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第11回「絵本」3分

人物
垣本はるこ(30)
米山由紀恵(25)
リエルカ(68)

〇本屋・外観
駅ビル地下の古い建物。

〇同・内
梯子に上る垣本はるこ(30)。
分厚い絵本を棚から取り出す。
梯子が倒れ掛かる。
はるこ「あああ!」
米山由紀恵(25)が梯子を抑える。
はるこ「はぁ……」
由紀恵「よかったぁ」
はるこ、ゆっくりと梯子を下りる。
はるこ「ありがとうございます」
由紀恵「いいえ、大丈夫ですか?」
はるこ「ええ、大丈夫です」
由紀恵は、はるこの持つ絵本を指して、
由紀恵「ソレ、読みたかった本ですか」
はるこ「ええ、こんなに大きいのびっくりして、つい手に取ってしまいました」
由紀恵「そう、ですか、大きいですもんねソレ」
リエルカ(68)がよたよたと奥から出てきて、
リエルカ「梯子、元に戻して」
と、ぶっきらぼうに去る。
はるこ、由紀恵目を合わせて微笑む。

〇喫茶店・外観

〇同・オープンテラス
テーブルに向か会うはるこ、由紀恵。
テーブルには大きな絵本が開いて置かれている。
はるこがめくっては眺めている。
はるこ、ページを指差して止まる。
はるこ「コレ、このエピソード私と似てるんですよ、クマとヒツジが追いかけっこして穴に落ちるところとか」
由紀恵「へぇ、そんなことが昔あったんですか?」
はるこ「そう、そう遠足行ったときに穴に落ちて……」
由紀恵「へぇ、他は?」
はるこ「あ、このクマたぶん私ですね、ふふふ」
はるこは泣いているウサギの横に立つクマを指す。
由紀恵「クマは何してるんですか?」
はるこ「たぶん……ウサギと喧嘩してるんじゃないですかね」
と、ページをめくる。
はるこ「あ、ネコがやって来た」
ネコはクマと手をつないでウサギから去っていく。
由紀恵「ネコとクマは仲がいいですね」
はるこ「ウサギ、泣いちゃってますね」
由紀恵は空のコーヒーカップの中を見つめている。
風が吹いてページがめくれる。
ウサギとクマが草原の中で対峙している。
はるこ「あれ……」
と、ページめくる。
白紙のページが続く。
はるこ「これ、続きが無いですね」
と、由紀恵の顔を見上げる。
由紀恵は、はるこをじっと見ている。
はるこ「うーん、印刷ミスかな」
冷たい風が吹く。
遠くで雷の音がする。

〇本屋・前
雨に降られたはるこ、由紀恵。
本屋に入る。

〇同・内
眠っているようなリエルカがレジに座っている。
はるこはレジ台に本を乗せて開いてリエルカに見せる。
はるこ「これ、なんていうんですかね、落丁?かな」
リエルカ「……」
はるこ、白紙だったページにずぶぬれになったクマとウサギがいることに気付く。
はるこ「あれ、さっきと違う」
リエルカ「あんた、大丈夫かい?」
はるこ「え?」
開いたページには悲しみの表情をしたウサギ。
ウサギは分厚い本を持っている。
はるこ、後ろを振り返る。
由紀恵が分厚い辞典を持って力なく立っている。
はるこ「え……」
リエルカ「続きが気になるね……」
梯子が倒れる。



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