掌編小説#4.「麦わら帽子」

 じりじりと照りつける夏の太陽が、遠く先に見える線路をかげろうのように揺らめかせていた。その線路を沿うようにひまわり畑は並んでおり、たくさんの黄色に少女は何故か涼しさを覚えていた。麦わら帽子とこの光景がいかにも夏らしく感じ、少女の足取りは軽いものだった。
 線路に敷き詰められた石に足を引っかけないように歩いていくと、右の遠くに雑木林が見えた。先ほどから聞こえてくる蝉の声はあそこからかしら、と少女は思うとショルダーバッグからスマートフォンを取り出した。スマートフォンに青空と雑木林を収めてから少女はシャッターを一枚切った。満足気な微笑みを少女は顔に浮かべると、撮った写真を確認することもなくスマートフォンをしまった。軽快な歩調で再び歩き出す。雑木林に近づくに連れて、蝉の鳴き声はよりいっそう強いものになった。まるで林そのものが揺れて鳴いているようにそれは聞こえる。少女が空を見上げた。夏の太陽は高く昇っており、祖母がくれたこの帽子がなければとっくにどろどろになって焼け焦げてしまっていたことだろう。
 今から私はこれを返しに祖母の家に行くのだ。少女はそう思うと線路道を再び歩き始めた。遠く先に見えるかげろうに過去の自分と今を重ね合わせながら。

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