現実と空想と内心を混ぜてよくわからないものを錬成します

現実と空想と内心を混ぜてよくわからないものを錬成します

最近の記事

春眠

春になると思い出すのが目黒川の桜だ。夜を埋め尽くすむせ返るような桜並木のなか、深夜、暗闇の一歩先を確かめながら進むように一緒に歩いた相手を思い出す。 わたしが夜の公園が好きだというと、その人は、なんでそんなに自分と君は似てるんだ、とぼやいた。その人とは大学で出会ったが、別に特に何の名前もない関係だ。でもそういうさよならすら言わないような相手に限って、何年も経ってなんとなく思い出しもする。 今はもう解体されたらしい段々になっている大教室は、その頃はまだ古めの棟の5階にあって

    • 「魂の殺人」されても生きていかなきゃならんのよ

      ※この記事はもう本当にずっと以前に、怒れる元気は出てきたがまだ気持ちの整理がついていない頃にそれこそ嘔吐に近い形で書いたものです。犯罪被害者の怒りや絶望的なもの敢えてそのまま載せますので、気分悪くしたらごめんなさい。ただこんな気持ちになるんだということを記録しておきたいだけで他意はないです。 —— 社会契約という考え方がある。とてつもなくざっくりいうと我々は社会に守ってもらう代わりにルールや法にみんなで従うことになったという考え。 でもじゃあ社会が守ってくれなかったとき、

      • 無題

        やっぱり日本人だから、心のどこかでこの国のことを信じていたんだ、この国を愛したいと思ってたんだ、って、速報を見た瞬間にそう思った。 同性婚の否定に対して札幌地裁が違憲判決。 もちろん地裁の判断なので、異性婚と同じように同性婚が認められるまでの道のりはきっと長い。でももう手が震えちゃって、仕事終わったらワインなんか買っちゃって、判決文全部読んで泣いて、とっさに一番近しくて、レインボープライドでもよく会っていた相手に連絡した。 「さすが法学部だね。ねぇこれってこれからどうな

        • ハナムケ

          (※ どうせスマホ持ってないし、そもそもnoteとか知らないだろうし、貴方がこれをみるのはずいぶん先になるか、もしかしたら一生見ないかもしれません。それでも、お手紙の代わりこれについて書いていいですかと言って、まぁいいよ、と言ってくれた先輩に捧ぐ) 「現代社会に今生の別れなんてないの知ってるんですけど、それでも、わたしもう23になるんで、こんな子供じみたことは言えないんですけど、本当は、お腹の底のどこかでは、本当にいなくなるのかぁって思っちゃうところもあります」 なんて、

          怒りと期待と確信の関係

          期待してない場面で人は怒らない。これはわりと正しいことだと思う。怒らない人は優しいのではなく他人に期待していないだけだという文章を読んで、そうだよね、と思った。つまり期待したものが与えられないから相手に怒りをぶつけられるのであって、そもそも期待していなかったら失望も怒りもないのだ。 私はあんまり人に怒らないよね、とか、嫌いな人いないでしょ、といわれるほうで、それはわりとこれに当てはまると思う。知らない人に冷たくされても気にしないし、知り合いに2時間遅刻された時も映画館で映画

          怒りと期待と確信の関係

          噛みながら

          皮膚の奥まで走る鈍い痛みで真夜中から目を覚ました。枕を抱くようにしてうつ伏せに寝ていた私の背中からあいつがゆっくりと顔をあげるのが重みでわかり、顔にかかるくらい長い前髪が腰の裏に当たって傷口をくすぐった。じんじんと痛いその場所をひんやりとした指先が凹凸を確かめるみたいに撫でていた。うめき声を上げながら後ろ手にさらさらした丸い頭を押しのけようとすると、おもちゃの如き歯が悪びれもせずふたたび刺さる。 こいつはいつもそうだった。 ずる賢い顔した小型の肉食恐竜に身体中を半端に齧ら

          噛みながら

          魔力

          魔力というものをわりと信じている。魔法とはまた違くて、人間の根底に眠る深い河とか善の研究でいう神にあたる世界の秩序が人生に何かしらの影響をもたらしてると思うし、その一部を一部の人に(無意識にでも)使える人間はいると思う。指という指まで一縷の黒目の動きで縫い付けてくる人間の魔力というものをわりと信じている。マーク・トウェインの小説に出てくるサタンという名の少年みたいに。 心臓が凍るような、血液が泡立つような、かと言って微笑まれると脳みそが生温かな液体になってぬるぬると滑り出て

          魔力

          いつかどこかで

          大人が、嫌い。そう、大人が嫌いなんだ。  人に言わせれば中二病、それかピーターパン症候群もどき、みたいな。または思春期によくある、みたいな。そんな感じなのかもしれないが。  理由なんて聞かれたって説明できない。世間の言う説明なんて言うのは、数字やデータを並べないといけないのだもの。大人を嫌いなことに関して、そんなものは用意できない。「客観的」っていうのかな。大人は好きだよね。「客観的」。だから大人がよく嘘をつくこと、理不尽に怒ること、子どもを小さな大人だと思って、同じルー

