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フランス映画とアホな私



 昔、大学に入ったら、あるいは一人暮らしをしたら、やりたいなぁと思っていたことがありました。インテリア雑貨を買うとか、アンティーク家具のあるカフェでコーヒーを飲みながら本を読むとか、ワインを飲みながら料理をするとか、一人旅をするとか。



 それらは、私が憧れる「大人」がいかにもやっていそうなことで、その中に、名画座でフランス映画を観る、というのがありました。私は全く映画通ではないので、もちろんフランス映画が好きだから、というわけではありません。オリーブ少女だった私にとって、フランスは憧れて当然な国で、フランス映画には、スピルバーグのブロックバスターとは一線を画すセンスと知性がある気がしていたのです。大学で一人暮らしをしたら、実家の生活臭を脱ぎ捨て、そのようなことを片っ端からするつもりでした。



 大学に進学して少し落ち着いた頃、吉祥寺の名画座でフランス映画を3本立てで上映していました。背伸びを急ぐ私がこれに飛びつかないわけがありません。もちろん一人で参りました。



 上映されていたのは、『満月の夜』、『レネットとミラベル』、そして『クレールの膝』の3作。それが、エリック・ロメールという著名な監督の作品だと知ったのは、ずっとずっと後のことです。なぜそんな知識もないくせにタイトルまで覚えているのか。それは、その体験が、「あれは一体何だったんだろう」とその後ずっと頭のどこかに引っかかっていたからです。


 タイトルを見る限り、フランス、満月、夜ときたら、しっとり官能的な大人の恋が描かれているに違いありません。『レメットとミラベル』は、おそらく『olive』モデルのようなレメットちゃんとミラベルちゃんがお洒落なリセエンヌの世界へといざなってくれる作品。見ているだけでセンスが磨かれるに違いありません---。そんな期待は見事に裏切られ、さらに、タイトルから何の妄想も浮かばなかった『クレールの膝』に至っては、膝フェチの中年男性が若い女の子を慰めながら膝に手を置くというシーンがクライマックスの、お口あんぐりなナンジャソリャ案件だったのです。


 なんというか、ただただ、自分がフランス映画をこれっぽっちも理解できない事実に打ちのめされた経験となりました。あれから30年以上も歳を重ねて、ちょっとは人の心の機微が分かるようになった今なら、感じるものがあるのでしょうか。機会があれば、あの3作をまた観てみたいです。


 そんな風に、背伸びをしてはイマイチな気分を味わっていた私の青春時代ですが、自分の子供たちを見ていて思うのは、今の若い子も、大人になったらやってみたいと思う憧れの行動があるのだろうか?ということです。



 インターネットやSNSのおかげで老若男女がアクセスする情報が共通しているからなのか、若い世代と上の世代の境界線がぼやけていると思うのです。うちの母なんて、若い芸能人や流行のことを私より知っているし、最近のお年寄りはとっても若々しいです。逆に、起業する学生が珍しくなかったり、いろいろな場面での若い人の活躍が著しい。うちの子達も、やりたいことは何でもできている印象で、大人になることへの憧れってあまりないように見えるのです。大人の世界に足を踏み入れるのが早い分、背負うストレスも多いのかな……。



 閑話休題……。



 先日、TBSラジオ『荻上チキsession』で、フランス在住の社会学者、山下泰幸さんが、いまフランスで起こっているデモについて解説していました。私は、背景となっているフランス社会の諸問題について山下さんの話を聴き、自分が今までどれだけフランスという国を知らなかったかということにショックを受けました。



 フランスは、「一(いち)にして不可分」という統合主義の下、文化の多様性を認めず、公共の場でのヒジャブ着用を禁止しているとのこと。さらに、人種や民族を体系的に分類して統計を取ることが憲法違反とされているため、社会学的に社会問題を分析し、対策を練ることも困難とのこと。また、フランスでは学費が無料にもかかわらず教育格差が社会問題となっている理由は、貧困層や移民は大学など行かず働くよう促す風潮が社会に根強くあるからとのこと。


 なんと!

 
 アメリカだったら、50年以上も前からアウトなことが、フランスでは法律で守られているなんて……。そんなことも知らずに、私はフランス映画に何を求めていたのでしょう。アホにも程があります。どの社会もどんな文化も、陽もあれば陰もあるわけだから、たくさんの知らないこと、もっともっと知りたいなと思いました。そして、日本ではよく、「欧米では云々」という言い方をしますが、あれもやめた方が良いと思いました。

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