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【短編小説】あなたは猫じゃなかった…②完

寝てしまった猫。頭を撫でても、お腹を撫でてても起きない。
気持ちよさそうに寝ている猫を見ていると、
一緒に寝てしまいそうになる。

その時、母の声が階段の下から聞こえてきた・・・

母「ねぇ、何してるの?早く降りてきなさい。ご飯食べるよ。」

私は、この場所から動きたくなかったけど、お父さんをびっくりさせたかったのでそっと猫を抱き上げて階段を一段一段
ゆっくりと降りた。

階段の最後のとろこで、「にゃぁ…」私は焦った。
猫が起きてしまったのだ。

父「あれ?何か聞こえたけど??」

母「今日から子供がひとり増えたのよ」

父「はい?」

猫「にゃぁ、にゃぁ・・・」

父は私の方を振り返った。
びっくりさせたかったのに…

父「猫??可愛いなぁ、マルちゃん!」と
言いながら猫を触りにきた。

(え?・・・・マルちゃん)

一瞬、耳を疑った。複雑な私の気持ちを無視して父は、
マルちゃんと何度も呼んでた。
母も父と同じようにマルちゃんって呼ぶ。

私「なんで、マルちゃんなの?」 

父「目がクリクリでまんまるやからや」

私「そのままやん!!!!もっとセンスのいい名前にしてよ」

父「もう決まり!マルちゃんは愛嬌たっぷりやな」

今日から私の家に現れたチンチラシルバーの猫の名前は
「マルちゃん」になった。

ご飯を食べている間は、リビングのソファーで寝ている
マルちゃん。

食べ終わってから私は、お風呂に入ってそのままマルちゃんを
自分の部屋に連れていって一緒に寝た。

マルちゃんが家に来たことで家の中が明るくなった。
家族との会話も増え、みんなマルちゃんに夢中。
いつもマルちゃんに話かける家族を見ていると、
マルちゃんのおかげで日常で言い合いをしていた父と母も
仲良くなった。家を出た兄もマルちゃんを見に帰って
くるようになった。

私も学校が終わったら真っ直ぐ家に帰って、
マルちゃん話かける。
「マルちゃん、何してるの?」
マルちゃんは知らんふりをする。
それでも私はお構いなしにマルちゃんを
触ったり猫じゃらしで気を引こうと必死になる。

ある時、ふと思った。
マルちゃんは、私と似ている。
自分の気分が良いときに振り向いて
ひとりになりたいときは離れる

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高校を卒業してから付き合っていた彼氏と些細なことが
きっかけで別れてしまった。就職も決まって春を迎えたとき、職場で人間関係に気を使いながら仕事をして体は疲れていた。
そんな中で、新しい出会いを心配していた彼氏からの束縛が
激しくなり、会いたい気持ちよりも怖くなって私から離れた。

そんな身勝手な私をいつも癒してくれていたのは
マルちゃんだった。

兄とケンカをした時、兄が机の上にあった食器類を
すごい勢いで「バッシャーン」手で飛ばした。
怒鳴り声と暴れる兄は、家を出ていった。

その時、少し離れたところにいたマルちゃんは、
飛び上がって階段からこちらの様子を見ている。
しばらくすると、マルちゃんは散らばった机の上に乗り、
私の泣いてる顔を下から覗き込むように様子を
伺いにきた。マルちゃんは自分の顔を、私に近づけて
頬をスリスリする。そして、手で私の頭をポンポンと
撫でた。マルちゃんは、私を心配してくれていた。
マルちゃんは、私が泣き止むまでその場にいた。

