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掌編小説#2.「剣の道で生き、剣に殺された男」

 その剣士は眉目秀麗だったが、特にそのことを鼻にかけるといったようなことをしなかった。そのおかげか彼は一部の女性からモテた。だが剣士としては別にモテたくてそうしているわけではなかった。彼はシンプルに剣が好きだった。剣の道で生き、剣に殺されたいと考えているような男なのだ。そんな彼の前にある日、一人の少女が現れた。少女も彼のことを美しいと思ったが、何よりも彼の剣が一番美しいように思えた。少女が剣士にこう尋ねた。
「どうして貴方の剣さばきはそこまで美しいのですか?」
 彼は困った。自分の剣は美しくも何ともない人殺しの剣だったからだ。
「これは真っ赤な血で濡れている。それでもお前はこの剣が美しいと思うのか?」
 剣士の問いに、少女は笑って答えた。
「赤は嫌いですか?」
 そこで剣士は少しだけ笑ってから、剣士の少女を殺めた。少女を殺したあと、彼はその亡き骸を土に埋めた。

 それからしばらくして彼はまた別の剣士に殺された。倒れゆく剣士の手には、赤く乾いた血で錆びついた剣がしっかりと握られていた。

(了)

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