          いつかどこかで

          吐くように

          小さい頃から文章を書くのが好きだった。それはもう何かどこか衝動的で、例えるならばゲロを吐くのにかなり似ている。 むらむらと胸が気持ち悪くなって、泣きたいような怒りたいような気持ちになって、そうするとちょっと苦い文章が、わっと出てくる。形にせずにはいられない。ワクワクするような文章もそうで、いてもたってもいられなくなって、何かを発散するように、憑かれたように文字を並べていく。そしてちょっとすっきりする。きっと溜めすぎると良くない。そんな人は文章を趣味で書いている人には、少なく

          吐くように

          プリマドンナ

          iPhoneに入ったどのミュージックも腹立たしかった。君が僕のもののまま死んでいかないのが腹立たしかった。生暖かい涙と鼻水を、拭いてしまうのも嘘くさくて嫌だった。 公園の電気はきちんと付いていて、たまには車が横を通って、こんな時でさえ世界は眠らなくて、黙らなくて嫌だった。「黙れよ、世界。うるせぇよ」って。そんなダッサい自分も、もう全部全部嫌だった。 自転車漕いで夕暮れの寒い河辺でふたり、だらだらしてひゃーひゃー言いながら帰ったあと。僕は夜中ぎんぎらぎんに冴えた目をかっぴら

          プリマドンナ

          捕まえた

          『夜空に金平糖を撒いておいたから、2人で食べない?』 そんなゲロが出そうなくらい甘い言葉の小説の、ページの右上をこっそり折っていた17歳のわたしを20歳の私が捕まえた。 3年前と同じページに指が届いて、でもセリフは心の違う部分に響いて、にやり、苦笑いが溢れる。 しかし。すっかりニヒルぶった私に、17のわたしは化粧もしない顔でしれっとこう言う。 「20の夏に、無料のチケット2枚あるから、なんてベタなセリフでピューロランドに誘われてときめいちゃった君も君だよ」 首根っこが

          捕まえた

          夜中の鼓動

          うまくいかなかった日の真夜中、まぁつまりほとんど毎晩、冷たいアイスティーを淹れて、その中に牛乳も入れてベランダに出る。 そうして信号を眺めるのが好きになったのはいつからだろう。 誰もいない街はジオラマみたいで、無人の道でせっせと色を変える信号機はなんとなく心臓に似ている。 味のない毎日をひたすら噛み続けて、自分というものが腐っていくのがわかる。 でも時間の脈を感じながら、直線に支配された目下の街を睫毛を伏せて見下ろすと、乾いて固くなったパンみたいな気持ちも、ゆらりゆら

          夜中の鼓動

          秘密基地

          だだっ広い校舎の横の体育館と塀の間にはひとつ、ぽかんと寂れた車庫のようなものが放置されていた。 錆びかけたトタン板で作られただけのその空間。地面は隅に雑草の生えた、不恰好なブロックだ。 そこが心地良さそうな巣だと知ったのは、つい数日前のことだった。 「黙っててね」 「え?」 「ここのこと」 カップの中のティーバッグを揺らして、この巣の主が湯気の立つ薄い紅茶をすする。雨がトタン板を打つ音が、ぱちぱちと響いている。 「うん」 うちつけに返事して、私もティーバッグを

          秘密基地

          好きなもの

          目玉焼き、朝、濃いめの紅茶。薄く巻けた卵焼き、キャラメルポップコーン、霧、チェス、古い絵はがき、きれいな服。早くお風呂に入ったあとの午後、アイスティー、アイスカフェオレ、柔らかい布団、泣きぼくろ。 目の中のほくろ、白い肌、マジックアワー、朝焼け夕焼け、早朝。夜中の信号、古本、古本屋、インクの香り、消毒液のにおい、保健室。石油ストーブのにおい、乾いた床に太めのヒールが立てる音、鉛筆のにおい、鉛筆が描くときに立てる音。ベロアの生地、虹彩、まつげ、すだれまつげ、唇。流し目。濃いけ

          好きなもの

          YOU CAN  FLY

          飛行機は好きだ。夜の飛行機は特に好きだ。大きな大きな白い翼。それにそっと乗る小さな僕。 ふわり、と夜飛ぶ飛行機。夜間飛行。ぐんぐん陸が離れる。それにつれ冷える、アクリル板の分厚い窓に手をついて、下を見る。なんとなく勿体なくて、息を止めた。 砂金の撒かれた海底のように、黒い夜に街の光の砂が浮かぶ。この時間だけは、本当に、夢のように綺麗だ。ここで、死ねたら。素直にそう思った。 目をこらすと、小さな光の粒が行ったり来たりしているのも見える。いつか顕微鏡で見た赤血球のよう。街は

          YOU CAN  FLY

          うたかた遊泳記

           川に飛び込んでみたい、と前々から思っていた。 とある洋画のラストシーンで、主人公が携帯を噴水に投げ捨てたみたいに。 それかとある小説の冒頭で、主人公が自分の部屋のものを何ひとつ残さず捨て去ってしまったみたいに、日常の何もかもを放り出して自由になってみたいと思っていた。 季節は夏。 目に映る全てを焼き尽くそうとしているかのように、太陽がじりじり辺りをねめ回すこの季節。日が暮れてからも、闇はまだずしりと熱気を抱きかかえ、大人しくしていても玉のような汗が首筋を伝う。 四ツ谷か

          うたかた遊泳記