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五感でたのしむ『ITOMACHI HOTEL 0』のさりげなく、新しいBGM【AISO導入の舞台裏】

音×テクノロジー。AISOはこれまでにない音楽構築システムです。
AISOのスイッチを入れるとBGMが半永久的に構築され、スイッチを切るまで音楽が鳴り続けます。

今回は2023年春に、愛媛県西条市に開業した日本初のゼロエネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0(ゼロ)』に導入されたオーダーメイドのAISOにフォーカスします。


ITOMACHI HOTEL 0
『ITOMACHI HOTEL 0』はホテル運営において、実質的に電力エネルギーを消費しない「ゼロエネルギーホテル」。建物に省エネルギーと創エネルギーの機能を同時に備えることで、実質的な電力消費0を可能としています。設計は建築家 隈研吾氏、館内のインテリアデザインおよびランドスケープデザインを渡瀬育馬氏が代表を務めるDugout Architectsが担当されています。AISOは館内に併設されているRECEPTION CAFEで流れており、チェックインされるお客様やカフェを楽しむお客様を迎えています。

『ITOMACHI HOTEL 0』の企画・運営を担当された株式会社GOODTIMEの山口さんをお招きして、AISO導入までの舞台裏を伺いました。

【左から】津留 正和(AISO) / 山口 未来彦さん / 日山 豪(AISO)

水の都、西条市に開業した『ITOMACHI HOTEL 0』

津留:まずはじめにGOODTIMEさんが『ITOMACHI HOTEL 0』にどのように関わっているのかを教えていただけますか?

山口 未来彦さん(以下、山口さん):当社はホテルやオフィス、再開発など“場づくり”に関わる事業企画の推進から運営までを行うまちづくりの会社です。『ITOMACHI HOTEL 0』では、コンセプトや事業企画の立案から、建築や料飲、アメニティ、ユニフォーム、音楽などのプロデュースやディレクション、ホテル開業後は運営も手がけています。

津留:コンセプトから関わられていたということで、実装するコンテンツとしての音に関しても、一般的なタイムラインより早めに意識されていたように思います。GOODTIMEさんがAISOにたどり着いたきっかけはなんですか?

山口さん:はじめはオリジナル楽曲を作る前提で色々と調べていました。愛媛のホテルなので愛媛出身の音楽関係の方々を検索しながら、同時に他の方法も調べていて。そんなときに、たまたま見つけたのがAISOでした。

津留:普通に探していても、なかなかAISOのページにはたどり着かないと思います(笑)。相当探されたんだと思いますし、それだけ注力しようと思われていたんですね。


ホテルのコンセプトとAISOの親和性

日山:ホテルをつくる上で音楽については重要視されない場合も多くありますが、山口さんのスピード感はすごく早かったですよね。AISOについてもそのスピード感のまま理解していただいた印象があります。

津留:今回は特に山口さんがいらしたから実現できた感覚がかなりあります。それはおそらく山口さんが元々音楽をお好きで、ご自身でも音楽をやっていらっしゃったことが大きいと思います。僕たちも音楽のことが好きで一緒に考えてくださる方がいることが救いでした。普通は初めの段階で、AISOを理解していただくこと自体に難しさがあるんですが、GOODTIMEさんは代表の明山さんや山口さんを含めすぐに理解していただけました。

山口さん:AISOを見つけた時点で、これだなと思っていました。ただ、AISOのシステムは少し複雑で難しいところがあると感じていたので、最初の打ち合わせはほぼ僕の理解を確認するための場でしたね。

津留:AISOに対してこれだ!という感覚を覚えたのは、通常の曲より単位が小さい音のかけらが、その時々で組み合わさっていく......という仕組みが、ホテルのコンセプトと合っていたからですか?

