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開発ストーリー#6 コンセプトを磨き上げるユーザーヒアリング

壁を傷つけずに、好きな高さに美しい空中棚を取り付けられる「AIR SHELF(エアシェルフ)」。 このnoteでは、AIR SHELFができるまでのブランドストーリーを具体的に発信していきます。 2024年2月29日の発売に向けて、美しい空中棚がどうやってできたのか?を楽しみながらお待ちいただければ幸いです。


みなさん、こんにちは。
AIR SHELFのブランドマネージャーを担当している大川です。
前回は、コンセプト立案から実際に開発業務に進めていく有望案を絞るまでのプロセスをご紹介させていただきました。

コンセプトを「つくる」ことも難しいですが、コンセプトを「しぼる」ことも、選ばなかった未来の可能性を捨てる(もしくは、保留する)ことになるので、同じくらい難しいですよね。

だからこそ、会社によって判断軸(いわゆる、「ものさし」)はしっかり持っておいた方がいいと思います。「ものさし」自体が変わることがあっても、決める時にはどんな「ものさし」を使うのか、会社として合意しておく。そうしておけば、後からプロジェクトを振り返った時、「次はこうしてみよう」と学びを活かすこともできると思います。

ユーザーニーズの把握方法

さて今回は、コンセプトの有望案を絞る際にも、また、その後の製品設計のディティールを詰めていく際にも判断の軸であり続けた、「ユーザーニーズ」を把握する方法をお伝えします。

ユーザー調査といっても、今回のプロジェクトでは定量調査は行わず、定性調査のみを実施しました。中でも、ユーザー候補の方と1対1で話し合う、デプスインタビューを基本としています。
似た調査にグループインタビューという手法もありますが、インタビュイーが互いの意見に同調しやすく、本音を聞き出しづらいというデメリットがあるので今回は実施しませんでした。
デプスインタビューは以下のステップで進めました。

  1. ヒアリング対象者の選定

  2. ヒアリングの準備

    1. コンセプト文章の作成

    2. 製品イメージの作成

  3. ヒアリングの実施

  4. ヒアリング内容の整理・示唆出し

この記事の中では、主に1~3について共有させていただきます。

ヒアリング対象者の選定

まずはヒアリング対象者の選定について。
私自身、別のブランドでユーザーヒアリングを行う際は、購入頻度に合わせて、ロイヤルユーザー、ライトユーザー、ノンユーザー等に分けて実施していました。しかし、今回のように新規事業の立ち上げとなると、そもそもユーザーがまだ存在しません。どのようにヒアリングの対象者を選べばよいのか、Takramさんに参考に教えていただいたのが、千葉工業大学で教鞭をとられている安藤昌也教授が開発した「SEPIA法」によってヒアリングする方々を区分分けする手法です。

これは、「サービスを利用する自己効力感(やれるか、やれるように頑張れると思うか)」を縦軸に、横軸を「サービスに対する製品関与度・興味」に設定し、ユーザーを4象限で整理する方法です。

どの象限にいる方にお話を伺うかは、ヒアリングの目的によりますが、AIR SHELFの場合は、基本的にインテリアに関する関心・感度が高い方の反応知りたかったので、①と④の象限にいそうな方々にお話を伺いました。④の方も含めた理由としては、組み上がった家具とは異なり、ご自身で組み立てる工程が必要な製品だったので、DIY耐性が低い方にとっても魅力に感じていただけるかを把握したかったからです。

ヒアリングの準備

初期のコンセプト文章
初期の製品イメージ

ヒアリングに向けて、コンセプト文章の作成と製品イメージの作成をそれぞれ行いました。
コンセプト文章には、課題設定(「こういうことに困りませんか?」)と、解決策としてのコンセプトの説明(「こういう製品です」「こういうことができます」など)を詳細に盛り込みました。

もう少し細かく説明すると、
①対象ユーザーの課題(〇〇したいけど、なんらかの理由でそれができない)
②その課題を解決するコンセプトを一言で表現
③この製品によってユーザーが享受する便益
④その便益をこの製品が実現できる根拠(≒スペック)
⑤そして、製品イメージ、
の5つです。

ユーザー候補の方々に質問を投げかけながら、仮説として設定した①~⑤文章のうち、どれがユーザーのニーズや思いと当てはまっていて、どれが異なるのかを丁寧に深掘りしていきます。例えば、仮説として設定した①ユーザー課題は実際に感じているが、③製品によって得られる便益がしっくりこなかった。①~④まで非常に共感いただいていたのに、⑤イメージを見た途端、「思ってたのと違う」といった反応もいただけたりします。

あくまで、製品の良し悪しを「ざっくり良い悪い」と判断するのではなく、どの部分がユーザーに共感されるかどうかを丁寧に掘り下げて、改善していくことがユーザーヒアリングの段階では大事だと考えています。

ヒアリングの実施

ヒアリングでは、コンセプト文章のみを見た状態と、製品とコンセプト両方を見た状態、2回に分けて質問を行いました。これは、コンセプトと、解決策である「形」がユーザーにとって一致しているかを把握するのに必要です。(先ほどの例で挙げた、①~④には共感するけど、⑤の形は違うというパターンです)

AIR SHELFを例にすると、当初から現在まで、「収納量とすっきりさのトレードオフを乗り越える」という製品ポジションは変わらないのですが、はじめはもっと収納量を重視したデザインを採用していました。

収納量を重視したデザイン

しかし、何度かユーザーヒアリングをする中で、「収納量とすっきりさのトレードオフを乗り越える」というコンセプトレベルでの「課題」と「解決策」のセットは、共感されたのですが、いざ製品イメージを掲示すると、インタビュイーにとって「すっきりさ」の方が、収納量より大事ということが見えてきました。

賃貸などに住まわれている方は、「居住面積が広くないので、床面積を圧迫するような収納BOXは、なるべく置きたくない」といったコメントが多く、製品のディティールを見直すキッカケになりました。その結果が、今の製品の原案になっている以下の製品イメージになります。

これ以外にも置く場所や、置くものなどについてヒアリングを重ね、どんどん製品設計を具体化していきました。まだ設計に入っていない段階でもユーザーヒアリングを複数回行いましたが、ここでヒアリングしたユーザーの課題感が製品設計を進める上で悩んだ時に立ち返るポイントになりました。
当時も、迷ったときは、ヒアリング内容をまとめたものをみんなで振り返って、次のアクションを決めていきました。

今回の共有は以上になります。
次回は、製品のプロトタイプができあがった際に行った、ユーザーテストについてご紹介します。試作展示会という形で、多くのユーザー候補の方に実際に製品のプロトタイプを見ていただきながらお話を伺う手法です。
次回もお楽しみに!

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