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赤沼俊幸 短編小説集

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私、赤沼俊幸が以前書いた短編小説を発表します。
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記事一覧

【小説】地下鉄での出来事

最後に完成させた小説。確か、25歳ぐらいに書き終えた小説。この小説の完成を機会に、小説を書くことから離れたんだと思います。偉大な先人の小説家と比べると、自分の作品の拙さがわかりますよね。しかし、拙さを感じつつも、努力できる人間が小説家になれたのかもしれません。僕にはそれができませんでした。ただ、30代後半の今、読み返してもこの小説は悪くないのではないか、とも思いました。(約17,580文字) ---  果美(かみ)はいつも地下鉄の先頭車両に乗る。  理由は二つ。一つ目は運

【小説】対の墜

おそらく、小説としては二番目、全体としては三番目に完成した小説。こういうことばかり考えている大学生でした。(約5,900文字) ---                                        隣に女が座った。横目で女を見た。図書館の天窓から照らされる夕陽の強い逆光によって、顔は確認できなかったが、ゴシック体で書かれているタイトルだけは確認できた。相対性理論。  女は僕に話し掛けてきた。何を勉強してるの?  僕は横に積み上げている三冊のタイトルを順々に見

【小説】言葉の革命家

たしか20代前半に書いた小説。その時、普段から考えていたことを小説にしました。レイモンド・カーヴァーの「大聖堂」にいたく感動して、それを意識していたように思います。(約8100文字) (1)言葉の革命家  私は感じたことをこの小説という表現形式を使って書く。  私はあるきっかけから、言葉の革命家になった。言葉の革命家の仕事は、言葉を言葉の意味から解放してあげることだった。言葉の解放家ともいえるかもしれない。  物が、物として存在することに否定する人たちがいる。例えば音楽の分

【小説】豚足夫婦

昔、小説家の町田康が大好きで、それに完全に影響された小説を書きました。何か誤字などありましたら、ご指摘ください。すべてが誤字みたいな小説ですが…(約1万文字) ---  金が無くて暇なもんだから、ヒゲモジャのおじちゃんから東スポを三十円で買って、三行広告の求人欄に目がいったんだよね、そこに書いてある、『即金モデル十八~三十歳迄♂五万~・ガッシリ・筋肉質・体育会系・爽やか・美系・坊主・各特優遇 当日撮影可。ブシツパラダイス』ってのに電話してみようと思ったわけで、俺はポケット

【小説】夜空に夢を

二番目に完成したボリュームのある小説。ボリュームのあるものとしては初めて。元となる自作詩があり、それを発展させて書きました。確か、18、19歳ぐらいに書いた小説だったと思います。何か誤字などありましたら、ご指摘ください。(約18,134文字) --- 音のしない部屋で一人、ぼくは工作に励んでいた。 「おかあさん、ハサミない」 ペンギンとゴリラさんのシールが貼ってある四段の引き出しを次々と開けた。一番上は薬、二番目はインク、三番目はプラスチック、四番目はお母さんの匂い。  

【小説】ダークサイド

文中にもあるように、22歳以降に書いた小説であると思う。今読むと古い箇所もあるが、その時の時代感も残しておく。 --- 「始めまして、こんばんは」 パソコン画面右下のスカイプのポップアップウィンドウが顔を出す。その日は珍しく、日本の人から話しかけられた。しかも女性だった。僕はメッセージを返した。「こんばんは、始めまして」 「東京にすんでいる20歳の大学生にございます」 僕は嬉しくなった。スカイプの自己紹介欄には『東京の友達がほしい』というように書いていた。その自己紹介欄に

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【童話】さかあがり

確か初めて完成させることができた小説。書いたのは大学生ぐらいの頃。……ただ、小説といえるような内容ではないので、童話ということにしています。 --- 「それでは、みなさん。次はさかあがりをしてもらいましょう。じゃあ、スポーツが得意なしょうたくん。見本を見せてもらえますか」 「……先生、おなか痛いです」 「……しょうがないわね、そう。じゃあ、かずまくん。かわりに見本を見せてもらえますか」  かずまはくるりと、さかあがりをした。てつぼうを降りたかずまは、しょうたのほうを見て、