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こなすように映画レビューを投げて週間連続を維持しようとしていく試み

 「真昼の決闘」(☆☆☆☆☆)
 二十年近く振り、レストア盤を見返しました。細かい理窟も背景も排して、現代において観劇しても色あせていない。棒読みの演技、パルプすれすれというよりも、現代を舞台にして作るとパルプになるかせいぜいがDC作品にでもするしかない筋立ては、シンプルで力強い。整理された脚本がリアルタイムの時間経過の進行感とあいまって楽しく、ディミトリ・ティオムキンの音楽も素晴らしい。なによりもさんざん最新技術がどうたらとかいうアクションを見慣れていても、アクション・シーンにちゃんと迫力を感じるんですよね。

 前回の記事で十本レビューして、DVDでハズレばっかり引き続けていて当たりに逃げたわけですね、これ(笑)。当たり屋である。「七人の侍」は日本的集団主義の映画、こっちは個人主義の映画といえよう。

 「8 Mile」(☆☆☆☆)
 ちょいといろいろと行きがかりといおうか、なんといおうか、なんだっけ、インド映画の「ガリーボーイ」――あれのあとにコッチを観てしまって御免なさい、と謝っておくべきだろう(笑)。あっちはインドの風物もまじえている強さはあったろうが、サクセスストーリーの紋切り型にはまってしまっている。コッチはステレオ・タイプを良しとしないセンス――それはそのままラップのセンスともある程度重なり合うのであろうが――で映画を作れている。エミネムはじめ演技になっており、主人公が窮迫されてゆく様子もよく捉えられている。かといってHIPHOPのセンスってなにか、っていえばギャングみたいなことではなく、随所に垣間見られる自らがやくざ者であると自覚しているがゆえこそ出てくる繊細さが面白い。

 「ジョナ・ヘックス」(☆☆☆☆)
 安定の四とさせていただく。思い切って冒頭に設定の解説をしてしまうことで八十分の尺におさめている点、下駄を履かせていない点は好印象。下駄を履かせていないというのはつまり……(主人公の好演もあいまって)かなり濃密なハードボイルド風の世界観のおかげで、漫画原作由来の荒唐無稽な部分にあまり付き合ってやらずに済むということ。まあ楽しけりゃ思いっきりバカバカしくってもいいわけですが(そんくらいの寛大さでDC作品には基本、四をつけています)。

 「シュリ」(☆☆☆☆)
 この映画の場合、アクション映画にありがちの大量破壊兵器の設定は下駄を履かせているというよりは筋立てを整理するのに役立っている。げんに非常に整理されたテンポで物語が進んで行き、話が進めば進むほどに愕然とさせられるある洗練さがみられるのである。主演男優の演技や細部について問題なしとはしないが、南北分断のモチーフの象徴性、韓国映画産業のメルクマール的作品であることをもって5をつけておきたいか(結局よっつにするのだがなんでよっつなのか、と訊かれると困る。かもしれない)。

 「アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン」(☆☆☆☆)
 本来☆はみっつにするつもりであったのだけれども(狭義の映画の範疇には入らないものはそうしている)、ミュージック・ビデオとしての価値を超えたものがあり、つまりはアレサ・フランクリンのことをなにも知らないひとであっても、十分に楽しめる最低限の作りと、ビデオとしての純粋な面白さを有している。ゴスペルという枠組みからはみ出た、どうにも普遍的としかいいようのない声の周波数があり、そしてまた普遍的なコードのごときものがあるとしか思われない――ひとまず(どちらがいい悪いではなしに)客層を限定した「アメリカン・ユートピア」とは対照的に、だれでも観に行って楽しめるのであったから、そう考えても例外的に☆一つを足してしまうのは理に適っているだろう。

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いわき市映画館にて観劇。

 「トゥルーノース」については☆5評価済みで再見なのだけれど、☆5で合っていたろうか、どうであったか、と思いながら観てもやはり良かった。陰惨な部分だけではなく、陰惨な環境のなかでもこんなことがあった、あんなことがあった、としっかりと膨らみを持たせた上で、一人の人間として告発をしている――そっちのほうが、陰惨な部分だけを突きつけるのよりもよほど強力だし、作り手を誠実だと思える。それと語弊があるのだけれども、最高の意味で「エンターテイメント」として見せる技術に徹している点にうちひしがれる、本当に客観的に作り出す、ということは娯楽として、見世物として作る、というそこの部分を押さえているから惚れ惚れとさせられるのだとおもう――そしてその娯楽の世界、アニメの世界のあとで、エンドロールのあれが流れはじめる。終わりかたも格好いいんだよな……世界にとっては綺麗事の終わり方ではあるかもしれなくても、作り手にとってはけしてそうではない、と高らかに言っている。それが格好いい。


静かに本を読みたいとおもっており、家にネット環境はありません。が、このnoteについては今後も更新していく予定です。どうぞ宜しくお願いいたします。