あいりす♢

一次創作ファンタジー小説、または詩を書いてます

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最近の記事

紳士な蜘蛛のお話

 車を運転していると、フロントガラスに虫がいることに気が付いた。  どうせ走っている内にどこかに行くんだろうとか思っていたが、どうやらその虫が車内にいると分かって少し驚いた。どこからか隙間を縫って入って来たんだろう。  そいつはドライブレコーダーから糸を垂らしている蜘蛛だった。虫も蜘蛛もそんなに苦手ではないので、つまみ出して追い出してやろうと思ったが外が雨だったので、せっかく雨宿りしているのに可哀想だったし、自分もこれから急ぎの用事がある訳でもないのでそのままにして車を停めた

    • 日本妖怪「河童の落語」

      「さぁさぁ皆様、寄ってらっしゃい聞いてらっしゃい。河童の落語のお時間ですよぉ」 「いやはや、皆様集まって頂きありがとうございます」 「わたくし、河童はですね、人間たちの……」 「落語、というものを真似てこのような催しを開かせて頂きました」 「本場の落語とは少々ズレがあるかと思いますが」 「皆様にも落語の良さが伝わればと思い、河童界初めての落語を始めさせて頂きたいと思います」 「さて、我々河童はですね」 「皆様ご存知の通り、頭に皿、手足に水かき、肌は

      • さよならクッキング

        飛行機の窓から あなたに手が届くのかと思って 泡立て器で混ぜて メレンゲを作って 雷雲で遊んだ そんなことしたって どうにもならないことは分かってるけれども これが最初で最後の 僕の悪足掻きって笑ってくれよ 電車の窓から あなたに手を振るんだと思って オーブンの光で焼いて 焼き立てケーキを作って 夕陽色で描いた そんなことしたって どうにもならないことは分かってるけれども これが本当の最後で 僕の悪足掻きって笑ってくれよ

        • 一宵の舞

           俺が雅楽舞踏を始めたきっかけは、こんな些細なことからだった。 「なぁ、お前ん家金持ちなんだろ?」  今思えば失礼な言い方だったと思う。小学生男子が言うことなんてこんなレベルだったかもしれないが、当時の俺は友達の家に遊びに行きたいがために振った突拍子もない質問だった。 「そうだけど、オレん家には来ない方がいい」  この頃から仲良かった友達のマコトが、俺の言わんとしていたことが分かったのかそう返されてしまった。だが俺は、そんなことでは引き下がる子どもではなかったのだ。 「そんな

        紳士な蜘蛛のお話

          朝のコーヒー

           昨日の内に乱雑に閉めたカーテンから朝日が差し込んできて目が覚める。遮光の意味もしっかり閉めなければこうも眩しい休日の寝室は、いつも以上に静かな気がした。  布団から出るにはまだ寒くて、手身近にある服を引っ張ってその場で着替えると、そろそろ起きなくてはと脳が覚醒してきてずるりとベットから転がり落ちる。  ひやりとしたフローリングの床に足の裏まで目が覚めて、はっきりとしてきた聴覚は外でさえずるヒヨドリの声に気が付いた。  もう秋なんだなぁと思う。  重たくて離れ難い布団をなんと

          朝のコーヒー

          幸運渡し

          「ねぇ、見てよ〜、ユミキ」 「え、何?」  たった今「ユミキ」と呼ばれた私は、彼氏へ視線を向ける。  するとそこには、困った顔をした彼氏がいて、私にスマホ画面を見せた。  その画面に映るのはスマホアプリのガチャ結果。彼氏に影響されて始めたそのアプリのガチャ結果は、正直に言うと悪い。先程課金したというのにこの有様なら、爆死というやつだろう。 「最悪っ、レア一つも出ないなんて」  今日はツイてないなぁ、なんて呟きながら。  私は少し考え、彼氏のスマホに手をかざした。 「もう一回し

          七夕嫌いだった私が願い事を書いた日

           七夕祭りなんて、嫌いだ。  街や店が七夕祭りに向けてすっかり模様替えをしている中、私は心の中でどんよりとそう考えた。  七夕祭りというか、誕生日もクリスマスもみんな嫌いだった。  いつも人とは違うことを好んだ私は、子どもの頃から浮いていて。変わった子なんて言われるくらいだったが、私に付き合える友達も彼氏もいたことがないまま二十歳も過ぎて。  なぜなぜ質問が多い私は親からもそれとなくあしらわれ、子どもだった私は必要な愛情を足りないとどこかで感じるようになって欲しいもの

          七夕嫌いだった私が願い事を書いた日

          春と秋の山

           かつて炭鉱で栄えていた町はすっかり村になってしまった頃、残された水力発電所のそばには、一本の桜が変わらず春を愛でていた。  そんなある日の厳しい冬に、珍しく雷鳴が轟き、高地に位置していた桜に、残酷にも稲妻が落ちた。  また同じ春がやって来た時にはそれはすっかり焼け焦げたばかりで、これはもうだめかもな、なんて一人の男性が呟いた。  だが、彼にとってこの場所はかつての青春であり、後世に語るべき歴史の地であると固く信じていたので、焼けた桜と古びた発電所周りを整備し、周りに紅葉を植

