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皆もすなるといふ退職エントリなるものを

退職します。

いわゆる退職エントリを書くと多分私はいろいろなことを思い出してしまって、いい思い出で終わらせたいはずなのにいつの間にか怨念のこもった文章を書いてしまいそうなので、ちょっと違うことを書きます。退職するにあたって私の後ろ髪を引きまくった男についてです。

私の上司(テクノロジー担当VP)のA氏です。

A氏なる人

思えばこの会社では非常に優秀な人に恵まれましたが、残念ながら私と合わない人に苦しめられたこともありました。合わない人のうちの1人が、A氏の前任者でした。なので正直、同じポジションにおさまるA氏にも私はあまり期待していなかったのです。A氏は海外から赴任してきたということもあって、ローカルで作られたプロダクトを担当していた私は当初かなり警戒していましたし、彼も日本に着任してからしばらくは様子見のような形であまり目立つ動きはありませんでした。

それでも徐々に一緒に働く機会ができて信頼関係を深めていくことができ、彼が物理的に日本に引っ越してくる頃にはもう私は完全に彼を信頼していましたし、尊敬するようになっていました。

私はいつも救われていた

外資でありながらどこか日本企業的な文化も残る会社だったので、私にとっては苦労が絶えない環境でした。思想にダイバーシティはあまり無く、「こういう考え方であるべき」みたいなものが暗黙の了解として漂っていました。それを外様である私が理解するのはかなり難しかったし、そうでなくても私の考え方は一般の人とは少し違うようだということを自覚するのに十分な数の事件が起こっていました。

以前の上司も私の考え方を尊重してくれましたが、A氏は更にそこから一歩踏み込んで、私に「もっとやれ」と言ってくれる人でした。彼はいつも、「皆が同じ意見だったら何の成長も生まれない」と言っていました。そして、いつも私の考え方をいろいろなところに広める手助けをしてくれました。

私が何か普通の人にとって予想外の発言すると、画面の向こうのA氏はいつも「やれやれ」という感じでニヤニヤしていました。最後にいいタイミングでカットインしていい感じにまとめておいしいところを持っていくのは彼なのですが、彼のまとめにはいつもきちんと私の意向が反映されているのです。
唯一私の意向を一切反映してくれなかったネタがあまりにも大きすぎて実は退職理由のうちの1つだったりもするのですが、それは私の根回し不足でもあったので特に文句はありません。

辞めるにあたって感じる愛

私が一番尊敬の感情を強く持ったのは、部長昇進を打診された時でした。

長きにわたり部長の仕事をしていながらも部の数が足りなくてマネージャーだったという謎状態を経て、正式に部長昇進を打診されたのです。

「昇進おめでとう。でもこれがこの会社での最後の昇進には決してならないよ。」

と。そして私はそれに対して、

「嬉しいけど、これは間違いなく最後の昇進。私は離職リスクが高い状態になっていて、多分近いうちに辞める。本当にあなたはそんな人を部長にしていいの?これはこの話が正式になる前にちゃんと伝えるべきだと思ったから今言った。もしそのリスクが高すぎると思うなら、今なら引っ込められるでしょ?」

とストレートに言ったのです。私はこの時、既に会社を辞めようと思っていたのです。

これに対する返答で涙腺崩壊間近になりました。

言われたこと

気づいていなかった。正直に話してくれてありがとう。でもその話を聞いた今も考えは変わらない。ビジネスの状況を考えると新しい部が必要だし、最もふさわしい人を部長にしたい。それは他の誰でもない。

もし、いや部長なんてやりたくない、勘弁してくれというのなら、この打診を取り下げることはできる。それでも新しい部は必要だから、多分誰か外からひっぱってくることになると思う。それであなたはその新しい部長にレポートするようになる。そんなのおもしろくないだろうから、多分これはあなたの離職を早めることに繋がるとわかっている。その手段はあまりとりたくない。

あなたは大きなインパクトを与える仕事がしたいと思っているだろうから、あなたが辞めないように、私は常にそういう仕事を用意するように頑張らないといけない。でもそれは結構自信がある。そんな仕事はたくさんあるから。

もうわかっていると思うけど、私が大切にしているのは皆の幸せだから、もし会社を離れることになっても、幸せな道に進めるようにしてあげたい。もちろん今はこの会社に残ってほしいと思っている。でももし外に出る決意をしたとしても、この会社で部長をしたという事実はあなたのCVをより魅力的に見せるでしょう。

最悪のシナリオを考えよう。もしあなたが今年中に会社を去ることになったら、と。その時のために、今からサクセションプランを考えなければならない。今オープンになっているポジションに人が採用できたら、その人を育てるというのがいいかもしれない。どういうレベルの人が採用できるかによるけど。

大丈夫。ちゃんとサクセションプランを考えよう。準備して、いつになるかわからないけど、2年後?3年後?そんな日が来ないといいけど、その日に備えよう。今こういう話をしてくれたから、それに向けた準備ができる。ところで、私のサクセションプランにはあなたの名前を使えなくなったね。考えなきゃ。

さて、どうかな?部長やってほしいと思ってるんだけど、やる?

(ここで半泣き状態でYesと回答)

じゃあ人事に共有しておく。オープンに話してくれてありがとう。それから、昇進おめでとう。まだこの話は誰にも言っていないから、今日は1人で静かにお祝いしてね。

惚れてまうやろ

何か少しでも考えると泣いてしまいそうだったので、YesとThank youしか言わないマンになっていたのですが、コールを終えた瞬間に思う存分涙腺を崩壊させました。

私はもう何ヶ月もの間ずっと会社を辞めたいと思っていたし、とはいえまだ自分がやり遂げたい仕事もあったのでそれを目標にずっとカウントダウンを続けていて、ようやくその日が近づいてきたと思ったのに上司の素晴らしさを再確認してしまうというまさかの展開。

実はあるマイルストーンをもって次のことを考え始めようかなと思っていた私ですが、完全に後ろ髪を引かれ、もっと長く働くことを考え始めました。

結局長く持たなかったのは本当に申し訳ないんですが、明らかに私はここで少し予定よりも長く働いたと思います。この人がいたから。

彼からもらった最後の評価の一部。多分この先これを何度か読み返すことになると思います。

Eager to learn, focused on customer outcomes, valuable disruptor with a different perspective and approach to many scenarios. Willing and confident to debate if she has a different opinion.

Opportunities:
Others sometimes struggle to get to understand Aki's perspective which makes it hard for her to influence others in the Technology Team to her way of thinking.
Aki’s quiet nature, focus and direct communication style can sometimes be perceived as dismissive or unsupportive.

そして私は旅立つ

退職の意向を伝えてからしばらくして、私は恐るべきメッセージをA氏から受け取りました。

「退職後も、業務委託として少し働かない?」

私は会社に副業申請をしていたので、彼はその承認者として、私が個人事業主として働いていることを知っていたのです。そしてこのオファーをくれたことは私にとって本当に嬉しいことでした。もう一緒に働きたくないと思っていたならこんなこと絶対言われないだろうから。

ありがたいことに社長からも、形は変わっても長く関わってほしいと言ってもらえました。

結局いろいろあって実現はしませんでしたが、もし今後何かの縁があれば副業先として関わりたいと思っています。本業で戻ることは多分もう無いかな。

ありがとうございます。いただいたサポートは、脳の栄養補給のため甘いお菓子となり、次の創作に役立つ予定です。