ただの素人

35歳までの目標「自己内外の融合」。 自己の中に秘めるもの、思考、意見、記憶を自己外へ…

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35歳までの目標「自己内外の融合」。 自己の中に秘めるもの、思考、意見、記憶を自己外へと表現することが目標です。 日本語教師。大阪。きのこ反対派。 初めまして。千客万来。アンチはどっかいけ。

マガジン

  • 13歳、懲役6年。

    13歳、中学1年から高校3年まで暮らしていた、寮での記録をエッセイのマネごとのようにまとめています。正直そんな力入れてないです。

  • 咲かざる者たちよ

    通勤の電車の中での暇つぶしに、小説のマネごとをしています。 全30話くらいになるかもしれません。 「人々が持つ理想や願いという花は、しばしばその意図に反してあっけなく散ってしまう」ことをテーマにした小説。 創作大賞2024の〆切まで間に合うんか、わし。

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自己紹介

文章を書くなんて、わたしにとって暇つぶし以外の何ものでもありません。 それ以上でも以下でもありません。 なぜならわたしは、作家でもなんでもない、 ただの素人ですか…

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咲かざる者たちよ(第三十話)

〜エピローグ〜  眞島がこの町を訪れたのは七年ぶりのことだった。かつては艶のある栗色の髪が風に揺れていたが、今ではその髪にちらちらと白髪が混じっていた。 「懐か…

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咲かざる者たちよ(第二十九話)

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咲かざる者たちよ(第二十八話)

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咲かざる者たちよ(第二十七話)

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咲かざる者たちよ(第二十六話)

 喜多山は目を覚まし、そこが病室であることに気づいた。まだ残る目眩を感じつつ、再び目を閉じようとした瞬間、眞島との約束が頭をよぎり、飛び上がるようにして身体を起…

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咲かざる者たちよ(第二十五話)

 息子が寝静まった後の暗い部屋で、眞島は進まないペンを握りしめ、何度も何度も手紙を書き直した。無意識のうちに深いため息をついていたことに気がついた眞島は、少しの…

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咲かざる者たちよ(第二十四話)

 深夜の静かな洗面台で、眞島は足の傷から靴下に滲み出た血の跡を、静かに洗い流していた。洗い終えるとそれを洗濯機へと入れ、洗面台の電気を消そうとした時、ふと鏡に映…

ただの素人
13日前
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咲かざる者たちよ(第二十三話)

 夜更け、玄関の扉が乱暴に開かれる音が響いた。時刻は午前一時を指していた。テーブルに突っ伏していた眞島は目を覚ました。この時間に帰宅する夫は決まって、お酒と煙草…

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2週間前
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咲かざる者たちよ(第二十二話)

 その日が今年最後の夏日だった。十一月も終わりに近づいているにもかかわらず、日中の日差しは夏を感じさせられるほどであった。  眞島は花屋の鍵を開けるなり、窓を開…

ただの素人
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咲かざる者たちよ(第二十一話)

 朝五時になると静かにベッドから身を起こし、眞島は洗面台の前に立っていた。洗顔を済ませ、大小様々なボトルから液体を取り出し手際よく顔に塗り、紅色の櫛で栗色の髪を…

ただの素人
2週間前
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咲かざる者たちよ(第二十話)

 肌寒い朝、カーテンの隙間からのぞく曇り空、喉奥の吐き気も、今の喜多山にはどれもが輝く宝石のようだった。  その日喜多山は朝目が覚めても布団から動くことなく、夕…

ただの素人
2週間前
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咲かざる者たちよ(第十九話)

 商店街に向かう路地にあるカーブミラーの前に立ち身なりを確認した喜多山は、もう一歩進んでじっくりと自分の姿を観察した。その青白い顔は以前よりもわずかに生気を帯び…

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3週間前
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咲かざる者たちよ(第十八話)

 何枚も手帳のページが無造作に切り裂かれて、喜多山はその手帳がかすかに薄くなったかのように感じ取った。あれから五回ほど手紙を交わした。一つの眼鏡がきっかけとなり…

ただの素人
3週間前
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咲かざる者たちよ(第十七話)

 朝毎に、抑え難い吐き気とともに目覚めるのが常だ。午前六時半、窓を開けると眼下に広がる街はもう動き始めていた。コップ一杯の水を飲み干すと、そのまま花瓶の水を手際…

ただの素人
3週間前
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咲かざる者たちよ(第十六話)

 木製の風鈴が、扉に触れる度に心地よい音色を奏で、店員の目を引いた。扉に「営業中」と書かれた看板が揺れる。喜多山がまず確認したのは、フラワーショーケースでもなけ…

ただの素人
3週間前
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自己紹介

自己紹介

文章を書くなんて、わたしにとって暇つぶし以外の何ものでもありません。
それ以上でも以下でもありません。
なぜならわたしは、作家でもなんでもない、
ただの素人ですから。

