素の自分でいられる街、福岡に恋をして、暮らし始めることになった話
いま「好きなタイプ」を聞かれたら、こう答えるだろう。
素の自分でいられる
たのしくお酒が飲める
自然と穏やかな気持ちになれる
いろんな面があり、好奇心が刺激される
ほどよく賑やか
ごはんがおいしい
え、なんの話かって?
今日は「好きな街の話」をしたいと思う。
今年に入り、久しぶり(実に6年ぶり…!)に新しい場所でひとり暮らしをスタートさせた。
これまで実家以外に、何度か東京都内で引っ越しをしたけれど、特に場所にこだわりはなく「オフィスに近いから」とか「彼の家が近いから」とかで、なんとなく選んできた。
コロナ禍を経て、リモートワークをするようになり、どこにでも住めるようになってからも、居心地の良い実家に留まっていたけれど、ついに関東を飛び出し、福岡県にやってきた。
仕事や家族の事情など、必要に迫られての引っ越しではない。「この街が好きになったから」という理由に尽きる。
街を好きになった記憶は、私の中で特別で、それはこれまでの人生で3回ある。
初恋の街、ロンドン
初めて”街に恋をした瞬間”をわたしはいまだに鮮明に覚えている。
それは、大学3年生の夏。イギリスの首都、ロンドンでの出来事だった。
これから始まるロンドンでの生活を前に、語学学校でオリエンテーションが開かれた。学校の説明がひと通り終わると、先生はそのまま、街を案内してくれると言う。
先生に連れられ、街中を歩いている時に、テムズ川にかかる重厚な跳ね橋「タワーブリッジ」に目を奪われ、思わず立ち止まってしまった。
橋という機能を越えた、教会のように荘厳な建築と、その向こうに広がる美しい街並み。なんて素敵な場所なんだろう…。
その様子を見た先生が言った。
「街に恋をすることってあるんですよね」と。
生まれ育った故郷でなくても、初めて降り立った異国の地でも、「あ、わたしがいるべき場所はここだ」「ここに来るために生きてきたんだ」と思えるような場所があると言う。
わたしはタワーブリッジを見た瞬間、完全に恋に落ちたと思った。
それから続いたロンドン生活で、わたしは本場のアフタヌーンティーに心を踊らせ、現地で手に入れた古着を身にまとい、パブやミュージカルを楽しんだ。
日を重ねるごとにロンドンの好きなところが増えていったが、予定していた2ヶ月で私は帰国しなければならなかった。儚い初恋だった。
飽きが来ない街、メルボルン
時は巡り、2018年。東京で約3年の会社員生活を終え、わたしはワーキングホリデーで海外に向かうことを決意した。
向かった先は、オーストラリア第二の都市、メルボルン。
初めて降り立った場所だったけれど、暮らし始めてすぐに思った。これは恋の予感がすると。
オーストラリアの各都市には、エアーズロックやグレートバリアリーフ、サーファーズパラダイスやオペラハウスなど、圧倒的な大自然やアイコニックな場所があるが、メルボルンには目を引くような観光名所が少ない。
だが、そんな華やかさはなくとも、個性的なカフェが軒を連ね、ストリートアートが街を彩っている。市内中心は無料でトラム(路面バス)に乗ることができ、立派な図書館や美術館もフリーで開放されている気前の良さもいい。
移民が多く、同じ都市にいながら、多様な食文化やカルチャーを味わうことができて、毎日飽きることがない。
せっかくだからと、シドニー、ゴールドコースト、ブリスベンなど、オーストラリアのいろんな都市を巡ったけれど、帰ってくると「やっぱりメルボルンが好き」と思える、魅力的な場所だった。
10ヶ月間に及んだオーストラリア滞在中、結局1回も浮気(=引っ越し)することなく、メルボルンで暮らし続けた。鮮烈な印象だったロンドンとはまた違う、落ち着きのある恋だった。
素のわたしでいられる街、福岡
そんな大好きな場所がありながら、30歳のわたしが選んだのは、福岡。
昨年、ヨーロッパに2ヶ月半滞在し、海外を満喫したあとに、友人に誘われて宮崎で10日間を過ごした。そのついでに、数年ぶりに福岡に立ち寄った。
賑やかな通りには、屋台と気さくな人々。
のんびりできる公園や海もすぐそばにある。
学生時代と会社員時代を渋谷〜原宿で過ごしたわたしは、あまりに自然が多い田舎よりも、人混みに紛れてホッとする瞬間がある。でも、少し足を伸ばせばゆったりとした時間が流れる、水辺が近い場所が好きだ。
もともと好きな街だったけれど、いろいろな場所を旅したあとに訪れた福岡には、第二の地元のような居心地の良さを感じた。
東京に戻り、数週間。昨年の夏頃から対話を重ねていたものの、一緒に引っ越すことを約束していた結婚相手との別れが決まり、関東にいるべき理由を手放したわたしは、1ヶ月後の航空券を取り、次はひとりで福岡に向かった。
不動産屋さんに連れられていくつかの物件を巡る道中、「なんだか、ほろ酔いで街中を歩いてそうですね」と言われた。褒め言葉ではない気がするが、そんな自分が目に浮かんで笑ってしまった。
結局、飲み屋がひしめく繁華街、天神に家を借りることに。「ここだ!」と思うオープンキッチンの素敵な家に出会い、即決した。
物件が決まり、ひと段落したタイミングで、ひとりで慰労会をするべく立ち飲みへ。旅行中の女の子と地元の二人組の子と仲良くなり、気づけば4人の女子会になっていた。
ふらりと立ち飲みの暖簾をくぐれば、どんな肩書きもいっとき手放すことができる。目まぐるしい日々を送っていたわたしは、福岡でやっとひと息つくことができた。
福岡では、こんな風に自然と隣の人と会話が始まったり、何気なく訪れた場所で思わぬ再会があったりする。
美味しい博多料理や、アクセス抜群な福岡空港、無料で開放されているコワーキングスペースなんかにもとても惹かれたけれど、この一人でいても、“独りにならない”福岡ならではの距離感にハマってしまったのかもしれない。
街に恋をしていると毎日が楽しい。
この恋もいつかは冷めて、別のところに引っ越すときが来てしまうのかもしれないけれど、福岡という場所が、”元カレ”になったとしても、好きという気持ちはずっと変わらないような気がする。
「ここが行きつけだったんだよ」と思い出話をするくらいに。
今はまだその恋の真っ只中だから、たくさん思い出をつくって、もっともっとこの街を知っていきたい。
▼福岡⇄東京の二拠点生活のお話を書いています。
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