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#5 取り組むべきアイデアを決める「モノサシ」

壁を傷つけずに、好きな高さに美しい空中棚を取り付けられる「AIR SHELF(エアシェルフ)」。 このnoteでは、AIR SHELFができるまでのブランドストーリーを具体的に発信していきます。 2024年2月29日の発売に向けて、美しい空中棚がどうやってできたのか?を楽しみながらお待ちいただければ幸いです。


みなさん、こんにちは。AIR SHELFのブランドマネージャーを担当している大川と申します。

前回は、平安伸銅工業とTakramさんのプロジェクトday1について共有させていただきました。プロジェクトのベクトルを合わせるためにも、day1で行った、経営者インタビュー・社員インタビューや、day0アイデアだしが重要だったことが少しでも伝わると幸いです。

これは、企業のケイパビリティ把握や目指すべき方向性の整理のためにも重要だと思います。なので、社内メンバーだけで新規事業や新ブランド創設を行うときにも、このプロセスは有効だと考えています。

むしろ社内プロジェクトだと、メンバーが一緒にいる時間が長いからこそ、同じ考えを持っていると過度に期待して、目線合わせをしないまま進んでしまっていることもあるかもしれません。

さて今回は、たくさんのコンセプトの中から、商品の設計・開発へとプロセスをに進めていく有望コンセプト案を絞るまでをご紹介できればと思います。

モノづくりのプロセス

通常モノづくりは、以下のようなプロセスで行います。

一般的なモノづくりのプロセス

設計・開発のプロセスでは、マンパワーや予算を考えると、いくつものコンセプト案を同時に進めることが難しく、基本的には、有望案を一つに絞って進めます。

考えるべき方向を絞るポジショニング設計

今回はまず、ブランドの方向性を絞っていくために、Takramさんにさまざまな手法で新ブランドで担いたいポジショニングを整理していただきました。以下はほんの一例ですが、私たちが既に展開しているブランドと対比させながら、価値となる「軸」を四象限で分類し、今回のプロジェクトでは、どの方向性が良さそうかを探っていく形をとりました。

既存ブランドと新規ブランドのポジショニングマップ

四象限や二軸マップ図などを活用しながら、このように新ブランドの方向性を探るためのポジショニングマップを複数作成しました。

前回ご紹介したプロジェクトのday1で出した具体的な製品アイデアは、そのまま開発プロセスに持ち込むのではなく、アイデアを抽象化しながらブランドコンセプトのヒントとして活用しています。

このポジショニングマップをみながらTakramさんと平安伸銅工業で、今回のメインテーマとなる「新しい定番をつくる」にふさわしいアイデアはなんだろうと議論を重ねました。

このように、day1で顔合わせした後に、有望案の提案を受けてその中から選ぶという形ではなく、平安伸銅工業もコンセプト創造のプロセスの中に入って議論を重ねてたおかげで、お互いの価値観を共有し合いながらこのプロジェクトを進めることができました。

例えば、Takramのプロダクトデザイナー岩松さんは、議論の中で頻繁に「暮らすがえに照らすと…」と我々のミッションに沿ったフィードバックをたくさんしてくださいました。もともとが平安伸銅工業の外部の方だったTakram(岩松さん)さんが、弊社のミッションを自分事として捉えてくださったおかげで、同じ価値観を持って話を進めていくことができました。

ブランドコンセプトを形に

この議論を元に、Takramさんが複数のブランドコンセプトを形にしてくださいました。その中で、AIR SHELFとして結実したコンセプトが以下になります。(コンセプトの一部分は、実際の製品に盛り込んでいない仕様もありますので、ご了承ください)

この時点で、AIR SHELFのコアバリューになる、「壁面を傷つけない」、「スッキリした」、「暮らすがえ」などのキーワードが入っています。その他の案も、今回お見せすることはできませんが、どれも私たちのミッションに沿ったご提案にまとめてくださいました。そのどれもが、可能性を感じるコンセプトばかりでした。

