見出し画像

新宿に行けば私なんて幻でしょう?

なんとなくゆるゆるかな。あたしが疑っているってことにあなたが気づいてしまったようだから。

自分のどこを好きになってくれたのか分からない、と言いましたね、高慢にも。自分に秀でている部分がないから、とも。その時は上手く答えられなかったのでここで語りかけます。あなたが地を這うなら私も共に行きます、あなたが深く呼吸をするなら私は心から喜んであなたに届きます、理由など、私がそうしたいと願うからで充分なのです。エゴイストだね、と寒しく笑うでしょう、そうです、私はあなたを愛したいという欲望を満たすためにあなたを好いているだけ、あなたが聖人であろうが罪を犯そうがそんなことは瑣末な脚注に過ぎないのです。ただ覚えていて、私にはあなたでなければ出会えなかった季節がある、これから先誰と指先を絡めても、私にとってその季節は今後一切あなたなのです。たかだか十数年ぽっちしか稼働していない精神が誓う永遠など馬鹿馬鹿しいとあなたの純真を鼻で笑った薄暗闇の春、私あなたに恋してはいけなかったのよ。

素っ気なく欠伸を続ける顔が嫌なら嫌なほど良かった。扇情がやがて希釈され、あなたと手を繋いでも心臓がテンパらなくなったから安心しました。心拍数どくどく、ぷつり。ああ、あなたの情欲を掻き立てながら死ねたら、どんなに世界は綺麗だったことか。すすけた新宿の道をふらと滑った時、あなたの顔なんかこれっぽっちも浮かばなかったもん。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?