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パルデアの歴史⑦ 治水と果実のパルデア史 後編

オリーブを育むパルデアの水は「どこから」湧いてくるのか?

 前編では消えてしまった二つの果実についての仮説を述べたが、現代のパルデアにはまだオリーブが残されている。いまだ農業用水としても現役を維持する南部の大河にも一見ゲームにはあまり必要ではなさそうな治水設備が備えられており、様々な手が加えられている形跡がある。そしてそこには今もなお危うい河川と戦うパルデア人の姿が見えてくる。

 後編ではひとまず河川史をまとめるにあたり、最後には現実のイベリアと決定的に異なりながらスルーされがちな、パルデア各地の不可解な「自噴する水源」についても掘り下げていきたい。

南部パルデアの最大の川 上流〜下流

 パルデア最大の河川はセルクルタウンの西方の山から湧き出し、急流となってセルクルタウンの手前に落ちる。そこから二手に分かれてオリーブ畑を囲んで流れ、テーブルシティ手前で再び一つになる。テーブルシティ南を「お堀」のように流れ、巨大な水門を通り、東パルデア海へ流れ出す。以下仮称としてテーブル川と呼ぶ。

図. 南部パルデア超概略図(詳細はゲーム内のものを参照してください)

 他の河川と比べてもより分かりやすく大規模に治水の手が加えられており、重要な川であると同時に危険が大きいことがわかる。 また、この大河に関わる隠されたエピソードとして、主人公は「現代の四災」を未然に防いでいたらしい状況も描かれているようである。

パルデア最後の大農園を成立させる上流域

 その機能としては、まず上流にあたるセルクルタウンの治水とオリーブ農園の農業用水だろう広大な農園を維持するにはそれなりの水量が必要であり、天然のものか人工的なものかはわからないが二手に分かれることで、セルクルタウン周辺全域に水を行き渡らせる灌漑の形になっている。

 そしてその南側の水路については、河川敷のような地形が広く、水が溜まりやすいように見受けられる。また南パルデア海方面にかけてぱっと見経緯不明の水たまりが多く見受けられるが、これが増水時に南パルデア海に流れ出している痕跡であるとすれば、排水機能が果たされた結果の光景であることが推測できる。スペイン南部においても乾季が終わると度々洪水が起こることから、そういった描写であると思われる。

 また北側の川が決壊すると低地となっているセルクルタウン全域が沈みかねないため、南に逃すという洪水対策として理に適った構造であることを考えると、ある程度は人工的なものである可能性が大きい。そして、二つに分かれた川は再び一つとなってテーブルシティの「ダム」に注ぐ。南側の水路をそのまま海に流さないようにしているのは、テーブルシティにおける淡水需要のためではないか。(農薬混入が気になるが…)

テーブルを支える巨大ダムの中流域

 中流域のテーブルシティ周りには、見る度に圧倒されてしまう巨大な水溜りがある。橋無しでは入域できないテーブルシティをコライドンで走っているとそのアステカ王のような容姿と相まってテスココ湖上にあったアステカの王都テノチティトランを思い起こさせる。

 巨大な水門があり、取水施設までは描かれていないものの貯水が意図されている光景からほぼ間違いなくこれはダムであり、少なくともそれなりの水量の需要がテーブルシティにはあると考えられる。古代ローマのインスラのような高層建築物がひしめく市内の人口はデフォルメ分をさっぴいてもかなり多いものと思わることから、その水源と考えれば確かにリアルな規模である。堀としても十分に機能はすると思われるが、それだけのためであれば大き過ぎるし、そもそも今は戦乱期ではない。
 ただし以前にも言及した300年前のカロス王の一連の戦争に、ルイ14世のスペイン継承戦争に準えられる対パルデア戦争も含まれていたとするならば、籠城にはもってこいではある。

 また、ダムと考えるのであれば主人公が辿り着いた時点ではだいぶ壁面の岩肌が見えており、水深がわからないのでなんとも言えないが貯水率は50%あるかないかくらいであろうか。利水容量としてはまあまあ貯まっているように見え、雨もコンスタントに降っているので今のところ渇水の恐れはなさそうだ。物語は9月から10月であると思われるので、パルデアの気候がスペインのそれと同様であれば乾季が終わった頃であり、徐々に溜まり始めているものと思われる。