          春と秋の山

          トゥルース言葉

           八木(やつき)レンは、昔から正直な男だった。  体が大きな人には平気で「太ってる」と言い、声の小さい人には「聞こえない」と大きな声で言ってしまうものだから、学校でも度々先生に指摘されていた。  しかし、レンには悪気はなかった。なぜ、嘘をついてはいけないと言われるのに、人の見た目や性格をはっきりと言ってはいけないのか。分からないととある先生に問いただすと、レンはこう言われたのだ。 「本当のことを言う必要がないからです」  それは、その時はそう言うべきではなかった、と先生は言い

          トゥルース言葉

          ゾウの殺人

           今日の依頼は、ここからは遠い国からだった。  見渡す限りのサバンナ地帯。隣にいる助手(ただの付きまとってるやつ)はすでに限界を示していた。 「先生〜、まだですか〜?」  彼女……フォレスターはすでにぐったりとしながら歩いていた。  それもそのはずだ。ここは日中は五十度を越える程暑い国。  近くの都市までは飛行機で繋がっているが、そこから半日かけて歩いた村まで行かなくてはいけないので、フォレスターはずっと文句を言い続けている。 「そんなについて来るのが嫌なら、私の

          ゾウの殺人

          話屋の笠地蔵

           初めましての方は初めまして。私はまだまだ駆け出しの話屋でしてね? まだまだ拙いのですが、一つお話をさせて頂きます。  こちらまで足を運んで私めのお話を聞きに来て下さったみなさんに感謝を込めて、精一杯お話をさせて頂きますね……。  さて、みなさんは日本昔話をご存知でしょうか。日本に暮らしていると、一つや二つは聞いたことがあるかと思いまして。  川から桃が流れたり、灰をばらまいて花を咲かせたり……一見すると、嘘みたいな話ばかりですよねぇ? しかし、探してみると、元になった

          話屋の笠地蔵

          幽霊バス

           今日も、空っぽの席を運ぶ。  ここは、大半山が占める田舎の町だ。昔は炭鉱で栄えた大きな町だったようだが、今では廃れて人口も減り、次第に若い人は出て行った。  誰も通らない交差点で、律儀に信号を待って走る一台のバス……を運転をしているのが僕である。  高齢者の多くなったこの町では、車と免許を手放したご老人たちが時々バスを利用していた。大体降りる先は病院。あとは、町で唯一のスーパーマーケット。  それでも、時間の決まっているバスに乗る人は一握り。あとはタクシーを呼ぶ人の方が多か

          嫉妬の味

           嫉妬をしない人間なんていないらしい。  だったら私は人間ではないのか。そう考えたが答えはない。  後から生まれた弟と妹は、手先が器用で世渡り上手だった。けれども私は、嫉妬どころか全力で接した。  ケンカもあまりしなかった。  私で失敗したと気付いた母は、子育て方針を変えてくれたのが助かった。私と違って、弟と妹には、肯定感が高くなるように接した。私もそれに見習った。見事に肯定感の高い弟と妹に成長し、私は一度も、それに嫉妬したことがない。  しかしそんな私にも、心豊かな弟と妹の

          生き地獄死に地獄

          「そんなことも出来ないの」  そんな言葉、もう何万回も聞いてきた。  リボン結びも掃除機の使い方も包丁も。全てのことを押し付けて、ユメカの母はほとんどの日々を留守にした。  母はユメカを、都合のいい時だけ頭を撫で、都合のいい時だけ使い魔にし、都合のいい時だけサンドバックにした。  それでも学校には通っていた。それだけがユメカの救いだったが、ある時、母が男を連れ込んだ時にとうとう限界の緒が切れた。  増え続けるアザがさすがに服では隠せなくなった頃、ユメカは学校にすら行けなくなっ

          生き地獄死に地獄

          炎の夢

           炎の夢を、見たことがある。  それは、まるで火事の渦中かのように前も後ろも炎で、逃げ場がないのに怖くない、と初めて見た時からなぜかそう直感していた。  あまりにも何度も同じ夢を見るので、だんだん慣れてきた私は、次第にその場で寝転んだり散歩をしたりしていた。  動けばその通りに炎が私を避け、真っ暗な世界を赤だけが煌々と照らしていた。  そんなある日だった。炎の夢ばかり見ている私を心配した母が、カウンセリングに連れ出した。当時の私は、それが悪夢だと思ってもいなかったので

          朝日の思い出、秋と共に

           朝の仕事はいつも憂鬱だ。  なにせここは北海道だし、まだ雪も降っていないのに白鳥が早くに空を渡っていて寒い。  そんな中の唯一の楽しみが、職場から見下ろす景色だった。  心なしばかりの防風林がわずかに色付き、昇り立ての太陽を木漏れ日が輝いて美しい。  昔、あそこに住んでいたんだったか。  自ら選んだ委員会だって、子どもの頃は朝早い活動がどこか嫌に思っていた。その時見た、人もまだらな教室から射し込む朝日の廊下が、今も鮮明に思い出すことが出来る。  学生生活、楽しいことばかりで

          朝日の思い出、秋と共に