死んでも、夢で会いたくない(エンドロール/泉まくら)(1059字)

あぁ さよならなんて言葉だけ
あんなの嘘なのに
思い知るまでが恋

――泉まくら『エンドロール』より引用

自分がろくな奴じゃないせいか、自分から好きになった人は、大体ろくな奴じゃなかった。


でも、ろくな奴じゃないほど、彼らに対する僕の執着はひどくなった。固執すればするほど、向こうが冷めるのは知っていた。それでも止めることができなかったのは、(恋愛)感情が理屈ではどうにもならないことの証明でもあった。


あんなに好きだったのに、今は、顔も名前も思い出せない人ばかりだ。(思い出したくないから、記憶から葬られたんだろうか。)思い出せるのは、焼けるように熱い執着で焦げてしまった胸の痛みだけ。


僕はすぐにかさぶたを剥がしてしまう人間だから――痛みを思い出したくて傷を抉るような人間だから、痕はさらにひどくなる。そんなことをしても、その傷を付けた人のことは、思い出せないのに。


「人間は、生まれてから今までのことを全て覚えている。ただ、それを思い出せないだけで」


そんな説があるのを、聞いたことがある。


もしそれが本当なら、僕にひどいことをした――そして、僕もひどいことをした――あんな人やこんな人のことも、実は鮮明に覚えているんだろうか。


今は全く思い出せないけど、それを思い出すときがあれば――走馬灯かな。つまり、自分が死ぬときは、彼らのことも全部思い出すんだろうか。顔も名前も、触れたときの熱も。


……そうだな。正直、二度とお目にかかりたくはないけど、名前くらいは見てやってもいいかな。


そう、まるでエンドロールのように。


あの頃には二度と戻りたくないし、もし結ばれていたとしても、それはそれで地獄を見ることになるだろう。傷付けて傷付けられて、その果てにパートナーに行き着いたんだから、まあ悪くはないのかな。


そういえば、よくよく考えたら、彼らのエンドロールに、僕の名前が出てくる可能性もあるんだな。散々傷付けられたんだから、キミの人生にこっそり名前を残すくらい、いいよね。「誰だっけ?」ってなったら、さすがに腹立つけど。

そのエンドロールに
僕の名前見つけて
やっと よかったって言えた

――泉まくら『エンドロール』より引用

でも、もし思い出してくれたら――たとえ、どれだけ印象が最悪でも――僕は、きっとうれしい。


死ぬ前じゃなくてもいいから。いつか、どこかでいいから。だってキミは、僕の好きな人だったんだから。フィクションもひれ伏すレベルのクズだったけど、僕は好きだったんだから。


だからそのときは、少しくらい懐かしく思えよな。……それで、僕は報われるから。

エンドロール(「as usual」収録)/泉まくら(2019年)

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