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出汁が濁る原因とは…

【2020.12.04 追記しました】
師も走る月に入って、段々と皆さん年末に向けての準備が始まってきたようです。
「年末年始だけはきちんと出汁を引く」ことをされるご家庭もあるようで、かつお節屋としては嬉しい限りです。

例年であれば10月末辺りから11月にかけて、初めてさんにむけての出汁取り教室の依頼や、そばつゆ教室の依頼があるのですが、今年は残念ながら教室の類はほぼすべて中止です。
来年こそはコロナが落ち着いて、特に!そばつゆ教室ができるといいなと思っています。
うちの社長がそば喰いなので、そばつゆ教室やりたがっています。
もしよろしければお声がけください。

ちょっと話がそれましたが、毎回初めてさんに向けた出汁取り教室でお話することがいくつかあるのですが、その中の一つ『出汁の濁り』について書いていきますね。
これ、意外と気になっている方が多いようなので、ご説明いたします。

出汁とり絞り

1. なぜ出汁が濁るのか?

一番最初に原因を書きます。
濁る原因はかつお節の持つ『脂』です。
この脂が、出汁を引いたとき出汁に流出してしまうのです。
脂を灰汁と勘違いされてしまう方もいらしゃるようですが、灰汁とは全く違います。
ちなみに、かつお節からは本来灰汁は出ません。灰汁が出るかつお節というのは製造工程の【煮熟】がかなり甘く、生煮えに近いものであったり、また原料の質がかなり落ちたものを使った事により生まれています。
灰汁が出るかつお節というのは、それだけ元の質が悪いかつお節と言えるのです。
あと、泡と灰汁を勘違いされている方もいますので、その点もご注意ください。

このかつお節の脂が抜けていない、枯れていない。そのためお湯に溶けてしまい、濁ってしまうというのがかつお出汁の濁りです。
この濁りは、花かつお(荒節)でも、本枯節でも、どちらでも発生します。
では、濁りのないかつお出汁を引きたい場合、脂のないカツオを使った方が良いのでしょうか?

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鰹と昆布の合わせ出汁で、乳化したような真っ白な出汁になることがあります。それについては一番最後に記載します。
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2. 澄んだ出汁には脂が少ないカツオの方がいいのか?

カツオの脂の適切な量というものは、つくるものによって違います。
花かつおの原料である荒節は、脂が少なめのかつお節の方が、澄んだ出汁が引けます。
しかし枯節は、カビ付けのあとに【日干】という熟成の工程があるので、脂が多少あっても問題ありません。
ただし、これは適切に日干(熟成)ができるかどうか、というところが重要なポイントになります。

その理由を説明するために、まずかつお節の作り方をざっくり振り返ります。
一本目に上げた記事 かつお節は洗った方がいい理由 に、製造工程を上げていますが…

①荒節
生切り→煮熟(煮る)→骨抜き→焙乾(燻製)
②枯節
生切り→煮熟(煮る)→骨抜き→修繕→焙乾(燻製)→表面削り→日干→カビ付け

このような工程になっています。
この中で、カツオの持つ脂が減少する工程がいくつかあります。
・煮熟(煮る)
・焙乾(燻製)
・カビ付け
この3つです。
カツオの持つ脂は、実は煮熟の段階で大体8割~9割近く減ると言われています。煮魚などをしたときに、脂の多い魚だと浮いてくるのと同じですね。皮目に近い脂が溶けて流出します。
更に焙乾することで身が締り、表面や浅い内部にある脂が滲み出て気化したり流れ落ちます。
最後に枯節の場合、カビ付けを行うことでカビがカツオの脂を栄養分として分解して利用するので、成分が変わって脂肪としての脂は減ります。

この工程から見ると、荒節は2つしか脂の減る工程がないので、枯節よりも脂が少ないカツオを使った方が澄んだ出汁になることはわかります。

しかし、枯節の場合は非常に大きな違いとして【カビ付け】があります。
このカビは、元々はかつお節の水分を吸いあげると同時にかつお節に残っている脂肪分を分解して成長します。カビ付けを行い、日干を繰り返し、カビの成長と成熟を促しかつお節の持つ脂肪を分解させることで、濁りが無くなります。

ここでは余談ですが、枯節はこの脂肪が分解されることで味にも変化が生じ、うまみが増します。

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3. 濁りは悪ではない

上記の説明から、荒節は脂肪の少ないカツオを使った方が濁りが少ないということが分かったかと思います。
しかし、枯節においては、『充分に枯らすことができれば』脂肪の少ないものを選ぶ必要は必ずしもないということが、ご理解いただけたかと思います。
特に旨味を信条とする枯節の場合は、多少の脂肪を蓄えたカツオで作ったほうが、充分に枯らした場合は澄みきったダシが引ける上に、旨味も強いという結果になります。