山口さん:そうですね。1つは今言っていただいたようにホテルのコンセプトである「0からめぐる、愛媛のたのしみ」が、AISOのコンセプト「終わりのないBGM」と親和性を感じたためです。さらに、ループやサイクル、円環......そういった言葉がWebサイトや打ち合わせで出てきて確信に変わりました。
もうひとつは、機能面です。これはホテルに限らない課題ですが、働く方々にとって職場でずっと同じ音楽が繰り返し流れていると音に酔ってしまう、いわゆる「音酔い」問題があります。だからこそ、その課題を解決し、スタッフの働く環境を整える意味でも、AISOはとてもいいなと感じました。

津留:AISOを導入した空間で、スタッフの方が働きやすくなったという声をいただくことは多いです。ずっと流していても心地良い音楽が、働く方にとってのホスピタリティになることは僕たち自身の発見でもありました。日山さんは以前から、その点についても意識的に考えてられていたようです。

日山:僕自身も開業後にフロントスタッフの方とお話させてもらったときに、「心地よく聞き流せるんですが、なぜですか?」と質問をされました。向こうからそのようにおっしゃっていただいたのがすごく嬉しかったです。


“よそ者”視点で、地域の魅力を再発見する

日山:今回のプロジェクトではまず第一にお客様の体験価値向上のため、オリジナルのBGMを考えられたんですね。

山口さん:ホテル名にもある『0』は日本初のゼロエネルギーホテルであるだけでなく、音楽や料理、建築含めたホテルのあり方やこの場所に合うものをゼロから考えていこうという意識に由来しています。また、愛媛産の食材や、客室備品として伝統工芸品『砥部焼』を導入するのはもちろんのこと、地元の方も気がついていないような愛媛や西条の魅力を引き出すことができないかと考えていました。

日山:今おっしゃった点と、先ほどのBGMによる音酔いという課題感のかけ合わせがAISOにうまく結びついたんですね。ホテルやまちづくりなど体験価値を大切にする流れがあるなかで、音楽もオリジナルで作るという発想が増えてきているように感じているのですが、当事者としてはどう考えられていますか?

山口さん:これは当社のホテルに限らない話ですが、トレンドワードとして「イマーシブ」や「没入感」が言われていると思います。没入感というと映像体験に寄った話が多いなか、ホテルでは昔から香りや音も含めた、非日常空間を演出するための様々な取り組みを行ってきました。わかりやすく言うと“五感で感じる”ということですね。そういった時代の流れも相まって、視覚だけではない他の感覚も重要視されてきていると感じています。

日山:今後はどんな音楽や音になるのか......音自体にもすごくシビアになっていきますよね。より中身の話に繋がっていきそうです。

津留:ホテルはその地域と共存していくものだと思うのですが、その地域のものを使うだけに終始してしまう場合もありますよね。その点で『ITOMACHI HOTEL 0』は、本当に0から全て組み上げられていて、同時に東京の最高品質なものもインストールされて、いいものがしっかりと担保されている良いホテルだなと思っています。


西条の山や町の水音を巡り、生まれたAISO

津留:ご依頼いただいた当初、山口さんの頭の中で音楽の完成イメージはありましたか?また、イメージをすり合わせる上で大事にされていたことはありますか?

山口さん:当初のやりとりでは、ホテルのコンセプトや完成後のイメージ、RECEPTION CAFEについてなど、個々のイメージをかなり丁寧に説明させていただきました。そのなかで、僕の方から「音楽をこうしてください」みたいなことは伝えなかったと思うんですよね。ハードロックな音楽じゃないですよね?っていうのを冗談でお話したくらいで(笑)。

津留:そうですね、音に関しての希望はほぼなかったと思います。

山口さん:僕の1番の役割は、音を作る方に僕らと同じ目線まで空間のイメージを持ってきてもらうことだと思っていたので、インプットだけは沢山させていただきました。僕自身はアーティストやミュージシャンではないので、まずは作っていただいて、そこから必要に応じて調整をすればいいかなと思っていたんですよね。

AISOが導入されているRECEPTION CAFE

津留:そういえば、音の確認の際はほぼ1発OKでしたよね。今回のような音の希望があまりない依頼で、最終的な仕上がりもズレなかったのは、日山さん的に「いけるな」という感覚があったからですか?最初にお話をいただいた時は、どういった気持ちで受けましたか?

