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不器用な私を奮い立たせる恩師の言葉

不器用だけど、向上心だけは人一倍強かった20代の頃。
初めて就職した会社は残業がほとんどなかったので、国際秘書養成スクールの夜間コースに通っていました。

通訳、翻訳、英文簿記など専門的な技能を身につけていくのですが、その中で特に苦労したのが英文速記です。
速記文字はオタマジャクシやミミズのような形状で、それを文字として識別するのがとても難しく感じました。
こんなやつです。↓
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%9F%E8%A8%98#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Eclectic_shorthand_by_cross.png


この速記の厄介なところは、個々のアルファベットに対応する速記文字があるのに、別途”Thank you.”などフレーズの速記文字も存在することです。実践では便利なのかもしれませんが、授業についていくのがやっとだった私にはチンプンカンプン。
読み方を覚えるのも大変なのに、相手の話を聞きとりながらミミズ文字に変換できる日が来るとは到底思えませんでした。

授業中、ついに覚える意欲を無くした私と数人のクラスメートが
「全然、覚えられません」「難しいー」とグチり始めました。
担当の先生は初老の男性で、普段は冗談を言って私たちを笑わせる面白い人でした。
でも、その時だけはしばらく黙った後、たったひと言
やってるうちに上手くなる」と言ったのです。

それ以来、先生は私たちが難しいと言うたびに、合言葉のように「やってるうちに上手くなる」とだけ返すようになりました。

正直言うと、当時の私は「今できないから困ってるのに」と面白くありませんでした。
まさか、その後もずっと、この言葉に救われることになろうとは知る由もなく。


卒業後、私はいくつかの会社を転々としました。
同じ業界でも会社独自のルールがあり、A社の常識はB社の非常識といった感じで毎回一から覚えなければなりませんでした。中には前任者からの引き継ぎが一切ない状態で簡単なマニュアルだけ渡されたことも。


ストレスで胃がキリキリしそうな時、決まって思い出すのが「やってるうちに上手くなる」でした。本心からそう思えなくても、呪文のように唱えているうちに気持ちが落ち着いてきたのです。

落ち込むたびにこの言葉を唱え続けて、ふと気づいた時にはすっかり慣れていたというパターンの繰り返し。
本当にどれだけ救われたか分かりません。

あの時に教わった簿記や速記は一度も実践で使うチャンスがなかったので、卒業後しばらくは時間とお金を投資した甲斐がなかったと感じていました。


でも、この言葉に出会えたことを思えば、難解な速記に挑んだ時間もムダではなかったと思えます。

今後も私は壁にぶつかるたびに「やってるうちに上手くなる」と唱えて乗り越えていくことでしょう。あの時の先生の穏やかな表情と声を思い出しながら。


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