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M&Aプロセスのポイント(売り手向け):①案件開始前

今回も実務的な話。M&Aの流れ/進め方について、売り手目線のポイントをまとめたい。第1回は、M&A案件開始前の準備編です。

1. 売却案件の魅力

M&Aプロセスを考える前に、そもそも売りたい事業/会社が魅力的かどうか。

M&Aは、売り手市場と言われるが、実態は二極化している。人気がある売却案件には、複数の買い手が手を挙げるが、それ以外は、買い手がなかなか現れない、現れても合意まで至らない。後者の場合で特に多いのが、自主再建が困難な売却案件。日本企業は、ぎりぎりまで売却に慎重なので、売却タイミングを逸してしまう傾向がまだ強い。但し、一部上場企業では、積極的な事業ポートフォリオの見直しを行った結果、業績堅調でもノンコアなグループ企業を売却するケースがあり、その場合は非常に人気がある。

当たり前だが、人気がある場合、売り手の交渉力を高める意味からも、オークション方式で進めのが一番良い。

買い手がなかなか見つからない場合、売却条件よりもまず買い手探し(マッチング)が重要となり、実質相対取引で進めることが多い。当然ながら、売り手は売却条件に贅沢は言えない状況での判断になるので、売り手も相応の覚悟が必要となる。

プロセスを考える前に、まず売却案件の評価が重要。

2. 本気の買い手の存在

人気のある売却案件でも、最後に締結するのは、基本買い手1社。複数の買い手候補がいても、皆walk awayすると、M&Aは成立しない。逆に、人気がない案件でも本気度がある買い手が1社いれば、M&Aは成立する。

買い手ユニバースを考える際、本気の買い手が1社でもいるか、そこをまず抑えたい。

3. 買い手ユニバースの検討

どのような買い手候補がいるか/いそうか。自社調査・外部である投資銀行やM&A専門家の情報(色々と提案に来るので、その際に集める)を少しずつ収集しながら、買い手(事業会社)の関心度(Tier1~3など)を纏める。以下、サンプルですが、ご参考までに。

参考

客観的な情報である、財務状態(買収余力はあるか)、事業戦略(IR資料より本件が各社の事業戦略に合っているか)、M&A実績(M&Aに慣れているか)をもとに、各社が本当に買収意欲があるのか、テーブルに纏めてみる。加えて、各社の見識(生の声)を外部関係者(投資銀行・M&A専門家など)から集めて、買い手候補の下馬評をまとめてみる。

ここで留意点として、外部関係者は、Sell-side FAを獲得するために話を盛るケースがある。また、買い手候補も本気で買収したい場合、オークションの過熱化を避けるべく、軽々しく外部に意向を伝えないことは、多々あるので、鵜呑みは危険。本気で考えている買い手は、直接売り手にコンタクトを取ってくるケースがあるので、特定の外部関係者から情報には惑わされないように、複数情報網を確保しておいた方が良い。(逆に聞きすぎると、変な噂が独り歩きするので、信頼のおける外部関係者へのヒアリングが良い)

なお、事業会社のみでは、買い手ユニバースの構築が難しい場面が多いので、PEファンドにも声をかけるケースが今は一般的になっている。

4. オークション vs 相対取引

売り手にとってのオークションのメリットは、利益最大化の追求、案件成約確度デメリットは、相手は増えるので、時間がかかる/負担も大きい/情報漏洩リスクが高まる、など。

相対のメリット/デメリットはその反対。特に相対になると、売り手の交渉力は圧倒的に弱くなるので、留意が必要。なお、相手が1社であり、案件のスピードが増すメリットも大きいので、利益最大化を諦め、スピード重視の方針であれば、相対の方が良いケースもある。

オークション⇒相対取引は、容易にスイッチ可能だが、相対取引*⇒オークションは不可。ゆくゆくは相対取引になる可能性が高い案件でも、最初はオークション形式で始める方が良いということになる。(*通常、相対取引となる際、売り手は買い手に独占交渉権を付与するため、一定期間は完全相対となる)

