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息をするように本を読む110〜「亜人」桜井画門〜

 私は本を読むのが好きだ。
 それは一般書籍ばかりではない。
 漫画も大好き。

 noteで漫画の感想文を書くのは2回目。
 前に書いたのは漆原友紀さんの「蟲師」だった。

 この「亜人」は少し前に、次女がポイントを使えば無料で読めるアプリがあるとかで(このへんのことは私には全くわからないのだけれど)、毎日少しずつネットで読んでいた。
 
 ある日、自宅に届いた重たい段ボール箱に驚く。
 どハマりした次女が、ついに某密林書店で全17巻を大人買いしたのだ。

「もうねえ、めっちゃ面白いから。絶対読んでみてー」
 次女の熱い推しに文字通り押されて、読み始めた。
 結論から言うと……。
 確かにめっちゃ面白い。

 物語に登場する「亜人」とは、簡単に言うと死なない人間のこと。
 「亜」には、次ぐとか、準ずるとか、2番目とかいう意味があるので、死なない、という特殊な能力(?)が加算された人間を「亜人」と呼ぶのはちょっと相応しくないように私には思えるのだけど。
 それはさておき。
 死なないからといって、それだけで無敵、というわけでは全くない。
 亜人も、死ぬときは死ぬのだ。ただ、死んだその瞬間から身体が急速に復旧し始め、全ての欠損を補修し、死ぬ前の状態に戻る、それだけのこと。
 だから、最初からマイク・タイソンみたいな身体能力の持ち主でもない限り、亜人だからといって必ずしも最強なわけではない。

 亜人が最初に発見、というか、その存在が認知されたのは、アフリカの紛争地でのこと。
 どうやっても死なない「神の兵」がいると噂が流れ、彼は研究対象としてアメリカに送られる。それから17年。
 世界で数十人、日本でも数人、その存在が確認され、公的機関の管理下に置かれている。
 が、とにかく一度死ななければ本人でさえ亜人とはわからないのだから、もしかしてもっといるのかも、しれない。
 
 国家的研究対象になる亜人を拿捕、もしくは通報すれば高額の報奨金が出るなどという噂がまことしやかに広まり、大多数の人々は亜人はあくまで人間である、ということを忘れ、檻から逃げ出した珍獣か猛獣のような認識をしているようだ。
 なにしろ、死んでみなければ亜人かどうかは誰にもわからないのだ。もしかしたら、自分や自分の家族が亜人になって追われる立場になるかもしれないのに、そこには誰も思い至らない。

 主人公は永井圭という高校生。
 恐ろしく頭が切れる。何事にも醒めていて、冷たく利己的、何を考えているのかわからない。
 私の第一印象は最悪。
 母親と病弱な妹と3人暮らし。
 この妹はとてもいい子のようだけど、母親は、うーん、どうなんだろう、圭を見てから彼女を見ると、あー、なるほど、似たもの親子、という感じがする。
 
 心の中では見下している周囲に適当に合わせつつ、医学部に入って医者になるべく日々受験勉強に勤しんでいた圭は、ある日トラックに跳ねられて死亡する。
 そして展開的には、まあ、さもありなんという感じだけど、死亡したはずの圭は、大勢の見ている前で生き返る。そう、圭は亜人だったのだ。
 そのことを自覚した圭は、さすがにパニックになる。
 
 利用価値のある亜人には高額懸賞金がかけられている。
 政府の管理下に置かれた亜人は人間扱いをされない、というか、実験用のラットとして何をされるかわからない。
 
 そんな噂(そして、それらは結構当たっていたことは後からわかるのだけど)を聞いていた圭は捕まることを恐れ、そのままその場から逃げ出した。

 冒頭数十ページで凄まじい疾走感。
 息をもつかせぬ場面の連続。
 
 そして、その後はお決まりの、亜人を人扱いしない、利用することだけを考えている非道な人間たちと亜人との闘いが始まるのか、と思っていたら、いきなりのとんでもないキャラの乱入で、うわ、これは一体どういうこと?のあり得ない展開。
 まずい。止められない。
 このままでは、一気読みしてしまう。

 とりあえず、洗濯物を干して、買い物に行かな。
 そうや、あれも、これもせんと。
 忘れとったー。用事、山積みやんか。
 
 …断腸の思いで、一時中断。

 後日、諸事万端準備をちゃんと整えて、再度、続きのページを開く。

 基本的に、登場人物にロクなやつがいない。
 どいつもこいつも、とんでもない。
 おいおい、ちょっと待て、みたいな人間(?)ばかり。
 そして、ページは延々とドンパチドンパチの連続。それだけならまだいい。亜人の、死んでもすぐに生き返るという技を利用する戦法がそこここで存分に行使されているため、画面が汚い、エグい。(そんな場面ばっかりではないけど)
 でも、ページをめくる手が、止まらない。

 とにかく、セリフ回しが上手い。
 ここぞというシーンでの、登場人物の決めの言葉がやたらかっこいい。
 高らかに言い放たれるものもあるし、ボソッとつぶやかれるものもある。
 
 そして、それぞれの登場人物、主人公や主要キャラだけでなく、数ページしか出てこない人物であっても、そのちょっとした言葉や行動でその人の過去や背景、ディテール、っていうのかな、それが垣間見える。
 その見える按配がくどくなくて、想像をかき立てるのにちょうどいい頃合いなのだ。
 
 そのディテールに、読み手は完全に翻弄される。
 何やねん、こいつ、本当にとんでもないやつやん、と思っていたキャラクターに対する気持ちが突然にひっくり返され、嫌悪しかなかったはずなのに、なぜか応援したくなったり。
 かと思えば、いやー、やっぱり、〇〇はええわー、ずっとそうやと思ててん、と言う場合ももちろんある。

 そして最後に思うのが、信念と矜持を持った人間の生き様のカッコ良さよ、これに尽きる。そしてそれは、世間一般で言われる正義不正義の範疇では語れない。

 いやー、面白かった。

 本を読むことは私には特別のことではない。生活の一部であり、呼吸することと同じことだ。

 本って言ったって漫画ではないか、と思われる方もおられるかもしれないが、私は、よく出来た漫画は、ストーリー展開、セリフ、キャラクター、世界観、全てにおいていわゆる普通の小説に勝るとも劣らないと思っている。
 確かに、漫画には文体の妙、というのはないかもしれないが、そのかわりに、コマ割りというか、カットというか、絵の見せ方という武器がある。
 そのあたりは、映画にも似ているのかもしれない。

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#漫画 #とんでもアクション


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