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駐輪場にて

どんな仕事にだって
とブツブツつぶやきながら
地下鉄の真っ暗な窓の外をボケッと見送りながら
ピコピコトグル入力

駅前の駐輪場の当日利用
一日100円
定期利用より不便なとこにある利用ゾーンを案内して
百円の代わりに
小さい紙をハンドルにホチキスでカチャンと止める

利用者が帰ってきたら
小さい紙を外して
延滞してたら徴収する
一泊に付きもう100円

仕事はそれだけ

やりがいのある仕事がしたいというけれど

仕事そのものにやりがいがあるのか
それを探すのがやりがいを見つけることなのか

どんな仕事にもやりがいはあるし
それを感じられるか
そしてそれを表現というか体現できるか
その違いの方が

仕事自体の持っているポテンシャルというか
やりがいの質量よりも
余程大きいのではないかと思う

もちろんアフガニスタンの大地に
灌漑施設を掘って
見渡す限り一帯砂の荒れ地を
緑に変えた中村哲さんのお仕事は
やりがいの有無の次元を超えて
文字通り生涯と命を懸けた神からのミッションだ

けれど
市井の暮らしの中では

おかえりなさーいと
オジちゃんが大きな声で迎えてくれて

お疲れ様でしたー
遅くまで大変ネー

当日利用でお願いします

百円ねー

財布開けてもたもたする
赤毛は早くはできない
遅漏なんだ

いえいえ
係員さんこそ遅くまで大変なお仕事ですよね

いや俺もうアトちょっとで終わりよ
帰るよ笑
あれ?あそこで待ってるの、旦那さん?

(旦那いねえし苦笑心の声)

いい人なの?

だったらいいですねフフフ

ふうん
赤毛も旦那持ちに見えるんかな
新鮮な驚きや

奥さんがおられて夕飯用意して待ってるんだろうな
旦那のいない人がいるなんて
想像したこともないんだろうな

みんな、自分が普通だと思うからな
高度成長期の基本的な都会の核家族のユニットで語れる幸せのカタチ

私はその団塊の世代の子供世代で
第二次ベビーブーマーで
第三次ベビーブーマーを産まなかった世代
同級生でも未婚率も高いし
DNKS(今もそういうのかな)夫婦も多い
同性で事実婚しているカップルもいるし
バツイチもバツニもあり
全員が同じゴールを目指さなくなって
すこし多様性に近づいた
男女雇用機会均等法下の世代かなあ

気をつけてね暗いから
いってらっしゃい!

魚屋さんみたいな威勢の良さのオジちゃんに
背中を見送られて
地下鉄の駅へと急ぐ

仏頂面で淡々と必要最低限の
要件のやり取りで百円授受しても
駐輪場係としての仕事は過不足がないけれど

どんな仕事であっても

どんな気持ちで人に接するかで
胸襟を暖かく開くか冷たく閉じるかで
仕事そのもののやりがいは
変わっていくものだし

オジやんは少なくとも嬉々としていたし
そのオジやんとの短いやり取りに
この駐輪場を利用する人の何人かは
温められているのだと思う

駐輪場の仕事をつまらないと思うか
短く袖すりあう縁に気持ちを傾けることができるか

つくづく人次第だよなあと思って書いていたら

そういえばあら
高杉晋作さんの辞世の句にあるじゃない
いやあだ 1000字も費やしちゃった
31文字かあ……

おもしろきこともなき世をおもしろく
      すみなすものは 心なりけり (下の句は野村望東尼が詠んだとされている)







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