日山:正直、西条に行くまでは、見えた!という感覚はなかったです。現地を見て、目の前で立体的に感じることで意味がわかってきた感じです。山口さんにも付きっきりで色々な場所を見せていただき、そこで「水ってすごいんだな」って確信を得たんですよね。最終的には現地でGOODTIMEさんにプレゼンを始めたくらい(笑)、その時にはもう「水の音でいこう」と決めていました。

山口さん:本来のAISOの制作ではそこから言語化・資料化してという流れだと聞いていましたが、資料を作る時間を音の制作に当ててほしいとお伝えしましたね。

津留:確かに今回は資料もあまり作らず、対話の時間が多かったように思います。

日山:代表の明山さんにも「そのコンセプト、すごくいいです。もう作っちゃってください。」って言っていただけたんですよね。最初の打ち合わせからずっと、僕にヒントや制作する時間を沢山与えていただいて感謝しています。

津留:日山さんの確信とは簡単に言うと、どういうものだったんですか?

日山:西条では『うちぬき(※)』というものが想像を超えて生活に近いんです。水と一体になっている、あんな街はこれまで見たことがありませんでした。そして、町をぐるっと見渡せば山も海も目の前に見えて、ストーリーの全てがそこにありました。

(※)うちぬき:愛媛県西条市でみられる自噴井。その数は約3,000本といわれており、名水百選にも選定されています。四季を通じて温度変化の少ない水は生活用水、農業用水、工業用水に広く利用されているそうです。

津留:西条の水の動きが視界の中に全部あったんですね。

日山:実際に車で見に行ってみると、確かにその流れでちゃんと動いていて「これだ!」と思いました。
雨として降ってくるところから、最後に使うところ、生活をしている人まで全部見せてもらえたのが大きかったです。

津留:このプロジェクトでは副産物として、そのストーリーも生まれましたね。日山さんが山に行って転々と録音した場所をGoogleマップにピンを立てて、音と一緒に納品しました。これによりいい水の音が録れる場所もわかったので、今後は音じゃない切り口でも利用していただけるんじゃないかなと思っています。

日山:その他の点では、西条の“人”と触れ合えたことも大きかったです。山口さんに紹介していただいた地元のカフェに行って、お店の奥様とお話しする機会があって。そこで奥様が「なんにもない町だけど、私は川に行って水を見るのが好き」と教えてくれたんですけど、僕にはその言葉がとても刺さりました。あと、録音のために町を回っていた際に、小学生の校外学習が行われている場にも遭遇して......地元の小学生が自分たちの町の文化として「うちぬき」を学んでいる姿も見れました。水を使っている以外の方たちの水との接し方もとても記憶に残っています。

津留:もともと水が綺麗な地域は全国にたくさんあるけど、日山さんもそこまで水が生活に浸透してる光景を見るのが初めてだったんですね。正直、僕も最初は“水”というモチーフは難しいと思っていました。地方の抽象度を甘くしていくと、言ってることがほぼ“水”になってしまうためです。
ところが、実際に出来上がったAISOの音を聞いてみると「ちょぼちょぼ」「ザーザー」「ジャブジャブ」と様々な音の表情があって、さらに粒度の細かい音が無数に入っていたんですよね。それだけでも西条の水の顔がたくさんあることが感じられて、聞いててすごく楽しかったです。

山口さん:『うちぬき』はすごくユニークだし、なかなか見られない西条らしい光景だと思うんです。そう思えたのは個人的には、どこまでいっても西条に対して“よそ者感”があるからだと思います。よそ者だからこそ面白がることのできる地域の魅力があると思っていて。

津留:西条のみなさんにとっては『うちぬき』は生活の一部で、見えないぐらいになっているかもしれないですよね。

山口さん:おそらく僕ら都市部の生活で例えると、公園にある水飲み場くらいの感覚なんですよね。ですけど、外部から来た人にとっては相当面白い。僕はそういった“面白がる”みたいなことを、場をつくる上で大切にしているので、地元のものを使うのはもちろん、よそ者として見て面白いと思ったものも活かすようにしています。そこを引き出すことができれば、その土地を知らない人が来た時にも一緒に面白がることができて、お客さんの体験価値の向上にも繋がっていくと思うんです。

