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“心地よさ”を追求した図書館BGM制作【AISO導入の舞台裏】

音×テクノロジー。AISOはこれまでにない音楽構築システムです。
AISOのスイッチを入れるとBGMが半永久的に構築され、スイッチを切るまで音楽が鳴り続けます。

2022年、香川県善通寺市立図書館の館内BGMにAISOが導入されました。そのBGMを制作されたのは、AISO「アーティスト版」に参加いただいた宮内 優里さんです。

前回の制作インタビューに続き、図書館BGM制作をすることになった経緯や制作過程、そしてあらためてBGMについてなど......今回もAISOチームでお話を聞いてきました!

宮内 優里 / MIYAUCHI YURI
音楽作家。1983年生まれ。千葉県八街市在住。2006年にRallye LabelよりCDデビュー。生楽器の演奏とプログラミングを織り交ぜた、有機的な電子音楽を制作する。これまでに7枚のアルバムをリリース。最新作は2022年リリースの「Beta」。
ライブ演奏では即興での多重録音によるパフォーマンスを行う。WORLD HAPPINESS、FUJI ROCK FESTIVALなどにも出演。近年はBGM演奏という形をメインに、全国の書店、美術館、図書館など、様々な場所で演奏をしている。
自身の活動以外では、映画「岬のマヨイガ」(監督:川面真也 / CV:芦田愛菜ほか / 原作:柏葉幸子)、映画「リトル・フォレスト」(監督:森淳一 / 出演:橋本愛ほか / 原作:五十嵐大介)などの映画音楽をはじめ、NHK・Eテレ「あおきいろ」、「Q~こどものための哲学」や、ドラマ・舞台・CM・店舗BGMのプロデュースなど、様々な形で音楽制作・楽曲提供を行っている。
KENJI KIHARAとの音楽プロジェクト「BGM LAB.」や、映像作家・川嶋鉄工所との映像制作ユニット「MIYAGAWATEC」などでも活動中。

【左から】津留 正和(AISO) / 宮内 優里さん / 日山 豪(AISO)

現地の雰囲気そのままをBGMに

津留:善通寺市立図書館のBGM制作を行うことになった経緯を教えていただけますか?

宮内 優里さん(以下、宮内さん):きっかけは善通寺市立図書館の館長から2020年にご依頼いただいたBGM演奏のイベントです。当時は同じ香川県にある綾川町立図書館の館長をされていたんですが、以前から僕の音楽を聞いてくださっていて。綾川町立図書館でのイベントは、演奏する僕の周りにあえて椅子を置かず、来館者には普段通りに図書館で過ごしてもらうものでした。生演奏は館内全体にうっすらと流れる......といった内容で、そのイベントで手ごたえを感じられたようです。その後、館長が善通寺市立図書館に移られて......図書館自体の移転でリニューアルをすることになったタイミングでBGM制作のお声がけをいただきました。

宮内さん:館長からは「制作プロセス自体をイベントにしたい」という要望をもらいましたが、それ以外はほぼおまかせいただいて。僕としては公共施設、それも図書館のBGMを作らせていただくことがすごく面白いなと思ってお受けしました。ただ、BGMで問題となるのが「聞き続けると飽きちゃう」という点なんですよね。それを避けようとすると、できるだけ長い曲を作ることになる。そうすると予算も時間もかかるので......今回の予算と制作方法、納期を考えた時に、AISOで作るのがいいんじゃないかと思いAISOチームへ相談をしました。

津留:チームとしては本当にありがたいお話でした。AISOを活用できるフィールドがあると思ってくださったんですね。

宮内さん:AISOを使えば、飽きることに関しては避けられるなと。そして、公開制作とは決まってはいたものの、設備や環境の点で現地では作りきれないなとも思っていて。その点、AISOだったら音のカケラを持ち帰ればBGMを構築できますよね。現地の雰囲気もそのままパッケージできそうだし、AISOのランダムに自動構築がされるという特性上、公開制作後に僕のコントロールが及ばない感じもいいなと考えました。

