姉妹の仲が赤毛家は良くないので
食卓を囲んで腹を割った話になるのは
割りすぎてブチギレて喧嘩になるときだけで
あのさって
素直に切り出せるのはいつも外食でだったりする

次女とは次女の
長女とは長女の
それぞれお決まりのお店があって
それが好みで被らないのも
まあそうだよなあと苦笑
だってふたりきりになりたくてのチョイスなんだから

長女とイタリアンで待ち合わせる
絶対に約束の時間には来ないのはいつものことで
まあ30分までは想定内だ
ここはイタリアだもの

店内真ん中のテーブル席に案内されて
壁際のイタリア地図を見ながら
ウイーンから夜行でミラノを目指して
パッサポルティプレーゴのデカい声に起こされて国境を超えたことを知った夜を思い出しながら
脳内トリップしていると

前の席には
赤毛よりすこし年上のV字に胸元の開いた
ロングヘアのダブル浅野でいうと
温子さんの方みたいなお姉様が
向かいの席のやや年下と思われるお兄さんに
かなりいい感じに酔っ払ってクダを巻いている笑

聞くともなく聞こえてくるのは

人手不足の職場の愚痴と
看護職なのかなと思われ

飲むために頑張って働いて
自分の金で飲んでるんだからいくら飲んだって誰にも文句は言わせねー
借金はしてないぞー
全部自分で稼いだ金だー
誰か文句あんなら言ってみろー
バチコイバチコイみたいな感じで

うんうん
お姉さん
わかるよ
自分で稼いで飲んで
誰に文句を言わせようか況や八百屋だと
こっそりエールを送る

しばらくそんな無言のやり取りを経て
やっとこさ真打ち登場長女が急いだという風もなくやって来る

おおう
こっちこっちと手招きすると

クダンの温子姉さんが
酔っているとはいえ聞き捨てならない声の大きさで呟き始める
最早呟きじゃないな笑デカイ独り言

似てる似てる
母娘だ母娘だ絶対
ソックリだ怖いくらいソックリだ

と見てはいけないものを見てしまったというスケキヨが湖に刺さってるのをみたみたいな表情でオロオロし始める

何だこの人
ウチの母娘のこと？
ソックリだけどさそんな初対面で面と向かって言う事？とやや訝しく思いながら
どうも、そっくり母娘ですと視線を合わせると

ニッコリと笑ってこちらに手を降っている

あちらの方が手を降っているご挨拶してくださってるけど知り合いなんじゃないかな?
と長女に水を向けると
振り返ってああと小さくお辞儀をして
いつもありがとうございます
今日は母とお客として食べに来ましたと
言葉をかわす

あーん
やっぱりそうだー
お母さんがお店に入ってきたときからずっと
そっくりだなーバイトの子にそっくりだなーって思ってたらさ

いきなり本物がやって来るから
やっぱりそうだー母娘だったんだー
そっくりなわけだーって
それにしてもヤバイよねそっくり過ぎない?

とそっくりに著作権をかけておけばよかった
そうしたらこのお姉さんからかなり課金できたのではと思うほど
いやアルコールのせいだろうけど
そっくりを連呼されて恥ずかしかった笑

ママ、いつもお世話になってるお客さんなんだ
この前も1杯奢ってもらったんだ

良くしていただいてありがとうございます
ええよく言われるんです
似てるねって
メガネと髪型と体型ですかね
下の娘はロングでコンタクトで大柄なので似てないって言われますけど

本当にー
バイトちゃんは頑張ってるのよー
可愛くてねー
応援したくなっちゃうのー

今後もどうぞよろしくお願いします

しばらくテーブル越しにクロストークもしながら
互いに料理に舌鼓を打ち
先に温子姉さんが会計を済ませて席をたった

バイトちゃん
本当にあなたのお母さんいいお母さんだわ
こんなお母さんが私も欲しかった
お母さん、私のお母さんになってください!!!!

逆プロポーズならぬ
オファーに戸惑ってしまうけど

いえいえそんな私良い母親じゃないです
離婚してますしね
子供から父親取り上げてますから

いや
現にあなたがこうやって育ててるじゃないですか
負い目感じてるんですか?自信持ってくださいよお私が保障します
関係ないですよ離婚なんて
珍しくもないし今どきよくあることの一つですう!!!

あの話してるの聞こえちゃったんです
マジで本当にいいお母さんだわ
今度一緒に飲んでくださーい
あ、バイトちゃんこれあげるう❤
とくまのプーさんのグミをくださる

うーんこの人鋭いな
このコ　グミが大好物なんやと思いながら

4歳児に薬物を飲ませた親が逮捕されたニュースに
親なのになんでこんなことをと信じられないとみんなが思うことも私は知っているけれども
私はそういう親が実際ににいることも知っているとだって自分の親がそういう親だったから

そしてそういう親に限って親権を絶対に手放さないし
役所も児相も手をこまねいていただけじゃなく
法律上出来ることを全てやってそれがこの結果なんだよって

温子姉さんが絶対に許さないって冷たい目で何回もクダを巻いてるのが
聞こえてしまったから
ああこの人はこの人の修羅場をくぐり抜けてきた人でその強さはふとした拍子にも見え隠れするのだと
不意に訪れた見知らぬ人からの赦しに戸惑うけれど
ありがたかった

本当にお店の磁場がいいというか
人と人を出会わせるお皿を供してくれる店長さんに手を合わせた夜に

お布施はお代で