取り組むべきアイデアをきめる「モノサシ」

ここからは、平安伸銅工業で、実際に開発・設計に進める案を絞り込みます。どのように案を絞り込むか、大きく以下の4つの観点から考えてました。

  1. マーケットの観点

  2. ユーザーの観点

  3. マインドの観点

  4. 解決したい問題と製品のカタチの一致度の観点

「マーケットの観点」は、このブランドが新しい暮らしの定番となり、多くの方々に喜んでいただるか、という考えのもと、複数の判断軸を持っています。

a. 市場規模が十分にあるか?
b. 新規事業であり、自分たちの殻を破る領域に半歩踏み出しているか?
c. 一方で、自分たちの「強み」も確かに活きているか?
d. 最後に、賛否両論が起きるほどの新規性を感じられるか?

少し補足すると、越境性に関しては「半歩」が肝と考えています。完全に新しい取り組みだと、自社の強みを活かせず、平安伸銅工業が取り組む意味がない事業になりかねないからです。革新と保守のバランスをうまく取ることをいつも意識しています。

「ユーザーの観点」は、デプスインタビュー(一人のユーザー候補との対話)を行って判断したのですが、とても学びが深いプロセスなので、次回の記事で深掘りして共有させていただければと思います。

「マインドの観点」は、シンプルに弊社側のプロジェクトオーナーに「諦めずにやり切れる情熱があるか」です。今回のAIR SHELFは、過去のブランド開発と異なり、経営者はプロジェクトに入らないようにしました。

現場のオペレーションに経営者が入ると、その発言内容にメンバーが引っ張られてしまい、その気はなくとも発想の多様性が制限される可能性があるからです。(一方で、LABRICOもDRAW A LINEも経営者のトップダウンで推し進めてきたからこそ推進できた側面もあります。)

当時、プロジェクトメンバーに入っていたのは、私(大川)と、プロダクトデザイナーの石橋でした。AIR SHELFの原案を見たときに、石橋が「この案は絶対に平安伸銅工業で取り組むべき。我々じゃないと誰がするのか」と強く主張したことが、このプロジェクトに息吹を吹き込んだ転換点になったと思います。この言葉があったことで、初めて経営者も自分の手を離して、現場のメンバーに任せてみようと思えたのではないでしょうか。

以後、Takramの岩松さん、平安伸銅工業の石橋、大川の3人でプロジェクトを推進することになりますが、3人の熱量が最後までまったく下がることなく議論し合えたことが、ブランド体験の作り込みに大きく寄与しました。

「解決したい問題と製品のカタチの一致度」の観点は、解決すべき問題と製品のカタチがちゃんと「対」になっているかです。この観点は、ユーザーヒアリングでも注意深く見極めた点になるので、詳しくは次回の記事でご紹介させていただければと思います。

ポイントは、このブランドが叶えたいこと(=「解決すべき問題」)がユーザーにとって意味のあるものか、その解決策として製品がきちんと機能できているか、です。この2点がどちらも高いレベルであるかどうかを判断します。 

普段の暮らしの中で、ユーザーが気にならない、重要ではない問題であれば、どれだけ解決案を頑張って提案してもユーザーにとっては無意味ですし、解決すべき問題が適切でも、製品アイデアがその解決に寄与しないなら、ユーザーに価値は伝わりません。
その見極めを、ユーザーヒアリングの内容を基に判断していきました。

今回は少し長くなってしまいましたが、以上となります。
簡単にまとめると、コンセプトの立案は、具体的なアイデアと抽象的な方向性を「行き来」しながら行いました。
そして、複数のコンセプト案の中から、開発プロセスに進める案を1つに絞るために、4つの観点で企業として取り組むべき案であるかを判断した、ということになります。

次回は、今プロジェクトの中でも全編を通して自分たちの判断軸になり続けたユーザーヒアリングについて共有させていただければと思います。

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