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小説『君たちはどう生きるか』は何を語っているのか2/3 #14

吉野源三郎の小説『君たちはどう生きるか』の根底のテーマについて、私なりの解釈でご紹介しています。
本記事は第1回の続きです。

人は心に弱さを抱えている

人は心に弱さを抱えているものです。
ですから、お互いに好意を尽くし合わなければならないとどんなに心で感じていても、いつでもそのようにすることができるわけではありません。
自分の友人が誰かの悪口を言っていたら、一緒になって悪口を言ってしまうかもしれません。
誰かをからかっていたら、クスクスと笑ってしまうかもしれません。
誰かがいじめられていても、見て見ぬふりをしてしまうかもしれません。
良心をもっていながらも、心が弱い故にその良い心がけを生かしきれないことは、珍しいことではありません。
お互いに好意を尽くし合うということは、当然そうあるべきだと同時に、実現することの難しさもあるのです。

英雄的精神をもて

では、この心の弱さをどのように克服したらよいのでしょうか。
この物語でその鍵を握るのは「英雄的精神」です。
(ここからは精神論的な話になってしまいます。)
英雄的精神とは、「どんな困難な立場に立っても微塵も弱音を吐かず、どんな苦しい運命に出会っても挫けない、毅然たる精神」(P.192)と説明できます。
自分の周りの人たちが、常に理想的な振る舞いをしているとは限りません。
その中で、「良いこと」「正しいこと」を貫くことには、それなりの覚悟が要ります。
コペル君が言う、「すべての人がおたがいによい友達である世の中」を実現していくためには、ただ善良な心をもつだけでなく、英雄的精神をもつ勇気と覚悟が必要なのです。
善良な心と英雄的精神。どちらか一方だけではいけません。

まとめ

ここまで、この小説が伝えようとしているメッセージについて、私なりの解釈で説明してきました。
ここで、ここまでの話のポイントを整理したいと思います。

・全ての人は網目のようにつながっていて、自分自身にとってはかけがえのない存在である。
・本来人間はお互いに愛し合い、お互いに好意を尽くし合っていくべきものである。
・人は心に弱さを抱えている。だからこそ、「良いこと」「正しいこと」を貫こうとする英雄的精神をもたねばならない。

これらからコペル君が導き出した結論が、

僕は、すべての人がおたがいによい友だちであるような、そういう世の中が来なければいけないと思います。人類は今までに進歩して来たのですから、きっと今にそういう世の中に行きつくだろうと思います。そして僕は、それに役立つような人間になりたいと思います。

『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)P.298

です。
最後の「そして僕は、それに役立つような人間になりたいと思います。」の一文は、コペル君が英雄的精神をもとうとする決意表明として受け取れます。

(続く)

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