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同窓会に来たがらないO先生(白ちゃんへのお礼状)

白ちゃん。サポートありがとう。とても嬉しかったです。

以前に心の広いnoterさん・あおはるおじさんの企画「ネタ供養」に参加して、無理矢理いただいたのが初めてもらったサポートでした。

その次に、いきなり私の記事にサポートをくれたのが白ちゃんでした。

彼はこんな人。

中学校の国語教師で、俳句を趣味にしている人。

彼からの突然のサポートは、昔書いた記事へのものだったので、予想もしておらず、驚きました。

何かお礼をしたいと思ったけど、絵も描けない、歌を歌うことも出来ない私には書くしかできません。

だから、お礼の手紙を書きます。

白ちゃんは学校の先生だから、今日のお手紙には私の高校時代の担任の先生について書こうかな。

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高校の3年間、ずっと担任教師が変わらなかった。
クラス替えしても担任の先生は同じ。
そんな生徒はその学年でも私だけだった。

O先生は20代半ばの日本史担当の男性教師。
有名な大学を出ている秀才らしかったけど、そんなことを顔にも出さない少しシャイな先生だった。

日本史の授業だけは大好きだった私。
先生に指名されるよう授業中に彼をガン見したり、必要ないことを質問したりして授業を楽しんだ。

実は、先生にまつわる不思議な思い出がある。
先生は入学したての1年生の私たちクラス全員に映画を見せてくれたことがあった。

「ひまわり」というソフィアローレン主演の映画だった。

とてもオトナで、悲しくて、すてきな映画だった。

だが、授業時間を使ってまでなぜそんなシブい映画を生徒に見せたのか、O先生の意図がわからない。

当時20代半ばという若い先生が、そこそこの進学校だった高校で2コマの授業を潰して映画を見せてくれたことが印象に残った。


時は流れ、私は風の便りにO先生がいつしか教師を辞めて映画会社に就職した、と聞いた。

私は映画「ひまわり」のことを思い出した。


それからさらに年月がたったある正月に、ホテルで大規模な高校の同窓会が行われることになった。

その準備段階で誰かが教えてくれた。

先生はしばらく前に教職に復活していたらしかった。

そして、元O先生の教え子で同窓会幹事が、O先生に同窓会への参加をお願いしたのだが、「イヤだ」と言われて断られたという。

「イヤ」だ?

都合が悪い、身体の調子が悪いなどの理由ではない。

「イヤ」なのだ。

なんで? 


結局その同窓会は、O先生以外の他の多くの先生と元生徒たちで賑わい、無事終了した。


さらにその数年後、地元に帰っていた私に連絡が入る。


高校3年生のときのクラス会にO先生がイヤイヤ参加してくれることになったので、ぜひおいで。


なんだこれは。

O先生、まだそんなこと言ってる。

でも、参加してくれるんだ。

よし、先生に会いに行こう。

私は先生に聞きたいことが2つあった。

どうして同窓会にくるのがイヤなのか。

あのときどうして映画「ひまわり」を見せてくれたのか。


当日、先生はあっけないほどあっさりとそこにいた。


誰よりも先に会場にやって来て、その片隅でクラス会幹事のA君と一緒に卒業アルバムを見ながら、クラスの生徒の顔を思い出そうとしていた。

「おお、白」

懐かしそうに言って私を迎えてくれた。


皆が集まったとき、先生は告白した。


どうして同窓会やクラス会に参加するのがイヤだったのかを。




先生は映画が大好きだった。

教師になってもその映画好きは変わらなかった。

その気持ちが高じて、私たちが高校を卒業した数年後、映画会社に転職することを決断したのだ。

せっかくの教師の職を捨てる自分。

生徒たちに申し訳ない気持ちもあった。

だから、けじめをつけるために、持っていた教え子たちが載っている卒業アルバムを全部捨てた。

ところが、就職した映画会社では、映画の中身とは全く関係の無い売り込み営業を担当することになった。

それはシャイな彼の性格ではとても難しい作業だった。

(そんなこと下調べもせずに転職したのか、と私は思ったけれど)

落ち込んだO先生は映画の仕事を諦めて、ふたたび教師に戻った。

先生はそんな自分を恥じた。

卒業アルバムを全部捨てたあの決心を翻し、また教職に戻った自分には、捨てたアルバムに載っていた生徒たちに会わせる顔がないと思っていた。


だから、ずっと同窓会を拒否していたそうだ。

O先生は恥ずかしそうにそう話してくれた。


これで先生は自ら私の一つ目の質問に答えてくれていた。


そこで私はもう一つの質問をO先生にしてみた。

どうして私たちに「ひまわり」の映画を見せてくれたのか。
映画の大好きな先生は、その映画で何かを伝えたかったのか。
どうやってそんな授業をすることを学校に認めてもらったのか。


先生の言葉は意外すぎた。


「さぁ。覚えてないなぁ」


「・・・・・・・・・」(私、絶句)


もうちょっとマシな答えはなかったですかね、先生。


さっきまで小説のような良い感じでハナシが進行してましたけど!


O先生は本当に情けない顔をして、気弱に笑って首を振った。

拍子抜けした私を含めて、その場の全員が笑ってしまった。


クラス会の終わりに、嫌がる先生と無理矢理全員で写真を撮った。

「じゃ、先生。また来年も集まりましょうよ」

別れ際に幹事のA君が先生に言うと、

「勘弁してくれよ・・・」

先生がますます困ったような顔をするので、またみんなで笑った。


今見るとあの時の写真には、嫌がったわりに幸せそうに微笑むO先生がいる。

再会してよかった。


教室にいる生徒は、なんだかんだいいながらも、たった一人の人物に注目している。

それは先生。


学校の先生は聖職だって言うけど、教師である前に一人の人間だ。


O先生は頭はいいのに、優しくて、気弱で、失敗もするし、後悔もする正直な人だった。


そして白ちゃんも中学校の国語教師だ。


教室の一角から、本を読むのが好きで、漢字が好きで、文章を書くのが好きな生徒が、ガン見しているかもしれないよ。


素敵な教師人生を送ってください。