津留:依頼内容とAISOの相性もよかったんですね。

図書館内での公開制作

宮内さん:館長のアイデアで、公開制作当日に1時間だけ一般の方にもBGM制作に参加してもらえる時間を作りました。実は簡単に僕っぽく演奏できる技があって(※最後の【こぼれ話】を参照)、それを参加者にお伝えしながら......1時間でお子さんも含めて十数名の方に参加いただきました。

津留さん:完成したBGMにも参加者の音が入っているんですか?

宮内さん:入ってます。BGMもほぼ公開制作で録った音で構成されています。公開制作自体は7時間ぐらいかな、ほとんど1日で録りました。

津留:けっこう長時間、制作をされたんですね。

宮内さん:僕の感覚としては、場所を変えて作っているという試みに近いものでした。 公開制作中は本当にずっと作っているだけでしたし、図書館なので自由に本も読んでくださいっていう雰囲気で。結構長い間いらっしゃる方もいましたね。

津留:その場にいた人は、公開制作で作っていた音がこのBGMになったんだっていう楽しみ方もできますね。

日山:参加意識もすごく大事だから、上手ですよね。すごくいいと思う。

●公開制作の様子

宮内さん:僕自身は公開制作の2〜3日前から善通寺市に滞在していました。市内で色々と体験をさせていただき、その気持ちを持って公開制作に挑んだという感じです。

津留:そこは大切にしているポイントなのですか?

宮内さん:厳密に何かあるわけじゃないんですけど「ああ、こういう町なんだ」っていう感覚が自分のなかに少しでも入った状態でやる方が絶対良さそうじゃないですか?
あと『YACHIMATA』の延長で『LOG』っていうシリーズをやっているので、その制作も兼ねて。行ったことのない場所で環境音を録って、感じたままに音楽を作ると新鮮なものが出来たりしますし。

現地の環境音は図書館BGMにもと思っていましたが......夏に行ったのでセミの声しか録れずやめました。それに室内で環境音が聞こえることが新鮮に感じられる場合もあれば、「窓が空いてるんじゃないか?」と気になる場合もあるかもなと思って。今回は実際に現地で演奏してみたところ、環境音がなくても全然問題なさそうでしたね。

言語化できない“心地よさ”の表現

日山:図書館用BGM制作ということで、普通のBGM制作と比べて違ったことや気をつけたことはありましたか?

宮内さん:それは僕自身の感覚に頼りました。その場で音を出して、違和感を感じるかどうか。僕のなかではそれが1番わかりやすくて。

日山:逆にその場に行かなければ制作は難しかったですか?

宮内さん:予想しながら作ることはもちろんできたとは思います。でも、実際に図書館で出していいなと思った音だから大丈夫、っていう気持ちになれたことは大きいですね。といってもすごく曖昧で数値化も言語化もできない部分なので、本当に個人的な感覚ではあります。

日山:それはすごく重要な精度ですよね。気持ち良い肌触りの布みたいな話で、ちょっとザラついた布がいい場所だってありますし。

宮内さん:例えば家でやっていたら落ち着いた音にしていたところが、現地で音を出してみると響く感じがもったりするなと感じたりして。そうすると楽器の選び方も変わってきたりしますよね。でも、それはなんで?と聞かれると「なんとなく」っていう......あくまで僕が思った心地良さでしかないんですけど。七味のかけ具合みたいなもので、人によって感じる辛さは全然違うので。
あとは、実際にどんなスピーカーで流すかでまた変わってきちゃいますしね。AISOチームにも事前に「どういう環境でかかるかわからない」というお話はさせていただきました。

日山:僕はそうおっしゃった宮内さんにすごく共感しました。作った曲をリスナーがどういう状況や時間帯に聞くかなど...... 作った後のことは我関せずという方もいるので。宮内さんはそこまでちゃんと考えられてるんだなって。