しかし、ただ思考を巡らせ文章化する、
たったそれだけのことに震えるほど情熱を感じます。

読まれなくてもいいんです。
気づかれなくてもいいんです。
わたしはただ、自己内にあるものを自己外へ表現放出する術を見つけたのです。
それだけ

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咲かざる者たちよ(第三十話)

咲かざる者たちよ(第三十話)

〜エピローグ〜

 眞島がこの町を訪れたのは七年ぶりのことだった。かつては艶のある栗色の髪が風に揺れていたが、今ではその髪にちらちらと白髪が混じっていた。
「懐かしい…。」
そう呟きながら、彼女は花屋の前で立ち止まった。七年前、家族と別れた眞島は花屋も辞めて、遠い町でひっそりと暮らしていた。扉を開けると、変わらない店内の雰囲気と見知らぬ女性の店員が迎えてくれた。眞島は店内を一巡し、レジカウンター

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咲かざる者たちよ(第二十九話)

咲かざる者たちよ(第二十九話)

 気づけば夜が更けていた。喜多山が遺した手帳を読み終えたヤエは、立ち上がって伸びをし、窓に近づいた。ヤエはつい数時間前に喜多山が亡くなったことが、信じられなかった。切なさが疲労感となり、窓に映る自分の顔に浮かび上がっていた。ヤエは、雪が降り積もりうっすら白くなった道を見て、父を想った。父が他界したのは三年も前の出来事であるにもかかわらず、それが喜多山の死と重なり、悲しみが鮮明に蘇った。無性に母の顔

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咲かざる者たちよ(第二十八話)

咲かざる者たちよ(第二十八話)

 朝日が静かに部屋に差し込み、薄明かりが喜多山の顔を照らしていた。喜多山にはもう起き上がる力すら残っていなかった。
「(僕は……このまま眞島さんに会えず、死んでしまうのか……。)」そう心の中で呟き、ぼんやりと天井を見つめた。喜多山は手帳に手を伸ばし、微かに動く指先で再び掴もうとしたが、力が入らずベッドの下に落ちた。しかし目を閉じると、何度も読み返した手帳の内容が脳裏に鮮やかに浮かび上がった。

 

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咲かざる者たちよ(第二十七話)

咲かざる者たちよ(第二十七話)

 時刻は午後六時前だというのに、外はもうすっかり夜の帳が下りていた。過ぎ去る秋の速さに、ふと身震いを覚えた。喜多山の身体は徐々に衰弱していき、その腕は以前にも増して細くなり、青白かった顔は黄色がかり、正気の色を失っていった。
喜多山は震える手で、手帳に文字を綴り続けた。そして一日に何度も手帳を読み返しては、眞島のことを思い浮かべた。
「…はぁ…。ま、眞島さん…。」喜多山は掠れた声で、独り呟いた。花

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咲かざる者たちよ(第二十六話)

咲かざる者たちよ(第二十六話)

 喜多山は目を覚まし、そこが病室であることに気づいた。まだ残る目眩を感じつつ、再び目を閉じようとした瞬間、眞島との約束が頭をよぎり、飛び上がるようにして身体を起こした。ベッドを囲むカーテンを力強く開くと、窓の向こうに夜の闇が広がっていた。喜多山が立ち上がろうとした瞬間、腕に点滴のチューブが絡まった。慎重に点滴のチューブを手繰り寄せながら窓まで歩くと、眼前にはただ無限の闇が広がっていた。煌々と輝く病

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咲かざる者たちよ(第二十五話)

咲かざる者たちよ(第二十五話)

 息子が寝静まった後の暗い部屋で、眞島は進まないペンを握りしめ、何度も何度も手紙を書き直した。無意識のうちに深いため息をついていたことに気がついた眞島は、少しの間文章を考えることを止め、疲れた身体を少し前に傾け、肘をついてゆっくりと息を吐き、閉じた瞳の裏で夕方の喫茶店での一幕を思い浮かべた。喫茶店で流れるメロウなギターの音色、壁時計の秒針が刻むリズミカルな音、そして緊張していた喜多山の表情と息遣い

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咲かざる者たちよ(第二十四話)

咲かざる者たちよ(第二十四話)

 深夜の静かな洗面台で、眞島は足の傷から靴下に滲み出た血の跡を、静かに洗い流していた。洗い終えるとそれを洗濯機へと入れ、洗面台の電気を消そうとした時、ふと鏡に映る自分の姿を見た。少し髪を手櫛で整えながら、眞島の心はあの青年の面影に寄り添っていた。 
「(あの人の澄んだ目-。)」
 そう思うと眞島はふと眼鏡のことを思い出した。眞島は青年との繋がりを欲するあまりに踏み切った行動の軽率さを悔いた。
「(

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咲かざる者たちよ(第二十三話)

咲かざる者たちよ(第二十三話)

