大学の友人と久しぶりにあった帰り道
いつも乗り換えで使う駅で降りなかったのは
その駅が通学していた頃に乗り換えで使っていた駅だったから
気分が学生時代に戻って
つま先が向いてしまったのかもしれないと
あとから思った

まあどっちでも接続するんだよなと思いながら
久しぶりの景色を懐かしく思いながら
地下へと降りる階段に向かうと

松葉杖を両脇に挟んで
デーッかいシルバーのスーツケースも抱えた
アジア系と思しき男性が
キョロキョロと途方に暮れているのが視界に入る

ゲ
松葉杖にスーツケースに外国人の三重苦で
ここまでどうやって来たんやろと
仰け反りそうになりながら

どうしましたかと言葉をかける

エレベーターを探しているんだけど
見つからないんだ

あああ
そうですよねえ（その脚に荷物じゃ無理）
ちょっと待ってください
駅員に聞いてきますから

残念ながら改札は近くになく
罰ゲームかよという位の分かりにくいフロアの片隅に
ひっそり佇むホーム階に降りるエレベーターを見つけた

日本人にだって難易度高めだ

階段でスタスタ降りれる側の人間には
エレベーターを使わないと乗り降りできない人の不便さはわからない
パンがなければブリオッシュたべればいーんじゃなあーいって
マリー・アントワネットには悪気はないんだ

腹を空かせた一般市民に
外国語が読めない旅行者に
身体が思うように動かない高齢者や障害者に

なったことがないだけ
旅は期間限定のマイノリティを体験させてくれるのかもしれない

見つけましたエレベーター　こっちです
よかったらスーツケース持ちましょうか?

ええお願いしますと
申し訳無さそうなハニカム笑顔を返してくれる

ああこういうシャイネスはアジアだなあと思う

旅行ですか?

はい
マレーシアからです
先週来たところです

脚は骨折ですか

はい
スキーで骨折しました笑
全治一ヶ月です

来日してスキーして早速骨折したんですか

はい…苦笑

事故ですか

ううん自爆
僕がただ転んだんだ

どこでスキーしたんですか

長野の白馬だよ

今日は長野から東京に？

ううん
今日はね山中湖から来たよ
富士山を見たんだけど
僕は松葉杖をつかなきゃいけないから
（手が空かないから）
写真を１枚も取れなかったよ

（いや汗そこ？写真取れたとか取れないじゃないっしょ）
その脚でじゃあ白馬から山中湖に松葉杖で移動して
いま東京についたの?

そう

誰か友だちと一緒なの

ううん
タイムトラベラーだよ
一人旅だよ

ぐげ　それは心配でしょうに
マレーシアのご家族には連絡したの？

ううん
ママには心配するから何も言ってないよ

いや
帰ったらびっくりするじゃない!

休みは25日あるから
全治も一ヶ月だから
帰る頃には治るかもしれないし

ううう帰らないのかーい
（山田ルイ53世の乾杯が木霊する　すげえなど根性だ）

自分が海外でいきなり骨折して松葉杖になって
一人旅だったら旅行を継続するかなあ
そのガッツがあるかなとふと思ってしまったけど

多分チケット取り直して半べそかいて帰国してるんじゃないかと

だって
無理だもの笑
松葉づえにスーツケース
けれどそういう風には思わないんだろうなと思ったから

でも全身的にはなんでもなくてよかったね
頭打ったり、入院してたかもしれないしね

と慰めの言葉をかけると

そうなんだよ
脚だけなんだ　脚を折っただけなんだよ
（だから大丈夫）

と笑って答えて
ああ、そうだこの人は脚が折れただけだってそう思ってるんだなって
地下鉄に一緒に乗り込んだ

どこで降りるの？

○○駅

ああ、私その二個先の駅だから
GHまで荷物押してあげますよ

ええ、いいです。大丈夫です。
駅から徒歩三分って書いてあるから。
大丈夫です

と
お会計時にアタシが払うからと揉めるオバサンのお約束のやつを
国際親善と繰り広げて

大丈夫じゃないです
あなたは歩くことだけに専念したほうがいいと思う
もう転ばないように
私は今日はお休みだからもう家に帰るだけで
なんの用事もないから気にしないで

と少し強めに目を見て言うと
わかりました、ありがとうと
素直に人のお節介を受け入れてくれて
オバサンで良かったと思った

今日は休みって言ってたけど

うん、今日はナショナルホリデーだよ
ううんと昔の天皇の誕生日記念だね

といったけれど、エンペラーの発音が悪くて通じない
おまけに天皇とか年号とか建国の伝説とかを説明するだけの
英文構成力もない笑

と、とにかく今日はお休みなんだ
暇だから気にしないでと笑ってごまかすけれど

七度目の来日で
明日は中野のまんだらけに行くんだと鼻の穴を膨らませるから
アニメが好きなの？漫画が好きなの？と聞くけど
これまた通じなくて
なんや、漫画もアニメもカワイイも世界共通語やないんけと
キレそうになったけど、どうやら発音とイントネーションが違うらしくて
あーMAMGA！と納得してたけど
最初からそういうとるやんけとノリツッコみしそうになったのも
面白かった

ゴロゴロとスーツケースを押して
GHのある街で二人地下鉄を降りて歩いた

インドとタイとカンボジアには行ったことあるけど
マレーシアには行ったことないんだ

暑い国ばっかりだね笑

てゆうかあなたの国も暑いよね

うんマレーシアも暑いよ笑

もしかしたら七度も日本に来ているのは
マレーシアにはないアジアの近隣国にはない
冬という季節に憧れているのかもしれないなと少し思ったところで

GHの入口についた

本当にありがとう
日本人はみんな本当に親切で日本が大好きだよ

とお世辞でもそういってくれて

うん良い旅を続けてね
そして無事にマレーシアに帰ってねと

踵を返して家路についた

帰ってこの話を娘らにすると
ああ、ママ　一年の計は元旦にありって
デュオリンゴやっててよかったじゃん
スマホに向かって
ウルサイって言われてもめげずに話しかけてて
役に立ったじゃんと褒められた

旅する日のために長い長い滑走路をのろのろと
英会話アプリで走り始めたことが
マレーシアの青年の旅と振動覚
繋がったのかなと思う夜に

アジアときたら
アジアンカンフージェネレーションを
推さないわけにはいきませぬ