テーブル川の過去の姿と実は危機的なプラトタウン

 なるほど確かに淡水源としては機能しているように見えるが、リアルの世界のどこを探してもダムの上に首都を建設しようという奇特な人間集団は恐らく存在しない。故にまずテーブルシティがあり、その都市規模の成長に伴って周囲の川に手を加えて現在のダムの形にしたのだろう。つまり過去においては今ほど水が溜まらない川の形であったと考えられ、かなり大規模なダム化の工事があった可能性があり、水門に用いられる巨大な鉄塊や掘削など、恐らくパルデアエステートも深く関わっていたものと思われる。成り行きとは言え、非常に不思議な光景である。

 ではその前はどうだったのかと言えば、周囲の地形からはプラトタウン方面へ流れ出していた可能性が考えられる。

 何故かというと、テーブルシティの南は標高が下がるばかりだからである。今現在でさえ水門を開かず増水に任せてしまうと、まずはここからプラトタウン方面に一気に水が侵入することになってしまう。そしてプラトタウンから先への傾斜を辿ると、最小限に見積もってもコサジタウンとの境にある小川を下るが、この小川の排水力を上回った場合はコサジタウン東部の遺跡の辺りに達するルートまでが想定可能であり、当遺跡の放棄の原因である可能性もある。

 そういった視点から見ると、プラトタウンの池は当時の名残であり、過去の情報の皆無さについてもそもそも街自体がある時期まで存在していなかったためである可能性すら出てくる。コサジとテーブル間は西の高台の古城的建物があるくらいで、水の底だったとすれば、この地域の古代から中世にかけての情勢は地形からして異なっていたと想定しなければならない。

豊かな生態系が守られる下流域

 水門よりも海側を下流域とすると、まずは自然橋のような構造がある。人間が整備の手を加えるのであれば強度的に普通に橋をかけるであろうから、ここは自然の光景であることを疑わなくてよいだろう。故に、この流路はかなり昔から存在していると考えてよいと思われる。そしてその穴の削れ具合の高さからして、何度も莫大な水が流れていたこともわかり、水門とダムによる調整が必要であったことがわかる。

 また、感心するのは最下流には「遊水池」と思しきカラミンゴたちが生息する湿地が存在する点である。こちらも水門と併せて放水量の調整をしているものと思われる。裏手にはひそやかビーチもあり、観光資源とポケモンの生態系の両立を行っているように見える。(気になることとして、この湿地には簡単に人間が入り込めるようになっており、実際物好きのトレーナーが佇んでいるが、水門の緊急放水時などには警報鳴らしてくれるんだよな?という疑問はあるが…。)

 以上のように、そこらかしこで過去の治水の大失敗が垣間見えるパルデアにおいては、テーブル川の管理は、資源利用および環境の観点からして珍しくちゃんとしている。現代パルデア人たちは過去の失敗を踏まえて懸命に治水を行っていることがわかる。そしてこんな僻地にまで物語のバックグラウンドが作り込まれていることにも驚いてしまう。

テーブル川最上流の危機

パルデア南部にトドメを刺しかけた巨大オトシドリ

 ここまでの仮説から考えると、中世から近代以前のパルデア南部は水浸しであった可能性があり、何も語られないが現代のテーブル川は先人たちの治水による微妙なバランスによって維持されていることがわかる。そしてそれと同時に、主人公の旅する現代にも、破滅的な災害がこの川に訪れかけていたまた地味に描かれていたようである。

 それと言うのも、この川の最上流域の流路には丸い巨岩が積み重なっている様子が確認できる場所がある。ぬしポケモンと化したオトシドリが転がしまくっていた大岩がパチンコ玉のようにこの川に転がり込んで堰き止めつつあったということであろう。そしてこれはいわゆる「河道閉塞」と呼ばれる状態の悪化が進行している。だがこんな地味で、しかも空でも飛ばないとわからない、何も語られない状況をわざわざ描く必要がどこにあるかといえば、それは主人公の救世主としての姿を暗に描くためであると思われる。

