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『小さな恋のメロディ』のこと

2021/04/19

 先日、高校生の娘のスマホからなんともレトロなサウンドが流れてきました。何を聴いてるのか聞いたら、Bee Geesだと言います。今の子がBee Geesなんて聴くんだ〜と驚いて、私が『小さな恋のメロディ』のMelody Fairを口ずさんだら、知らないと言うので、あの名作を娘と一緒に見ることにしました。実は10年ほど前、無性にこの映画が見たくなる出来事があり、DVDを取り寄せたのです。



 娘が6、7歳の頃、お友達のお父さんが、近所の小学校のバザーに娘を連れて行ってくれました。夕方、上気して帰宅した娘の手には、ビニール袋に入った金魚が。困惑気味に「え?これどうしたの?」と言うと、お友達のお父さんは、私の顔色から責任を感じたのか、咄嗟に「Mちゃんが、『家に水槽があるから飼える』と言ったので……」と申し訳なさそうに言いました。たしかに、うちの裏庭には小さな水槽がありました。ただ、数年前に飼っていた金魚が死んでからは雨ざらしになっていて、ゴミ箱ともガラクタ収納ともつかない用途で放置されていました。金魚を飼うとなったら、当然新しい水槽を買わなければなりません。お友達親子を見送ると、私は娘に言いました。「この金魚、どうするの?!」



 娘はワッと泣き出して、金魚と共にバスルームに駆け込んだきり、立てこもってしまったのです。小一時間、説得を試みた結果、籠城の理由が「ママも『可愛い!』って喜んでくれると思ってた」ということなので、トイレのドア越しに「可愛い、可愛いよ!すっごく!名前なににしようか!うちにあるあの水槽じゃ可哀想だから、新しいの買いに行こう!」などと必死でなだめたのでした。



 この時、私は『小さな恋のメロディ』で金魚が非常に印象的に用いられていたシーンを思い出していました。そして、子供の繊細さとひたむきさを描いたあの作品で、とにかく鈍感で無神経に描かれていた大人の立場に、自分自身がなってしまったことにショックを受け、また娘がメロディと重なり、甘く苦い思いが込み上げてきて、今すぐあの金魚のシーンを確認したい!と思ったのでした。『小さな恋のメロディ』は1971年制作のイギリス映画ですが、アメリカでは全く評価されなかったようで、ブルーレイやDVDはおろか、VHSすら売られていません。そこで、日本のAmazonからDVDを取り寄せた次第です。



 なぜか日本では、当時も今も名作扱いなわけですが、ちょっと分からないのは、公開時期なんです。公開時の71年、私は乳飲児であったため、もちろんリアルタイムでは見ていません。初めてそのタイトルを目にしたのは、おそらく小学校高学年ぐらいだったと思います。『明星』や『平凡』といったアイドル雑誌で、女性アイドルが口をそろえたように好きな映画として挙げていたのが『小さな恋のメロディ』でした。私も見たくてしょうがなかったのですが、当時は配信もレンタルビデオもないので、テレビの洋画劇場などで放映されるのを待つしかありません。結局いつどうやって見たのかも覚えてませんが、やっと念願叶ったのは、80年代半ばだったのではないかと思います。このアイドルの方々も、おそらく私より5、6歳上ぐらいだったと思うので、彼らが映画館で見たとは考えにくいのです。そう思うと、70年代から80年代にかけて何度もテレビで放映したのだろうと思います。



 大人になって観る『小さな恋のメロディ』は、いまや世界中どこでも見かけるファストファッションの広告など一切ないロンドンの街並みが美しく、失われた光景に切ない気持ちになりました。そして、子供の頃には気づいていなかった、イギリスの階級・人種問題、そして生活格差なども描かれているのが興味深かったです。



 今回、新しい発見として思わず声を上げたのは、金魚の目でした。メロディが勝手に持ち出した母親のドレスと物々交換で手に入れた金魚の目が、左と右で明らかに大きさが違うのです。お金のないメロディが、どう見ても胡散臭そうな行商人から買った金魚として、非常に象徴的なのです。じつは、去年10歳で息絶えたうちの金魚は、片目が見えないのか、古い鏡のように、鈍く光を反射していたのでした。

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