買い手が1社だけしかいなかった場合、実質相対になるものの、他の競合もいるかのように演じて、オークションを装うこともある。のちに周回遅れで買い手候補が現れることもある。

気を付けるべきことは、あまりにも無駄に煽ると買い手が嫌気を指して、Dropするリスクも高まるので、この場合は自社のDeal Breaking基準と照らし合わせてどうかという視点の方が好ましい。

5. オークションプロセスの設計

まずM&Aプロセス設計にあたって、特に決まりはない。基本、相手もokなら自由に決められる。途中でプロセスを辞める権利もあるし、買い手候補を落選させる権利もある(落選理由を言う必要もない)し、入札を通過する社数も自分で決められる。スケジュールも正直なところ、売り手主導で決められる。

但し、プラクティスとして常識の範囲というのもあるので、それは守りながらも、売り手として譲れない条件進め方があれば、プロセス設計には織り込んだ方が良い。(Clean Exitが必須条件であれば、予めSell-Buy FlipR&W保険購入を前提にするなど)

2段階オークション: 2回入札を行う方式が一般的。1次入札、2次入札で徐々に買い手候補を絞っていく。1次入札は、Non-Binding Offer(法的拘束力を伴わない)、2次入札Binding Offer(法的拘束力を伴う)。

加熱する案件やガチの競合先で、どうしてもプロセスから排除したい買い手がいる場合、価格すら受け取らない、0次入札(定性面のみで判断)を行う場合も、稀にある。

相対取引へのスイッチ: 売却対象側の事務能力・マンパワーがない場合、2次入札への通過者を1社に絞るケースもある。この場合、実質相対取引となるが、1社に絞ったことを買い手に知らせず、DD期間も、買い手候補からのアプローチをオープンにしておけば、競争環境はゼロにはならないので、独占交渉権を付与するより、交渉力は維持できる。但し、やり過ぎは禁物。

時間軸: オークションは時間がかかるので、時間的プレッシャーをかける場合、予め時間軸を内々で設定した方が良い。1次入札までの期間、DD期間、交渉期間など。一般的には、1次入札時に買い手に希望するスケジュールを提出させて、その内容を踏まえて、2次入札の期限を売り手が設定する(往々にして、買い手の希望が通らないですが。。。) 。

6. オークションプロセスの常態化

最近は上場会社も社外取締役が増え、善管注意義務の観点より、会社/事業売却の際、オークション方式を採用することが多い。昔のように内々で秘密裡に進められるというより、関心の高い案件では半ば公開オークションのように一挙手一投足がメディアで取り上げられることもある。コーポレートガバナンスコードで社外取締役は株主との「建設的な」対話を無視できないので、そこで情報が漏れる可能性もあり、多分社内のPJチームは盲点になるだろう。

一方で、相対取引というと、既に相手が決まっている案件、つまり昔は上場子会社の100%化(株式交換)や経営統合などであった。総会さえ通れば良く、反対株主を1/3未満であれば抑えられる。しかし、上場子会社の完全子会社化に関しても、少数株主保護が厳しくなり、そこに目を付けたアクティビストも日々ウォッチしており、マーケットチェックの必要性も議論されている。
上場会社においては、あらゆる案件でオークション方式でのM&Aが今後避けて通れなくなる可能性がある。

次回は、具体的にM&A案件の開始以降のプロセスについて、説明します。

(補足)
後継者問題を抱える国内中小企業オーナーの多くは、そもそもオークション方式での売却方法の存在すら知らない方も多いと聞きます。
M&A仲介は、基本合意時で相対取引化し、買い手有利/売り手不利なプロセスで進めるので、利益最大化を目指したいオーナーは、FAの話も聞いてもらうのが良いと思います。以下、M&A仲介の問題を整理しました。
https://maadvisoryplatform.com/u/mapcolumn/hrdrk12odutjwi


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