濁りは分解されていない脂肪が流出したことによるものなので、もしも荒節で濁りが出てしまった場合は
「あら、ちょっと太った魚だったのかしら?」
なんて笑ってもらえたらなと思います。

しかし枯節の場合は、充分に日干と熟成ができておらず、脂肪が分解されて切っていなかったという事なので、しばらく常温で寝かせておくと濁りが解消されることもあります。
上手くいくと旨味が強くなりますので、そんな節に出会って興味がありましたら一度お試しください。
ただし、これは節の状態での話です。削ってしまったら脂が枯れる前に酸化・劣化して使い物にならなくなるので諦めましょう。

ちなみにこの濁りは、技術(出汁の引き方や温度)でどうこうできる類のものではなく、かつお節自体の持っている性質ですので、料理店などで新人さんが濁った出汁を引いても怒らないでくださいね。
その節を持って来たかつお節屋さんに話して、変えてもらってください。

そして、濁りが出たからといって味が落ちるのかというとそうではありません。
こちらのように脂がきつすぎる節↓

脂の節

は問題外ですが、普通のかつお節を皆さんが購入されて出汁を引いてちょっと濁った場合、味に変化がなければ問題はありません。
もうちょっと寝かせてあげたら美味しくなっただろうな、とは思いますが、味が落ちるわけでも、悪いことでもありません。

ただ、料理店さんの場合は、澄んだ美しいお椀を提供する場合には澄んだ出汁が良いので、充分に寝かせた節を取り寄せられるのが良いかと思います。

余談①:濁りが見えます

弊社は、かつお節を見て触ると、大体ですが出汁が濁るか濁らないかが見えます。
なので料理店さんに節を提供する場合も、時期的に納品までにどうしても充分に枯らすことができなかったと思われる場合は、素直にその旨を伝えます。濁る可能性がありますと。
そうすると、料理人さんもそのつもりで出汁を引いてくださいますので、それに合わせてお料理や器を変えたりするところもあります。
それでも濁らないものが欲しいと言われる場合は、いつもとだしの味が変わることを伝えます。(節の質が変わるので。)
その上で、どう使ったらいいかのご提案も併せて持っていきます。

私たちにとって、濁りは難しいようで意外と簡単で、でも難しい問題なのです。

余談②:出汁の濁りではなく『白濁』について
【追記あり】

出汁が『白濁』する、と聞いて、ピンとくる方は非常に少ないと思います。
あまり起こることではありませんが、稀にあるので書いておきます。

白濁

⇑これは白濁した出汁です。濁っているのではありません。『白濁』です。
不思議なことに、かつお節単体、昆布単体の出汁では透明なのに、混ぜた瞬間から白濁し始めるものがあります。ひょっとしたら『乳化』と言って差し支えないのかもしれません。この白濁が起こると、上記までのような『濁り』とは全く異なり、味や香りが劇的に変化します。すごく平易な言葉で表現しますと、<間の抜けた中途半端な味・香り>になります。こうなってしまうと、残念ながら手の施しようがなく、もうどうしようもないのです。
これは同じ昆布を使っていると起こるので別の昆布に変えるのがいいでしょう。かつお節を変えても起こるときは起るので、恐らく昆布の何かに起因しているのではないかと思っています。

この原因ですが、はっきり言ってわかりません。
傾向として、ぬめり(フコイダン)の多い昆布に発生することがあるように思われますが、ぬめりが多くても発生しないこともあります。
またぬめりが無くても発生することもあります。
恐らく昆布の糖類とかつお節の脂質かたんぱく質と結合して、沈殿白濁又は乳化が起こっているのではないか?と調べた結果としては推察しているのですが…今のところ全くわかりません。
そしてどれがそうなるのか、見分け方もわかりません。
仲良くしていただいている大阪の昆布問屋さんにもこのことをお尋ねしたことがあるのですが、その方もお調べになったようですが全くわからず…匙を投げてます。
更に別の昆布問屋さんもお調べになったようですが、こちらも…。

長年様々な料理人の方も悩んできた問題ですが、いまだに解決の糸口は見えません。

ぜひとも、この原因を研究してくださる方が欲しいものです。
うちもできる応援はさせていただきますので、興味のある方がいましたらご連絡ください。


文章に残して、後の世代に繋いでいきたいと思っています。 サポートいただけると、とても励みになります。 よろしくお願いします。