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元夫婦の間にあるものは

実は信濃路を教えてくれたのは元夫で

苦役列車の西村賢太さんが定宿ならぬ定飲み屋にしていたので有名なんだけど
今度行ってみないと誘ってくれた

苦役列車はその時はまだ読んだことがなくて
いつか読んでみたいリストに入れて順番待ちだったのだけど
現実に訪問可能な聖地があると知って
ゴボウ抜きで積読リストから飛び出して
あっという間に夢中になって読んでしまった

ところが言い出しっぺの彼が体調不良を訴えて
信濃路行きが年を跨いでも実現不可能なのに業を煮やして
待てなくて友達を連れて飲んでしまったのも

この赤毛の駄文を毎回読んでくれている元夫なので知っていて
だからといって
なんで僕と行こうと言っていたのに
先に他の人と行っちゃったのなんて
了見の狭いことは言わない人だ

信濃路行ったんだね
どうだった
羨ましいな
僕も行きたいから早く治らないとなって

さらっと口にするだけで

私もそっけなく
うん安くて美味しくておじさん天国だったよ
右隣は退職を留めてベロンベロンの酔っぱらうおじさん二人組
左隣はノンアルの若者3人組で
世界線一緒なのかバグったよって

早く良くなって一緒に行こうねって言ったけど

癌の再発の有無の定期検査で今回
間質性肺炎がみつかっちゃったと

春一番が吹いたら信濃路リベンジできるよって息巻いてたくせに
来月のレントゲン検査でなくなってればいいんだけど
もうしばらくだなあ
それまでは様子見るから飲みにはいけないやって

春一番どころか桜前線が北上して
東京を駆け上っていっても
まだ信濃路行きは叶わない

間質性肺炎ってなんだろう
マイコプラズマ肺炎とか誤嚥性肺炎なら聞いたことあるけどな

ちょっと調べてみても心配になるようなことしか書いてない
正直大腸がんは昨日今日で急にどうのこうのなる病気ではないから
喫緊に命がどうのこうのと思ってなかった

けど
今回のやつはもしかしたら
死んじゃうやつかもしれないと
急に胸に文字が迫ってきてペタアっと張り付いて気道を塞いだみたいな重さで胸にのしかかる

多分前に大腸がんがわかったときには
元夫との関係性はただ養育費を定期的に振り込んでもらうだけの
経済的な繋がりだけだったから
冷たいようだけど
心が揺れることがなかったんだと思う

けど
互いに大病を経てサバイブして出会い直してみると
たしかに色々あったけど
二人は結婚しようと思ったほど好きだったんだよねって素敵だと思うところがあったんだよねってところだけが残ったというか
ホントに馬鹿だなあと思うけど笑
離婚するときは戦後の教科書みたいに真っ黒に墨で塗りつぶされた暗黒の結婚生活だったのに苦笑
そんなふうに再定義して

だって死ぬかもしれない時に
全否定するか全肯定するかって二択なら
誰だってyesってオノ・ヨーコさんじゃなくてもそう答えると思う

脚立を登って天井からぶる下がる虫眼鏡で覗く
その先には


二人が出会ったギャラリー


YESと小さく書いてある
全肯定
オノ・ヨーコさんのメッセージ


ってイエスとノーの極端な
二択しか用意しないのが赤毛なんだけどね笑
本当はたくさんのグラデーションで世界ができていることを知ってはいても
そのグラデーションの基準になるのは白だし黒で
自分がどちら側に立つのかハッキリしなければやっぱり世界を切り取ることができないと私は思うから

悶々とはしても実際には何もすることはできずに時間が過ぎて
結局一過性の間質性肺炎の診断が下りて
信濃路行こうよと呑気に人の気も知らないでまた誘ってきたけれど
異動で忙しくなってしまったと
悔しいから心配していたことは言わずに

リベンジの時を楽しみにしている


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