なんにも、いわないで?(quiet room/有機酸)

「もう、死んでしまおうかな」


ぼくは、深淵を覗いている。


そこは、重心をあと少し前へずらせば、楽になれる場所。


その場所は、暗くて、底が見えなくて、だから怖くて。でも、一瞬で楽になれることはたしかで。


怖いなあ。

消えてしまいたいなあ。

怖いなあ。


誘惑と恐怖のはざまで、ゆらゆら振れている。


どうすればいい?

泣き出した女の子が言った
「どうしてこんなにかなしいの?」
下を向いたままで答えた
「君もすぐに慣れるよ」

――有機酸『quiet room』より引用

そして、死にたがりは、ぼくだけじゃないようで。


いつもそうなんだ。


必ず、自分に似た誰かが、すぐそばで泣いているんだ。

Q.「死にたい」と嘆いている人が、そばにいたらどうしますか?

1.何もしない
2.「一緒に死のう」と誘う
3.手を差し伸べる

ぼくは、つい3を選んでしまう。


自分は死にたいくせに、他人には死んでほしくないんだ。


なんて、都合のいい人間だろう。

逃げ出した男の子が言った
「どうしてこんなにくるしいの?」
目を見つめたままで答えた
「きっと誰かの為だよ」

――有機酸『quiet room』より引用

ぼくは、器用な人間じゃない。


その誰かには、ありきたりなことばしか、かけられない。


きっと、そんなものは望まれていないのに。


じゃあ、彼は何を望んでいるんだろう?


自分が何を望んでいるのかわかれば、わかるのかな?


今すぐ、楽になれる方法?


それは、ぼくも欲しいけど。


でも、たぶん、そういうことじゃない。


ぼくが、本当に欲しいもの――。


ああ、そっか。


ぼくは、彼の手に触れる。


彼は、ぼくの方を初めて見る。


いつもそうなんだ。


彼は、ぼくと同じ顔をしているんだ。


やっぱり人は、人がいるから、生きられるのかな。死んでしまいたくなるのも、人がいるからだけど。でも、そんなこと、今はどうでもいいや。

淡い淡い闇の中へ 泳いでいくからついておいで
固く繋いだ手はずっと離さないで

――有機酸『quiet room』より引用

大丈夫だよ。


ぼくはいう。


ぼくと同じ顔をした彼にいう。


何も大丈夫じゃないけど、「大丈夫」だと見栄をはる。


ひとりぼっちは怖いけど、ふたりぼっちなら、怖くないから。


死ぬことも、生きることも。


だから、おいで。

quiet room/有機酸 feat.初音ミク(2017年)

quiet room/有機酸(selfcover)(2017年)

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