 仮にあのまま巨大オトシドリが放置されてこの悪質な堰に更に巨岩と土砂が堆積し続け、大雨などの増水時に崩壊した場合、大規模な土石流が生じる可能性が非常に高かった。
 その時は下流のセルクルタウンとそのオリーブ畑はもちろん、テーブルシティの水門がすぐさま対応できなければプラトタウンまでが急激な水没の危険に晒されていたことになる。
その際の被害の悲惨さは、たびたび甚大な水害に見舞われる日本に住む我々にとっては想像に難くない。

 土石流は時に何百人もの人々を土砂水によって溺死だけでなく一瞬で打撲や圧迫によって死傷させ、汚水を拡散させて感染症リスクを振りまき、遺体を行方知れずにし、農地や動植物たちの営みも根底から消し去る。その回復には非常に長い時間を要し、そのまま放棄されてしまうこともある。

 平和そのものである菓子店ムクロジやオリーブころがしのオブジェのある穏やかな街並みが、住民やミニーブたちごと数分もしない内に押し流されていたifを考えるとゾッとしてしまう。また、テーブルシティから南西部への道が寸断されるため、パルデア全土への影響が出ることは不可避である。というか、今のままでも十分に危険であるので、あの岩石は早めに取り除いた方が良い。

 鳥が山から岩を転がすとプラトタウンが沈むという、悪質なバタフライ効果(物語とは書かれたものであるのでどちらかというとゲームフリークによる悪意あるルーブ・ゴールドバーグマシンと言った方が近い気はするが)である故に事前に気付かれるかも微妙なところであり、本能の故とは言ってもオトシドリのタチが悪すぎる。

 そして現実世界においても無数の支流を含む広大な水系でこの兆候を発見するのは大変なことであり、リスクのある各国は河川管理の担当当局を置いて常に監視を続けている。パルデアにおいても空でも飛ばないとわからないと言う状況は、その発見の困難さがモデルであろう。

 故に、パルデアが過去にオレンジ農園とブドウ農園を失っていたという仮説を採るならば、いわゆる四災に匹敵する規模の災害を未然に防いだ主人公は、意図せずパルデアに残された最後のオリーブの農園と、テーブル川の下流に住む非常に多くの人々とポケモンの命を救っていたと言える。地味に隠れた重大なサブストーリーである。

治水事業とパルデアエステート

パルデアエステートのイメージに現れる太陽信仰とオリーブ

 そして、川そのものの話ではないが、このパルデアで治水事業や区画整理を行うのであれば、関わっていないはずがないのが不動産業者のパルデアエステートである。小綺麗なビルを所有しているが、SF作品に登場させるには結構「シブい」業種である。

 他の地方の大企業のようにムゲンダイエネルギーだのワープだのマスターボールだのを作ってる方がゲームの設定的には華やかであるが、パルデアの最大の企業はどうやらポケモンにはあまり関係のなさそうな「リアルエステート」なのである。そして物語にも本当にほぼ関わってこない。しかし別の章でも述べるが、この企業にはパルデア古来のものかはわからないが農業に関連する太陽信仰をバックグラウンドに持っている節があり、ただの不動産業者ではない可能性が高い。

 まず第一に、ハッコウシティにある本社ビルから第五ビルまではすべて真東を背にしており、パルデアで最も東の地に陣取っている。そしてその本社ビルの前には彼らの会社の社章と思しきオブジェがあるが、六つに分かれている点などの細かい意図はわからないにしても、明らかに「日の出」のデザインである。(コンポステラの「帆立貝」に似ている点は見逃せないが、ここでは扱わない)

 そして極め付けは社長であるネアが最後の最後でオリーヴァを繰り出す点であり、単なる金持ちキャラの手持ちであればペルシアンなどがシリーズ恒例であるが、現段階でパルデア固有種かつ、ここまでの考察ではパルデアに最後に残された農園に生息するポケモンの最終進化系オリーヴァというのは非常に示唆的である。意外性も加味されるがやけに「品がある」と言える。

