインモラルな行為に対して真摯に作られている。
しかしこれはどう考えても「ストリートファイターの入り口」としては不適切な内容だ。「りゅうかっこいい」しか知らず右も左もわからない初心者にこれを見せて、一体全体CAPCOMは何をどうするつもりなのだろうか?本当にこれはそういったビジョンを持って作られたものなのか?「がいるのあたまはモップ」の次に知るストリートファイターの知識がこれでいいと本当に思っているのだろうか?
シナリオライターに「これはストリートファイターの入り口として設定されたゲームモードである」という意図がきちんと伝達された上でこれなのだろうか?もしそうならシナリオライターは気が触れているし、そうでないなら開発体制に問題がある。

その上でワールドツアーモードのゲームプレイは、おつかいの末にひたすら雑魚敵を捌き、おつかいをしては夏の寝床の耳元の蚊の如き鬱陶しさのドローンに翻弄され、また盥回しにされてはおつかいに戻る退屈な往復作業の連続だ。
RPGゲームの悪習が煮詰められた上でそこかしこに剥き出しになっていて、じわじわと正気を蝕まれ、気がつけばアケコンにまっすぐ身体を据える事も無くなっていた。ネームドキャラクターより雑魚戦の方が一対多な分注意を払う必要のある内容なのも苛々する。
「話は面白いがゲームプレイは虚無だ」と批判されていた前作ストーリーの反省点を、本当に駄目な形で活かしてしまっている。

なので初心者の方は、一度バトルの操作に慣れるか或いはちょっと飽きてきたなと思ったら、躊躇なくストーリー進行を中断してバトルハブの初心者部屋に行くか、身近なプレイヤーに教えを乞うなどしてほしい。或いはいっそランクマッチに飛び込んでみるのも悪くない。ランク認定戦さえ終われば、システムが強制的にあなたと同レベルのプレイヤーをあてがってくれて、同格の相手と楽しい勝負を繰り広げる事ができるはずだ。
このゲームの問題点の殆どはワールドツアーモードに含まれていて、対戦格闘ゲームとしては最高に面白いゲームだ。気に入ったのならそのままやり込めば長時間楽しみ続けられるだろうし、肌に合わないと思ったら、容赦なくそこで切り替えて、ゲーム内の他のコンテンツに移ってしまって良い。バトルに疲れた頃にふと思い出して進めればそれでいいし、そうでなくとも罪はない。疲れてきたらファイナルファイトに連コインしてもいい。このゲームは、結構自由だ。

そんなこんなで、私は発売以降毎日気が触れたようにこのゲームをプレイし続けているのであった。スト6最高。
ワールドツアーモードを今後プレイするかは正直怪しいが、本当に面白い。対戦部分に関してはもう言いたい文句が一つしか思い浮かばないくらいだ。

アレックスを実装してください。早く。一刻も早く。

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