マルちゃん私のことが分かる。
いつも一緒にいた。

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7年後

私は、今の仕事でこのままでいいのか悩み始めたとき、
偶然にも懐かしい友達のナホから電話がかかってきた。

ナホ「久しぶり!元気にしてた?今さぁ、東京に居てるん
やけど、一緒に仕事をしてくれる人を探してるの!」

私「東京??」

ナホ「そう!モデル事務所でマネージメントしてる!
人が足りなくてマヤなら絶対向いてると思うから!」

私「楽しそうな仕事やね!うぅ~ん考えとくわ!」

話を聞いているとワクワクするような内容だった。
確かに人を支えたり応援したりするのは得意。
ただ、問題は通えない。

ナホからの電話を切って考えた。
誰かの為になるなら新しいチャレンジもいいかなって
思って、その夜、母に相談した。

母「あなたの人生やからやってみたら?」

そんなすぐに答えが返ってくると思わなくてびっくりした。
私はすぐにナホに電話をした。

私「ナホ!私東京行くわ!その仕事やってみる!」

ナホ「嬉しい!!マヤと一緒に仕事出来るの楽しみ!」

そして、3ヶ月後、私は家を出て東京へ行き、
マルちゃんと離れて暮らすことになった。
ずっと一緒だったマルちゃんと離れるのは寂しかったけど、
自分の可能性を信じて...

東京での暮らしが始まり慌ただしい毎日。
高いビルばかりと電車も多く戸惑いながらも
事務所に所属しているモデルのスケジュール調整、
イベント、企画制作、挨拶周りなどモデルのマネージメントをしていた。売れていくモデルを近くで見守りながら、
また新しいモデルの育成をする。

2ヶ月に1回はマルちゃんの様子を見に実家ヘ帰る。
玄関を開けるといつもマルちゃんが迎えてくれる。
マルちゃんを抱き上げると、鼻水を垂らして私の体に
スリスリする。

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3年後、私は新人育成統括部長の役職になった。
この仕事が、初めて自分に向いてると感じた。
忙しさも倍になり、実家へ帰れない日々が続いた。

ある日、母から電話がかかってきた。

母「マルちゃんの様子がおかしいの。痩せてきて、
ご飯食べないのよ」

私「マルちゃん....どうしたんやろ?病気?」

母「病院連れて行ったらストレスが原因ですねって
言われて...」

私「猫にもストレスあるの?良くなるように祈るね。」

母「たまにはマルちゃんの顔を見に来てあげてね。
あなたが家出てから、毎日玄関にいるのよ。」

私「ごめん、帰れなくて。」

電話を切った。今すぐに帰りたいけど、
今週末、事務所で1番大事な大きなイベントを控えている。

帰りたい...

イベントが終わったら一旦マルちゃんに会いに帰ろうと
決め、悲しくなる気持ちを隠して仕事をする。

そして、イベントの日、私は空を見上げた。

(マルちゃん、このイベントが終わったら必ず帰るから
待っててね。)

雲ひとつない空が微笑んでいる。
マルちゃんがイベントの成功を見守ってくれて
いる気がした。

イベントが無事に大成功で終わった。
私はホッとした。

(マルちゃん、ありがとう!おかげて成功したよ!)

イベント会場を出た私は、空を見上げた。
夜空が綺麗で東京で見れなかった星が、
ひとつキラリと光っていた。

次の日、荷物をまとめて急いでいると、
母から電話が、

母「マヤ、マルちゃんが....」

私「マルちゃん??今から帰るからねー」

母「亡くなったのよ、今朝.....」

私「・・・」

私は、泣きながら実家へ帰った。
マルちゃんが横になってる姿を見て、

(ごめんね。私が東京に行ったから寂しかったよね。
ずっと帰りを待ってくれていたよね、
最後まで一緒に居れなくてごめんね。)

何も返答がないマルちゃんを撫でながら話かけた。
母に言われたことを思い出した。
「その代わり・・・最後まで・・・」

マルちゃんと出会って、
大事にしたいって思ったこと、大事な人たちを
大切にしようと思った。

マルちゃんを忘れない。
近くにいたときも離れていたときも
ずっと支えてくれていた。心の支えだった。
あなたは猫じゃなかった...。



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