 彼女自身が直接的にセルクルタウンと関係しているのか不明だが、不動産業を営む一族がオリーブを象徴的に扱っている可能性があることは、セルクルタウンとの深い関係は確定的であり、オリーブ農園の庇護者としてこの大河に関わる諸々の計画に関わっているだけでなく、古代パルデア王国との連続性も見出せるかもしれない重要な点である。

そこまでリアルなエステート感出さなくていいから

 また、水害大国である日本の人間として見ると、コサジタウンとプラトタウンの格差が見えてくる。大企業役員の家もある風光明媚かつ高台のコサジタウンより、テーブル川横の低地にあたるプラトタウンの家の方が小さく地価も低そうな点は結構リアルである。プラトの人たちがちゃんと水害に対応した保険に入っているのか心配になる。(マクロコスモス生命はオフィス移転と前社長のやらかしの賠償金捻出で大変そうだし…)

 巨大な不動産屋が強調される今作において、パルデアエステートの営業マンと小さくても家を持ちたい零細サラリーマンがプラトの低地の危うい土地を掴まされる会話が聞こえてきそうである。この点ばかりはあくまでも単なる妄想であるが、物語でも屈指のイヤーな風景であるかもしれない。
住宅地を造成するために沼地の水溜まりを埋め立ててプラトタウン作って売ってたりしていそうだし、実際、ダム規模の大河の真横かつその水面から見積もり数メートル以上下の低地とか、ハザードマップ作ったら真っ赤も真っ赤では…法律はどうなっているんだ…。とは思ってしまう。人に金を払わせて住むことを勧めていい場所とはあまり思えない。

生成AIすごいな

 よりイヤなのはネアが当初その立場を明かしながら純粋な気持ちで「庶民をぶっ潰すザマスよォォ!」と公言していたところになんとなく企業体質が透けて見えてしまい、顧客のことはあんまり考えてなかったことに真実味があるところである。
 そういった意味で、パルデアの土地を支配し最大の資本を握るネアを改心させた主人公の功績もまた大きく、わりと現代のパルデア王を破滅から救ったのかもしれない。今後のパルデアエステートは無茶な開発をしなくなったりするかもしれないし、彼ら保有の物件の家賃も安くなるかもしれない。

不可解なベイクタウンの水事情

上水にも下水にも困っていない模様

 治水について色々と述べてきたが、ベイクタウンのある高台にも特質に値する水事情が見える。まず都市内を見ると、基本的に乾燥気味なパルデアでも珍しい整備されたマンホールと排水溝のグレッチングが見え、現代的な排水施設が備わっていることがわかる。
仮に排水管を麓まで通しているとすればそのメンテナンスが困難を極めることから、いわゆる浸透式の排水だろう。しかしそれなりの登山経験があればわかると思うが、標高の高い土地の水事情は基本的には悲惨な方に属す。物理的に考えていずれ染み出すセルクルタウンの農地に育つ農作物を守るためにも、高性能で衛生的な処理槽が付属しているのだろうと思うが、この点は過去のことを考えるとちょっとキツいので、ここらにしておく。

 そしてこれら排水施設はベイク高地の降雨が少なくないことも意味する。実際のところ、主人公が旅をする季節は常に南西からの風が吹いているが、大西洋に準えられる西パルデア海に現実の通り巨大な暖流があるならば、その湿った暖かい風はまずこの高台にぶつかり、降雨に至るはずである。そして豪華にも装飾的水路が都市内を巡り、各家にプールもあるなど、乾燥した高地のイメージとは真逆の水事情であるようだ。

 そんな水事情には、ベイクタウンの東にある険しい丘の上から湧き出る二つの水源も寄与しているだろう。そしてそこにはビシャビシャの斜塔という本当にわけのわからない物体が目に飛び込んでくる。

ビシャビシャの斜塔の「使い道」とは?

