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吾輩は猫でR-丁寧な言葉-

またもこんな夜中になって、
「ごめーん、みいちゃんお願い♪」と、ご主人が吾輩に猫撫で声を出す。
猫でもないくせに。

誰かにものを頼む時、人間は異様なまでに可愛くなる。
まさに虚構、演技の世界だ。
ただ、演技だと分かっていても、その可愛さにまんまと負けてしまうのが、男のサガ。

吾輩はこう見えても一応、メスだがな。

******

人間世界には「丁寧な言葉」と「そうでない言葉」があるらしい。
我輩としては、どちらだろうが相手に用件が伝わればそれでいいと思うのだが、人間社会、特にこの日本という国においては、目上目下といった社会の上下関係によって使う言葉も変わってくるという。

「社長、どうぞ召し上がってください」(特上)
「それでは社員の皆さんもお食べください」(上)
「みいちゃん、食べて」(並)
「いいから食えよ」(ランク外)

とまあ、こんな具合だ。
ちなみに
「お召し上がりになってください」
という言い方は二重ナントカといってあまり良くないらしいが、まあそんなことは、吾輩の知ったことではない。

猫社会はわかりやすいものだ。
「ニャア」→「お腹すいた」
「ニャア」→「喉が渇いた」
「ニャア」→「遊んでくれ」
こんな具合だ。

ご主人の元秘書M氏は我輩のライバルでもあるのだが、彼は「丁寧な言葉」を使うのが得意らしい。
ウマイものを食べると、両手を合わせて
「美味しゅうございました」
ご主人が疲れていると、いたわるように
「お疲れのご様子で」
クライアントに電話をかけるときは、
「お忙しいところ恐れ入りますが」

なるほど。
「お」をつけると丁寧な言葉になるわけだな。
猫Mにもそのくらいのことはわかる。
寝たふりをしながら、いつだって人間社会を観察しているのだから。
我輩も駅前留学(人間語コース)してみることにしよう。

今日のレッスンは「丁寧な言葉遣い」だ。

「今日は暑いな」→「今日はオアツイな」
「私に一個頂戴」→「私にオイッコ頂戴」
「同じ釜の飯を食う」→「同じオカマの飯を食う」

よし。今日のところはこれくらいにしておこう。

丁寧な人間語を流暢に話す吾輩に、目を丸くして驚くご主人の顔を見るのが楽しみだ。

(2016年6月作)

みいちゃんその寝方!


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