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【エッセイ】 ライラック色の風のまぼろし


鼻の下をほんの一瞬、花の香りが通って行くように

海の向こうのチベットの景色が、心の中に訪れた

機械時掛けのような景色と毎日

ゼンマイで時間に動かされている気さえする中で

ほんの一瞬だけの旅に出る


ライラック色の風


真新しい切りての切り株に腰を掛けて
ちくちくする木の肌を感じ

熊が来るのだろうか?
サシガメがどこからか私を狙っているのだろうか?
はたまた、マダニにマメハンミョウもいるのだろうと思いながら
それでも良いかと思い流される

生きるってこう言う事でしょと思いながら



自然の中に来る時は
背中のゼンマイがぽろりと落ちている

自分の存在価値を測る計測機も無くなって行く

世界にはそんな自分をものさしで図らなくても良い場所があるはずで

そんな競争に疲れた自分の心が
役割を背負い込んで、手も足も動かし続けている私をチベットに連れて行くのだ


誰しもと同じ生き方ができるわけでもなく
そんな生き方を望んでいるわけでもないから未来はいつも空白で

一歩づつ道を探して来て
諦め半分だった事に気づき

ふわりと薫る
一瞬の憧れを膨らませてみる事にした

チベットの風景が一瞬で通り過ぎようとも、何度でも何度でも思い浮かべて

子供の頃に読んだ絵本の世界

誰もいない高原であびる、独り占めの風

旅の続きをまだまだ続ける


目を開ければ、私は私のまま

いつもと同じ、いつもの場所

それでも、少し肩の張りが和らいで行くのが分かり

ああ、こう言う事なのかと思い

背中にゼンマイをつけた日々の中で
ありえなかった未来を誰に許されなくとも描いて見ようと思ったのだ



道はいくらでもある
借りてきた人生への道ならいつでも行ける

でも、本当を見つけたいのなら
自分の言いたいことを全部聞いてあげる事だと思い

まぼろしは私をどこへ連れて行くのだろう?と

しばし、杉の木の下で日陰に佇みぼんやりする


目の端にはふきのとう

今日は春のご馳走

ゼンマイをつけた日常に戻れる為の
未来へのゼンマイを回す為のしばしの休息をあちらこちらにちりばめて




akaiki×shiroimi

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