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映画祭のマネジメントの研究9:映画祭が活発に行われているのはなぜか。

映画祭が活発に行われている背景

日本における映画祭は1980年代のバブル期における地域振興ブームによって急増し、1990年代の多様化を経て、2000年代においてもなお増加傾向にあります。

1980年代以降、一貫して映画祭の開催が増加傾向にある背景にはどのようなものがあるのでしょうか。

映画祭は低予算で開催可能

まず、地域が何らかの手段で地域活性化を行おうとする場合、他の施策に比べて映画祭は低予算で実現可能であるという理由があげられます。

地域活性化に対する取り組みが全国各地で図られるなか、映画祭は他の文化事業に比べて少ない予算で実行することができます。そのため、文化振興や観光施策の一つとして、地方自治体が主体となって開催されている例も少なくありません。

例えば、演劇の場合、イベントを実施するに当たっては、多くのヒトとモノが必要です。それに対し、映画の上映は少なくとも作品と上映装置さえあれば十分に実行することができます。

また、美術展や演劇、演奏会などの他の文化事業に比べて、映画祭は、より控え目な予算で実現することができます。こうしたことが、祭りを開催するに際して、映画祭が他の形態に比べて有利な点としてあげられます。

観客側の視点からすれば、映画は他のジャンルと比べてエンターテインメント性に富んでいます。人々の住む地域や階層、世代を超えて分かりやすい対象であるという点も映画祭が好まれる理由になっています。

映画祭の開催には大規模開発が不要

二つめは、地域活性化策を実行するに当たって、映画祭は大規模開発が不要であるという理由が考えられます。映画祭の開催には、新しい施設を建設する必要がありません。映像というソフトウェアを用意すれば必要最小限の材料は整います。

また、映画祭の開催によって、地域内で人の流れに部分的な変化が生まれます。地域を訪れる客層が部分的に変化することになるのです。そうした新しい客層が地域に活気を与えるとの期待もあります。

映画祭の開催は、大規模な開発を必要とせずに、地域活性化を図る手段として活用の頻度が高まっていると考えられます。

映画祭はヒトを育てることができる

三つめは、映画祭の有するインキュベーション(ふ化)機能です。映画祭は、若手映画人を発掘して育成する機能を持っている場合があり、これに対する期待もあります。

コンテンツ産業の拡大のためには、若くて才能のあるクリエーターを発掘して育成する仕組みを整備することが重要です。例えば、ベルリン映画祭のヤング・フォーラムや、アメリカのサンダンス映画祭、スイスのロカルノ映画祭などは、若手の発掘に重点を置いており、映画産業におけるインキュベーション機能を果たしています。

国内においても、若手のクリエーターの発掘及び育成のために映画祭を開催するケースが増えています。

映画祭はベンチャー型・草の根型のイベント

四つめは、映画祭がベンチャー型・草の根型イベントの一類型であることです。祭りというものは、その地域の歴史や生活文化などに深く根差すものであり、容易には新しく作り出せません。ところが近年になって、イベントや祭りを新たな視点から創造する試みが日本各地で出始めています。

例えば、北海道札幌市の「YOSAKOIソーラン祭り」は高知市の「よさこい祭り」と北海道民謡の「ソーラン節」を融合させて誕生した新しい祭りです。

また、北海道壮瞥町の「昭和新山国際雪合戦」は1989年に開始された地域住民の発案によるスポーツ雪合戦のイベントです。また、長崎県長崎市で2006年から始まった「長崎さるく博」は長崎の市街地全体を参加者がぶらぶら歩いて観光するというイベントです。

このように、全国各地で新しいイベントが創設されていますが、佐々木一成によりますと、これらの事例に共通するのは、以下の4点です。

1)新たな施設整備が不要で、既存資源を活かし、知恵と工夫のソフト面で集客に成功していること

2)企画・運営を住民やNPO等の地域サイドで主導していること

3)見るだけではなく、参加交流型であること

4)ルールや参加方法が簡単で、外国人の参加が容易であるということ

このようないわばベンチャー型・草の根型とでもいうべきイベントや祭りが日本でも増えつつあります。地域映画祭もまた、これらの特徴を有しています。

1)映画の上映には新たな施設整備は不要であり、スクリーンと上映装置があれば、映画祭の開催場所は限定されません。ハコモノではなく、適切なテーマを設定し、適切な映画作品のプログラミングが行われれば、ソフト面での集客が見込まれます。

2)映画祭の企画・運営は通常、住民の有志や地域レベルの単位で行われています。

3)映画祭には映画監督や映画俳優などの映画制作者と観客との交流の場が設けられていることが多く、参加者の交流が行われます。

4)映画祭に参加するためには特にルールはなく、最小限、映画を鑑賞することができれば、映画祭に参加することは非常に容易です。そして、映画は映像で物語を表現するため、言語能力によるハンディキャップが比較的少ないほか、国際映画祭では、英語版の字幕が用意されていることが多いため、外国人の参加も容易です。

映画祭はその地域の歴史や生活文化に束縛されることが少なく、新しいイベントとして比較的容易に創出することが可能です。そのため、地域映画祭は増加しつつあるベンチャー型・草の根型の祭りの一類型として捉えることができます。

映画の上映は難しくない

五つめは映像ソフトのデジタル化と上映機器の発達により、映画作品の上映が容易になったという理由があげられます。従来、映画の上映を行う場合には、フィルムと映写装置と映写技師という相応の設備と人材が必要不可欠であり、容易に映画を上映することはできませんでした。

しかし、映像ソフトのデジタル化とプロジェクターなどの上映機器の発達によって、現在は映画を上映するという目的を達成するためには、フィルムやフィルム映写機は必要ありません。そのため、より手軽に映画を上映することが可能となり、映画祭の開催も身近なものとなりました。

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