 こればかりはまともな結論が出せないと先に言っておくほどに不思議なものであるが、セルクルタウン側から見ると高台の丘からビシャビシャの塔の頭が少しだけ見える絶妙な配置となっており、ベイク側からは身を隠しつつテーブルシティ方面を偵察できる「物見塔」としては一応成立している。仮に過去にベイクタウンとそれら都市との対立関係があったのであれば、筋の通る用途である。だが傾いている上に隣に滝があるので文字通りビシャビシャに濡れており、登るにしても普通に考えて危険であり、真っ当な施設としては用をなしていない。

 それでも元々は見張用であったと考えるのであれば、最初に物見塔がここに置かれた時は水は流れていなかったとすべきだが、そうだとすれば何故あとから滝が生まれたのか。そもそも水が溜まるような下がった場所に建てたのは何故かということになる。先にも述べたが状況が特異的過ぎていて、よくわからない。何もかもが合理的ではないが、仮説を立ててみる。

 まず何かの「役に立つ」ことを意図されているのであれば前述の通り見張用だが、それならばやはりわざわざ掘り下げられた場所に建てる意味がわからない。仮にセルクルタウン方面を覗き見るとして、別にこの場所である必要がない。つまりここにある理由は別にあると見るべきである。

 次に、この斜塔が「何を為している」かである。実はこの斜塔側の滝の水の行き先はやけにちゃんと描かれている。これだけの水が降り注ぎながら溢れ出さないことにはちゃんと理由がつけられており、ベイク空洞内を降りていくと、マップ上ちょうどビシャビシャの斜塔の直下の岩壁にヒビが入り、水が染み出しているのである。

 要するに、斜塔の柱部分はそのドアのついた見た目から、内部は空洞であると思われる。つまり「管」として成立し「地下へ排水している」ということになる。これはかなり大雑把だが前述の浸透式の排水施設の機能そのものである。

図. ベイク高台の地下水の経路と断面図

 確かにロースト砂漠で転倒しているように、見張塔はそこまで深くは突き刺さっておらず引き抜けるようであるし、また古代遺跡と比べても緻密な石積みによって作られ、傾こうが時が経とうが少しでも崩れたり破損している例が一切ないことから、見た目に釣り合わない異常な堅固さが見て取れる。誰が作ったのかはよくわからないが、これをどこからか持ってきて、治水のために突き刺すことは十分に可能であると考えることができる。
ただ高台の水の不自然なほどの豊富さからしてある程度の排水の必要はわかるが、なぜこういった手段で排水しようとしたのかは謎である。強いて言うならば即時水を排出せねばならない緊急性があったのではないかと思うが、今のところ定かではない。ただひとまずは、現実として排水装置として動いていることだけが確かである。もしもそれがベイクタウンの人々にとって不都合ならば撤去するなりしているだろう。

 では例にならって、もしも排水していなかったらどうなるのかを想定すると、恐らく一部は高台の上を水浸しにし、大半は岩壁を下ってセルクルタウンの南を流れるテーブル川(前述の通り仮称である)に合流する。するとテーブルシティへ流れる平常時の水量が多くなるのでダムに求められる貯水量は大きくなるし、ダムのない時代であれば治水の難易度は上がる。

 そこでまず考えられることは、このベイク高台の北側の水源については、過去には河川であったがセルクルタウンからテーブルシティ、プラトタウンの洪水対策のために、廃河川とされた可能性である。ということは、この「工事」が行われた時代は、王国滅亡後のパルデア割拠説に立っても少なくともベイクとテーブルが対立していない時代と言うことができ、パルデア南部を挙げた河川整備という公共事業であったのではないか。
まとめると、ビシャビシャの斜塔の有様が人為的なものと考える限り、ベイク高台の水捌けと麓の治水が意図されているということが言える。そしてこのベイク北側の水源が過去においてテーブル川の水系の一部であった可能性があるということでもある。

高台南側の半端な登山道は何を意味するのか?