宮内さん:Spotifyにアップする曲とかは全くコントロールできないのでしょうがないですけどね。今回に関してはこれまでの経験から“どんな環境でも安全に聞けるところ”を狙って制作しました。


宮内さんの音楽制作と『コトづくり』

日山:宮内さんはすごく考えて音楽を作られていて、全力で取り組まれている方だと思っています。 今、BGMっていう言葉を使っているのもこれまで色々あったんだろうなって。

宮内さん:きっかけは覚えてないですけどね。でも、感覚的な全力と頭脳的な全力があるじゃないですか?僕は頭脳的な全力をできるだけやらないようにしているのかもしれない。むしろ全部、感覚的なのかもしれないです。

日山:僕はその感覚的っていうところを「なぜ感覚的なのか?」って考えるんですよね。でも、宮内さんとはなんとなく同じ場所にいるような感じもしています。

宮内さん:たぶん言ってることは同じなんですよね。ただ、僕は言語化した瞬間に頭がガチッと固まっちゃうから、ふわふわゆらゆらさせておきたいなって思っています。

日山:僕も全部を明確にしたいわけではないんです。例えば、安らぎをもたらすと言われているソルフェジオ周波数がありますけど、全世界でその周波数だけ流してればいいのか?というとそれは違うと思うし。曖昧なところも絶対大切で、そこは感性的な表現になりますよね。

宮内さん:それこそ感覚的なところで、BGMを最初にやりたいって思った頃は試行錯誤でした。お店でイベントをやってみたものの、お客さんがしっかり立って見るイベントになっちゃったり。居心地良く過ごしてもらえる感じのBGMイベントにはならなくて、全然うまくいかなかったです。

当時の僕はカフェライブが主戦場だったんですけど、雰囲気作りがすごく難しかったです。お客さんもマナーとして見なきゃいけない!みたいな姿勢になっちゃうし。でも、僕の音楽はある程度の距離感があった方が伝わる感じがしていて。
どうしようかなと思ってたところに、BGM LAB.で長野のあるライブイベントへ出演したんです。その時に依頼されて、朝7時から本を読むイベントをやったんですよ。地元の古本屋さんに来ていただいて、みなさんがモーニングを食べながら読書しているなかでの演奏だったんですけど......すごくやりやすくて。誰もこっちを見てないけどその場が成立していて「そっか、読書をしてもらえればいいんだ!」と気づきました。

日山:カフェでのライブも演奏会になっちゃうから、音楽以外に入る隙間がなくなるんですよね。でも、音楽をBGMとして距離を置くことで、隙間が生まれて朝7時に本を読むっていう『コト』が起き始める。そういった『コトづくり』を起こすのも宮内さんの特徴ですよね。
図書館BGMの公開制作についても同じように『コト』が起きていて。でも『コト』の起点はちゃんと音楽で。AISOも同じようなことをやりたいって思っていたので、今回のお話は本当に嬉しかったです。

津留:目指していた形のひとつに、図書館のような“人が過ごす場所”へAISOを入れたいっていう思いがあったんですよね。
あと、朝の読書会の話を聞いて......ある場所にちょっと音楽が足されるだけで、違う魅力や彩りを感じられる“意味を持った場所”になるんだなって思いました。その場所ってどこにでも遍在している可能性がありますよね。山や海、もしかしたら工事現場とか。そういうものを招き入れるのが宮内さんの音楽の魅力なんだろうなって。

日山:何にもない場所にBGMがすこし流れ始めるだけで、そういう場を作れるってことだよね。

津留:宮内さんは、それを地でいってる感じがいいですよね。

AISOが秘めている多様性と可能性

津留:AISOの打ち合わせは、言葉で語ることが多いんです。だから、今回のようにアーティストの方と話をすると感覚の大事さをあらためて感じます。

宮内さん:面白い方とやってらっしゃるから、AISOをきっかけに繋がったり関係性の構築ができたり......すごく刺激がありそうですよね。

日山:最初はAISOっていうシステムの名前としてスタートしましたが、最近はコミュニティの名前になりつつあるように感じています。僕だけのシステムとして完結するのではなく、コミュニティ内でAISOを使って、新しく生まれた情報をみんなで共有したり間接的に教えてもらったりして。

宮内さん:いいですね!みなさん、全然使い方が違うから。この間もAISO2台で4ch使ったっていう話がありましたよね。おお、なるほどね〜って思いました!

