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うちのハイパー犬



 うちの犬は、かなりの問題児です。じつはとても賢くて、呼んだら来るし、マテもできます。ただ、人が来たり他の動物が目に入ると、飛び上がったりグルグル回ったり吠えたり、興奮を制御できなくなるのです。これまで、ドッグトレーナーを雇ったり、さまざまなガジェットやハーネスなど、犬を落ち着かせる効果があるとされるものを取っ替え引っ替え試しましたが、興奮すると頭に蝶々でも入り込んだみたいになるのは、もうどうしようもないのだと今では諦めの境地です。散歩の途中で、犬連れの人々が立ち話しているところに出くわすと、大人しくきちんと社交できているワンちゃん達を心底羨ましく思いながら、剣の舞状態の我が子を引きずるようにして、足早に過ぎ去るのです。



 私には、既に成人した子供が二人います。二人とも比較的おとなしかったので、私は学校の先生から呼び出されたこともないし、外で誰かに迷惑をかけたり怪我をさせたりするのではないかという心配をしたことは、ほぼありません。なので、授業中イスに座っていられない子や、大きな声を出してしまう子、先生から同じことを繰り返し注意されている子を見て、あらあら、家庭や学校でもうちょっと上手い指導をしてあげられないものかしら、などと思っていたのです。



 2020年のアカデミー賞で、『FLOAT(フロート)』というピクサーの短編アニメがベストショートアニメーションにノミネートされました。若い父親と5歳ぐらいの息子を描いた作品です。息子は、嬉しくなると風船のように宙に浮いてしまう(FLOAT)性質で、お父さんはこの子を公園に連れて行くのですが、周囲から奇異の目で見られる息子がどうにか浮かばないように、試行錯誤します。色々と画策しますが効果なく、挙げ句の果てにバックパックの重しを背負わせても、それをすり抜けて浮いてしまう息子を見て、息子の特性をそのまま受け入れることを決心するのです。



 私には、このお父さんの気持ちが痛いほど分かりました。犬と人間を一緒にするなと叱られそうですが、私も、犬が散歩中に興奮してジャンプするのを防ぐために、遭難救助犬が担ぐような犬用バックパックに水のボトルを入れて担がせてみたことがあるのです(注)。結局、重さに慣れて足腰が鍛えられ、さらにジャンプ力が増してしまい、FLOATのお父さん同様、万策尽きた思いで、物を使った躾を諦めたのです。



 それまで、「あら、あの飼い主さん、ちゃんと犬の躾してないのかしら?」と思われたくないがために、少なくとも「どうにかしようと頑張っている飼い主アピール」を装ったりしていましたが、もう恥ずかしがるのも、卑屈な苦笑を見せるのも、やめました。人間にも犬にも、持って生まれた特性があり、できることとできないことがあり、いびつで当たり前なのですから。



 同時に、公共の場で注目を浴びがちな子供に対しても、見る目を改めました。「あらあら、この子の親は……」などと思っていた自分を恥じます。私のそんな目線がどれほど若いお父さんやお母さんを苦しめていたことか。神様はこういう「気づき」を私に与えるために、うちの犬を私に遣わしたのかもなぁと思います。




注)犬に荷物を担がせることは、ドッグトレーナーが提案するトレーニングで、「体重の10〜20%の重量」という条件さえ守っていれば、犬に負担を与えないことが実証されています。
 本来、犬は働く動物で、それが走ることや泳ぐことであっても、与えられた任務を遂行することで心身共に満たされる、という理屈で、無駄吠えなど問題行動のある犬になにか役割を与えると効果的である、という考えに基づいています。

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Posted by Disney Pixar on Monday, April 6, 2020

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