 夜更け、玄関の扉が乱暴に開かれる音が響いた。時刻は午前一時を指していた。テーブルに突っ伏していた眞島は目を覚ました。この時間に帰宅する夫は決まって、お酒と煙草と、女性の香水の香りをまとっている。眞島の「おかえり。今日は遅-。」という声を遮るように「疲れてる。」とぶっきらぼうに返し、ソファに倒れ込んだ。暗がりのリビングに残されたテーブルの上では、冷め切った一人分の晩ごはんが、まるでスポットライトを

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咲かざる者たちよ(第二十二話)

咲かざる者たちよ(第二十二話)

 その日が今年最後の夏日だった。十一月も終わりに近づいているにもかかわらず、日中の日差しは夏を感じさせられるほどであった。
 眞島は花屋の鍵を開けるなり、窓を開けて「ふぅ。」と心地よい風に包まれて深く息をついた。汗が滲むシャツをパタパタと扇ぎながらショーケースの電気を次々に点灯させていった。色とりどりの花を一種類ずつ丁寧に手に取り、愛情を込めて手入れをした後、眞島は扉の「準備中」と書かれた看板を裏

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咲かざる者たちよ(第二十一話)

咲かざる者たちよ(第二十一話)

 朝五時になると静かにベッドから身を起こし、眞島は洗面台の前に立っていた。洗顔を済ませ、大小様々なボトルから液体を取り出し手際よく顔に塗り、紅色の櫛で栗色の髪を梳いた。ため息をひとつつくと明かりを消して台所へ向かい、コーヒーを淹れた。眞島は長い髪を後頭部でひと結びにし、素早く冷蔵庫を開けては、一つ一つの食材を丁寧にキッチンへと並べた。まだ薄暗い部屋に食材を切る音がリズムよく鳴り響く。
 眞島は三十

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咲かざる者たちよ(第二十話)

咲かざる者たちよ(第二十話)

 肌寒い朝、カーテンの隙間からのぞく曇り空、喉奥の吐き気も、今の喜多山にはどれもが輝く宝石のようだった。
 その日喜多山は朝目が覚めても布団から動くことなく、夕日を浴びて光る眞島の笑顔を何度も思い出していた。喜多山の目線の天井は、眞島の姿を映し出すスクリーンとなっていた。ほどなくしていつものように、外の空気を吸いに向かった屋上へと続く非常階段で、空を覆う分厚い雲を見た時、軽い目眩が喜多山を襲いゆら

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咲かざる者たちよ(第十九話)

咲かざる者たちよ(第十九話)

 商店街に向かう路地にあるカーブミラーの前に立ち身なりを確認した喜多山は、もう一歩進んでじっくりと自分の姿を観察した。その青白い顔は以前よりもわずかに生気を帯びているように見えた。整髪料を手に、手際よく髪を整えた後、慣れた足取りで石段を下り始めた。
 ―午後六時ちょうどだった。買い物袋を提げた人々がぞろぞろと夕方の街を行き交った。喜多山は手帳を開け、書き残した昨日の眞島との約束を確認した。

『水

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咲かざる者たちよ(第十八話)

咲かざる者たちよ(第十八話)

 何枚も手帳のページが無造作に切り裂かれて、喜多山はその手帳がかすかに薄くなったかのように感じ取った。あれから五回ほど手紙を交わした。一つの眼鏡がきっかけとなり(それはすでに持ち主のもとへ返った)、この文通は始まった。喜多山は文通という新たな形での他者との繋がりに心躍らせていた。しかしこの日、喜多山の胸中では異様なほど激しく鼓動が響いていた。何度も立ち上がっては腰掛け直し、辺りをきょろきょろと見回

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咲かざる者たちよ(第十七話)

咲かざる者たちよ(第十七話)

 朝毎に、抑え難い吐き気とともに目覚めるのが常だ。午前六時半、窓を開けると眼下に広がる街はもう動き始めていた。コップ一杯の水を飲み干すと、そのまま花瓶の水を手際よく替えて窓際に置いた。喜多山は透明な花瓶越しに朝光を眺めると、何故だか強く外の空気を吸いたくなり屋上へと向かった。
 空には数羽の烏が戯れていた。静かな街に車が走る音が目立つ。喜多山は屋上で初めて街の様子をしっかり観察していた。そこから見

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咲かざる者たちよ(第十六話)

咲かざる者たちよ(第十六話)

 木製の風鈴が、扉に触れる度に心地よい音色を奏で、店員の目を引いた。扉に「営業中」と書かれた看板が揺れる。喜多山がまず確認したのは、フラワーショーケースでもなければ、天井で静かに回る換気扇のプロペラでもなく、レジカウンター奥の部屋だった。木の音を聞いたであろう女性店員の「いらっしゃいませ。」と言う落ち着いた声が部屋の奥に小さく聞こえた。喜多山はすぐに、入り口付近に置いてある観葉植物に顔を向け背中で

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