▼4chを使用しているAISOについて記事は、下記をご覧ください!

津留:今はこのAISOを取り巻く環境がもっと広く行き渡ればいいなと思っています。音楽に関わるあらゆる人が集まって話したりディスカッションができる場所になれたら、音楽がもっと可能性のあるものになるんじゃないかなって。

日山:僕は音楽業界の一般的なクライアントワーク以外の選択肢を増やすことも大事だと思っていて。開拓されてないところに選択肢を作る、そのひとつがAISOでした。
実際、今回の図書館のようにBGMをインストールできる場所がまだかなり残されています。音楽をインストールできる場所があったら新たに活躍できる人もいるだろうし、音楽を志す人が目指すひとつの選択肢にできたらと考えています。

宮内さん:今回のBGM制作も元を辿ると2017年頃に地元近くの図書館で行った実験的な読書イベントから繋がっていたりするので、やっぱり火を起こしていくのは大事ですね。今回の図書館用AISOも何かに繋がるといいなって思います。


【こぼれ話】宮内 優里の作り方

宮内さんが公開制作で参加者に伝授された「僕っぽく演奏できる技」。気になりますよね?特別に教えてもらったので、ピアノをお持ちの方はチャレンジしてみてください!

宮内さん:僕がアンビエントミュージックみたいなものを作り始めた時にやっていたやり方です。ピアノは黒鍵だけを使います。指は人差し指だけを使ってください。そして、優しく......気持ちを込めながら押してください。気持ちは絶対に込めなきゃダメです。プロアマ関係なく、とにかく気持ちを込めて押すんです。リズムは関係ないですよ。

津留:そして......?

宮内さん:あとはできるだけ我慢すること。一度鍵盤を押したら、その余韻を自分のなかで味わって......。もう次を押さないと我慢できない!というところまで我慢して......次の音を気持ちを込めてまた押す、これを繰り返して音を重ねていくと、案外いい感じになったりします(絶対ではないけど)。

津留:一球入魂ですね......。

宮内さん:この指が2本3本と増えていき、両手10本で弾くようになって今の僕があります。かなり原点的なポイントです。
人によっては音の余韻を味わいつつも......次の音が聞こえないと不安になっちゃうから押しちゃう!っていうこともあると思うんですけど、それもすごく人間的でいいなって思いますね。

日山:かなり全力ですね(笑)。1音1音をとても大切にしてる。

宮内さん:確かに全力ですね、でも一生懸命考えてはダメです(笑)。
公開制作では、参加者の横で「今のいいですね!」とか声をかけたりして、コミュニケーションを楽しむ時間でもありました。

この「気持ちを込めて押す」ことに集中した経験がすごく大事だと考えていて。次にピアノに触れる時に「今のは気持ちがこもっていたかな」って思い返したりしてもらえれば、本当の意味でいい演奏になっていくのではと思っています。

僕もピアニストではないので技術的なはっきりしたことは言えないんですけど、気持ちを込めるということさえ、人間って頭で考えてしまうものだなと思います。感覚的に出来た時には、良し悪しってあんまりないような気がしています。

●Podcast "ディスカバーAISO" でも、宮内さんとAISOチームでお話しました!


●宮内さんのAISOが気になった方は、こちらからご視聴いただけます。


●アーティスト版AISOの購入はこちらからどうぞ!


Text,Edit: Mihoko Saka


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