 また、高台の南側から湧き南パルデア海へ流れる川についても、高台が内部に抱える地下水であろうから、この高台の内部自体がビシャビシャなのだろう。そして高台の南側の岩壁からセルクルタウンにかけては、どうも通路の残骸が見られ、道自体は存在していたように見えるのに、ライドポケモンでもジャンプや通行が非常に困難な半端な地形が存在している。また麓を見ると、地面ごと崩れて途切れてしまったか、橋がかかっていたかのどちらかしか説明のつけにくい箇所もあり、過去には海側のようにもう少しまともな自然的な陸路があったが、取り崩されたか、崩落したため放棄されたのではないか。

 この章は水に関することであるので、後者の原因を水によるものであったと仮定する。まあ現時点では正直どうとでも考えられるので、適当な仮説の一つを提示すると例えば次のようになる。

  1. 元々南側には高台へ登る陸路があった。

  2. ある時高台で大量の水が湧いてしまった。

  3. 溢れた水が南側の陸路を崩落させた。

  4. 応急処置で北側の岩壁に穴を開け、南側から放出される水量を減らした。

  5. 北側へ流出を防ぐため緊急的に見張塔を突き刺し空洞内へ排水を試みた。

  6. ある程度の効果を得て現代に至る。

 まあ何とでも言える。そして問題はそこではない。何が問題かと言えば、水の湧き方である。個人的にも「まあゲームだしな…」と思い違和感を抱くことがなくなっていたが、そもそもゲームとは言え「山頂から自噴している」というのはかなり珍しい水の湧き方である。その上、大農園とダムを成立させるほどの水量が定常的に流れ出すような自噴現象は恐らく我々の世界では存在しない。だが同じような水の湧き方はパルデア半島の至る所で確認できる。
 しかし考えれば考えるほどに不自然な光景であり、誤魔化し様などいくらでもあるはずだが流石に製作者たちも堂々とし過ぎている。これを本当にゲームのモデリング上のデフォルメの都合の話で片づけてよいのだろうか?

パルデア各地の水の自噴現象の原動力は「重力ポンプ」?

 繰り返すが「半島のそこら中で水が自噴している」現象そのものが異常事態なのである。フリッジタウンからの川など、一見雪解け水のように見せて物語の季節は秋であるし、だいたいその水だって岩の中から流れ出している。そして恐らく、これを説明するにはパルデアの大穴に立ち返らねばならない。

 パルデアの歴史①から③でひとまず当たりをつけた仮説において、穴の中はどうも通常とは異なる程度の質量のある何かが存在しているような気配があることは述べた。物理学的な理屈をつけるには全く至っていないので詳細は置かざるを得ないが、大穴内の金属プレートに我々の世界におけるロジャー・ペンローズ博士が扱った光円錐やブラックホールの構造図に酷似したものが残されている点からしても、最終的にはいわゆる特異点のようなものを発生させ得る何かが地中に生じていると考えることができそうなのである。

 つまり、二百万年前に半島中央の地下に生じた莫大な質量を持った何かによって大穴が生じ、崩壊が何度かにわたって起こっているのはその現象が進行しているからで、これが一部事情を知るものたちが注視している世界の存亡の危機であり、本章のテーマの「治水」の観点から言えば、パルデア半島の地下深くの「帯水層」がこの何かに異常な圧力を受けて、地下水が逆流し各地で一見不自然に水が噴き出しているとすれば、見れば見るほど不可解な自噴的な現象に一応の説明をつけることができる。

 ここから考えると、パルデア半島は中央に向かって沈み込むように歪んでいる可能性があり、全体として見ると「重力ポンプ」によって半島内で水が循環している可能性もある。ただし、今は何かしらの理由で止まっているようだが、何か状況が悪化してこの謎の質量の大きなものがあまりにも大きくなっていくと、すべてが崩壊する瞬間が来ることも十分に考えられる。
 主人公らが救世主としてこの物語に現れているのであれば、彼らが防いでいるものは彼らが意識する以上に大きいものなのかもしれない。

図. 異常自噴の仮説図(地表から浸透する水は省略している)

おわり

 以上、パルデアにおける主要な河川の変遷を前後編で考察した。次回は各遺跡と四災の関係を考えたい。

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