津留:“面白がる”って、とてもいいですね。地域の人の気持ちには完全にはなれないので、外から来た人が唯一できることかもしれません。GOODTIMEさんのその姿勢は、お店に並ぶものや建物に徐々に滲み出てくると思うので、地域の方たちとも繋がっていく土台になっていくんでしょうね。そうやって新しい視点を地域の方にも見出してもらう関わり方は、とっても素敵だなと感じます。RECEPTION CAFEのAISOにも『うちぬき』の水の音を沢山使ったので、そんな風に感じてもらえたら嬉しいです。

ホテルの近くにある『うちぬき』。この音も今回のAISOに組み込まれています。


全てがさりげなく、新しい

津留:実際に出来上がった音を初めて流した時、山口さんはどのように感じましたか?

山口さん:僕は工事現場の状態から出来上がるまでを見てきたので、まだ何もない空間にAISOが流れた時は空間に”色”が加わった感覚がすごくありました。ただ、いい意味であまり顔がないというか......。その顔が見えないことも含めてAISOの魅力だと感じています。
実際カフェのお客様からもBGMに対する特別な反応はないようで、カフェでの会話や食事に集中してもらえていると思っています。AISOの音が、空間体験の土台として重要な要素を果たしていて、本当の意味でのバックグラウンドミュージックになっているように感じています。
その一方で、視察でホテルを訪れる方々に、AISOのシステムや音づくりのエピソードを話すととても面白がっていただいていますね。

ホテルの敷地内にある『うちぬき』が湧き出る広場

山口さん:ちなみに、隈研吾さんが完成したホテルを見た際にも、ホテルの「自然との付きあい方、中庭を含む屋外の空間、それぞれの部屋、環境に配慮した空調システム、どれをとっても、さりげなく、新しい」とおっしゃっていました。それを聞いたとき、AISOもまさに「さりげないんだけど、新しい」音楽だと思いました。

日山:僕がホテルに試泊させていただいたときに、さりげないデザインが沢山あったのを思い出しました。食器や蛇口のデザインもさりげないけど、ホテルでの体験を楽しませてくれるものやことが色々ありましたね。


地域の日常にもっと寄り添う音楽を

津留:ホテル開業からもうすぐ1年になりますが、今後ホテルにとって音が役に立てるような関わり方やコンテンツとしての魅力、可能性などがあればお聞きできると嬉しいです。

山口さん:今回は水を軸にして音楽を組み立てていただきましたが、西条には他にもいろいろな側面があります。例えば、『西条祭り』の時期にはお客さんに自由に音を録ってきてもらうのもいいかもしれませんね。逆にそういったハレの場ではなくて、いつもの日常の音を追加することも良いなと思っています。ハレもケもまとめて、より西条自体を音楽に落とし込んで反映できるといいなと思います。

日山:西条自体もそこに住んでる人たちもすごく素敵だったので、僕の気持ちとしてはケの方も音だけじゃなく映像で残したいくらいです。僕もまだまだ西条を知りたいという欲求が出てきています。

山口さん:今のAISOは『うちぬき』が軸となって西条らしさを演出していますが、一見するとどこにでもあるような日常の風景の音を重ねることで、逆接的に西条を立体的に表すこともできるかもしれないと感じました。風景だけじゃなく、宿泊された方や地元の方の声を録るのもいいかもしれないですね。そういうのが入ってくると、より西条らしさみたいなものが音にのってくる気がします。

日山:観光地的なみんなが知っている部分だけではなく、そこで生活している人たちの循環や関わりにどれだけ深く入り込めるか、どうやって音にいれるか......ハレだけじゃなくてケも全部ひっくるめていきたいですね。

津留:「何かイベントがあるからホテルに行く」以外に、もっと気軽に人が往来するような場所になる仕組みやきっかけみたいなものを、音で協力できれば嬉しいです。「今日、こんな音が録れたよ!」って、子供がホテルに来てくれたら素敵ですよね。

日山:ホテル自体がとてもオープンですよね。マルシェも近いですしね。

山口さん:そうなんです!マルシェで買い物をして、ホテルのコワーキング&キッチンで料理を作るご家族もいらっしゃいます。そういった過ごし方も含めて、音楽も寄り添っていけるといいなと思います。




Text,Edit: Mihoko Saka

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